奥様は魔女  フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』
448862507X妻という名の魔女たち
フリッツ ライバー Fritz Leiber 大滝 啓裕
東京創元社 2003-12

by G-Tools

 大学教授のノーマン・セイラーは、大学町ヘンプネルに来てから、人生が順風満帆に進んでいると感じていました。これも妻のタンジイの内助の功のおかげだ…。しかし、ある日ふと、妻の部屋の引出しを開けると、次々とあらわれたのは、魔術の小道具! 妻は、この魔術でノーマンを守っていたというのです。ノイローゼだと一笑に付し、妻にそれらの魔術をやめさせた途端に、ノーマンの身に災難が次々とふりかかりはじめます。そして、妻自身も姿を消してしまうのです。本当に魔術は存在するのだろうか? 妻は他のだれかの魔術にとらわれてしまったのだろうか?
 フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』(大滝啓裕訳)は、妻が魔女だったら?という設定を、大真面目に書いてしまった作品です。あらすじからは、コメディにしかならないような話に思えるのですが、これが最後まで、かなりシリアスに描かれています。
 一番のポイントは、作品全体が、ノーマンの視点から語られているところでしょう。合理的で「迷信」を信じないノーマンは、超自然的な災難がふりかかっても、飽くまで魔術の存在を認めようとはしません。後半で、ノーマンは、自ら魔術を行う羽目に陥るのですが、その際にも、妻のために形式的におこなうだけだと、自らを納得させる始末。
 懐疑的なノーマンの視点から、物語が語られることによって、読者は、魔術が本当に存在するのか、すべては妻の妄想なのか? という疑問を抱かせられる仕組みになっています。
 あとユニークなのは、魔術の設定です。魔術も科学と同じく、それなりの合理性に基づく公式があり、しかも時代とともに変化する、というのです。古代から伝わる魔術をそのまま実践しても、何か変更点があった場合には、効力がうすれてしまう。実際、主人公も魔術のやり方を公式にまとめ、一般化した効果的な手段を探すという展開になります。ここのところをもうちょっと詳しく描写して、魔術合戦の趣にしたら、さらに面白くなったかもしれません。
 ただ、書かれたのが、1940年代のため、作品の背景が多少古くなっているところがあります。基本的に、登場する男性はすべて「合理的」で、女性は「迷信的」というところも、ちょっと引っかかる読者もいるかも。まあこれは、物語の設定上、風刺として描かれている節もあります。
 本来ファンタジーになる素材をホラーとして語ってみた、という印象の強い作品です。語り方ひとつで、ジャンルはファンタジーにもホラーにもなる…ということを気付かせてくれる点で、ジャンルについて興味のある読者にも楽しめる作品でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

『奥さまは魔女』『可愛い魔女ジニー』とくればお茶目な感じですが、主人公がすごく懐疑的な目線
なのでダークへダークへと不安な方向へと進んでいきますよね。(実際そうなのですが)
登場上の妻たちがやっていることって、たわいも無いことというか、その旦那さん側からみると
彼女たちは日本でいう”あげまん”じゃないのか?という気もするのですが・・・。
ラストがハッピーエンドなので「魔女といわれても許しましょう。」と思うのです。
【2006/12/14 20:10】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

ダークです
そうそう、奥さんたちがやっていることも、魔術とはいえ、大したことないような気もします。
でも、主人公があくまで魔術を否定するスタンスなので、なぜかダークな方向に進んできますね。ファンタジーやコメディに変化しそうなストーリーを、無理にホラーに軌道修正している、という感じを受けました。
傑作とはいえないけれど、妙に心に残る作品ではありますね。
【2006/12/14 22:21】 URL | kazuou #- [ 編集]

マイ・ベスト・ホラー
大好きな作品です。どういうわけかライバーのSF作品はほとんど読んでいないので、ライバーといえば『妻という名の魔女たち』。内容はほとんど忘れていても、常にマイ・ベスト・ホラーの上位に位置します。
ところで2003年に再刊された文庫本がもう新刊では入手できないんですね。よほど売れてない?
【2006/12/14 22:33】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

そうなんですか
ええっ、もう品切れなんですか。
今回の再刊本は、表紙もけっこう綺麗でしゃれた感じだったんですけどね。
ライバーの作品はいくつか読んでるんですが、どれもピンとこないものが多いです。ジャンルのフォーマットから微妙にずれているというか、どれも変なところで不器用な感じを受ける作品が多いように思います。『闇の聖母』『闇よ!つどえ』なんか、そうでしたね(「闇」ばっかですね(笑))。
短編はけっこう面白いものも多いので、基本的にこの作家、長編の構成力が弱いんだと思います。それでもこの『妻という名の魔女たち』は、いちばん読みやすいし、なかなかの佳作だと思います。
【2006/12/14 22:58】 URL | kazuou #- [ 編集]

ん…?
あ、いや、この記事の画像をクリックしてアマゾンにいったらユーズド価格1890円だったので…
新刊では売っていないということですよね、これって。
【2006/12/14 23:31】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

みたいです
Amazonの場合は、単にAmazon内の在庫が切れただけでも、マーケットプレイス(中古本)の値段が突然はね上がることがあります…。で、他の新刊販売サイトに行ってみましたが、やっぱり版元からして品切れ状態みたいですね。
ユーズド価格1890円だと、下手するとサンリオSF文庫版が買えちゃいますね。
【2006/12/15 06:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

高いですね
うわ!1890円だとサンリオの方が安いですよ。
文字は新しいだけあって、創元の方が見やすいのでいいとは思いますが。
【2006/12/15 14:32】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

そういえば
同じライバーのファファード&グレイ・マウザーシリーズでもこの本と同じような設定の話がありました。
ある意味ライバーって、自分の願望を小説にしていただけっていうような感じもありますね。
【2006/12/15 15:11】 URL | Takeman #- [ 編集]

>shenさん
やっぱりサンリオの方が安いですか。まあ、この作品はサンリオでは、わりとよく見る本ではありましたが、復刊されるまでは、やっぱりけっこう高かったです。
創元版は、文字も見やすいし、装丁もよかったです。
【2006/12/15 21:37】 URL | kazuou #- [ 編集]

>Takemanさん
そうなんですか。ファファード&グレイ・マウザーは、何編か読んで、肌合いが合わなかったので、読んでないんですよね。
なるほど、自分の願望ですか。ライバーって、見かけよりも不器用な作家なのかもしれません。
【2006/12/15 21:39】 URL | kazuou #- [ 編集]

サンリオ!
サンリオ文庫を新刊で買っていた身としては、ちょっと悔しい状況です。
【2006/12/15 22:58】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

ずいぶんと…
サンリオSF文庫も一時期はとんでもない値段がついていましたが、最近は落ち着いてきましたね。だいぶ復刊されたものもありますし。
それでも、一部の書目は今でもとんでもない値段がついているものもあって、侮れません。トム・リーミイ『サンディエゴ・ライトフット・スー』、アルフレッド・ジャリ『馬的思考』あたりは、まだまだ高いですね。リーミイは万単位の値段がついていることもあります。
【2006/12/16 07:12】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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