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無残な物語  ペトリュス・ボレル『シャンパヴェール -悖徳物語-』
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 フランスの小ロマン派の作家ペトリュス・ボレル(1809-1859)の『シャンパヴェール -悖徳物語-』(金子博訳 南柯書局)は、様々な形で残酷な運命を迎える人々の物語を集めた短篇集です。
 何の罪もないのに一方的に不幸な運命に襲われたり、嫉妬や絶望から破滅的な運命を選んでしまったりと、時代や形は異なれど、残酷な運命に襲われた人々を描く連作短篇集です。
 作品集自体が、自殺したシャンパヴェール青年(彼がペトリュス・ボレルの名を名乗っているというのです)の遺稿集という体裁を取っています。最初の「シャンパヴェールについての覚書」では、彼の知己によりシャンパヴェールの人となりが語られ、さらに巻末の短篇「狼狂シャンパヴェール」では、彼が死に至った運命が語られるという趣向です。

 貧窮する無垢な娘が襲われ、冤罪で死刑にまでなってしまうという「訴追官ドゥ・ラルジャンティエール氏」、友人が妻と浮気をしているという疑念から殺し合いにまで発展してしまう「大工ハケス・バラオウ」 、不貞を繰り返した若妻に異常な方法で復讐する解剖学者を描いた「解剖学者ドン・アンドレア・ベサリウス」、命の恩人である魔術師の男と彼を殺そうとする恋人との間で引き裂かれる娘を描いた「魔術師三本指のジャック」 、ユダヤ人の美しい娘と彼女と結婚した貴族の青年の悲しい運命を描く「猶太美女ディナ」 、恋人の裏切りを知った青年が自暴自棄になり破滅してしまう「学生パスロ」 、死を求める青年が恋人と共に凄惨な死を遂げる「狼狂シャンパヴェール」を収録しています。

 主人公やその恋人たちが不幸な目に会い、大体において死に追いやられてしまう…というパターンが繰り返される、徹底してダークな色彩の連作短篇集になっています。主人公たちを不幸な目に追いやる悪人たちは全く罰を受けないどころか、その罪が社会的に認知さえされないあたりも強烈ですね。
 「不幸」が物語の主要な人物によって起こされるのではなく、突然現れた「脇役」によってなされることすらあり、その救いのなさには驚かされてしまいます。

 巻末の「狼狂シャンパヴェール」は、シャンパヴェールが死に至る運命を描いた作品なのですが、この作品に至っては、他作品にはあった「物語」すらなく、シャンパヴェールとその恋人が死に至る凄惨な情景のみが描かれています。

 「解剖学者ドン・アンドレア・ベサリウス」は、澁澤龍彦の翻訳があり、アンソロジーに収録されることも多いです。ボレル作品では一番有名なものでしょうか。
 迷信深い民衆によって妖術師とも称される解剖学者ドン・アンドレア・ベサリウス。老人となったベサリウスには若く美しい妻マリアがいました。
 体調を崩し死を覚悟したマリアは、今まで何人かの男と不貞の行為があったことを夫に打ち明けます。しかし男たちは一回の逢瀬のあと、皆が姿を消してしまったというのです。話を聞いたベサリウスは、妻をある部屋に連れていこうとしますが…。
 他作品同様、「嫌な話」ではあるのですが、裏切られた主人公の「復讐」が成就するあたりに、多少のカタルシスがある作品ともなっています。エンターテインメント性があるといってもいいでしょうか。澁澤龍彦がこの『シャンパヴェール』からこの作品を選んで翻訳したのは、このあたりに原因があるような気もしますね。

 全ての収録作において、不幸な結末を迎える「嫌な話」のオンパレードといった作品集で、19世紀前半という刊行年代を考えると、当時はかなり衝撃的な作品集だったのではないでしょうか。

 ちなみに、この南柯書局版の『シャンパヴェール -悖徳物語-』、ペトリュス・ボレル小説全集の第一巻と銘打たれていますが、結局続刊は出ませんでした。第二巻は『ピュティファル夫人』が予定されていたようです。《世界幻想文学大系》の一冊として『シャンパヴェール悖徳物語』(川口顕弘訳 国書刊行会)という翻訳も出ています。読みやすさでは、南柯書局版の方が優れているように思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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