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ありえない冒険  ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー『ほら吹き男爵の冒険』
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 ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー『ほら吹き男爵の冒険』(酒寄進一訳 光文社古典新訳文庫)は、ミュンヒハウゼン男爵の奇想天外な体験を描く、ファンタスティックな冒険小説です。

 ドイツの詩人・作家ビュルガー(1747-1794)の手になる作品なのですが、その成立の由来が興味深いです。もともと実在したミュンヒハウゼン男爵の体験談に尾ひれがつき、彼をモデルにした物語群が現れます。ドイツの作家ラスペがそれらの物語を元にして「ほら吹き男爵」の物語『マンチョーゼン男爵のロシアの奇妙な旅と戦役の話』をイギリスで刊行します。
 それを逆輸入する形で翻訳したのが『ほら吹き男爵の冒険』なのです。しかも、翻訳の際に相当の翻案を加えているのだといいます。

 ロシア帝国に仕官し、トルコに対する戦争に従軍した…というのは、実在のミュンヒハウゼン男爵の行跡をたどってはいるのですが、作中の男爵が語る内容は奇想天外、現実にはありえないような事態が次々と起こるという、まさに「ほら話」です。
 餌にしたベーコンが鳥のお尻から出てきて何羽もつながって取れたとか、チェリーの種を弾丸としてシカに撃ちこんだら数年後に頭から桜の木が生えてきたとか、読んでいて唖然としてしまうのと同時に、そのとんでもなさに笑ってしまいます。
 男爵が砲弾に乗って移動している最中に、向かい側から飛んできた砲弾に乗り換えて帰ってくるなど、物理法則を完全に無視した現象が語られるあたりは、ものすごくシュールですね。
 全体がいくつかの章に分かれており、それぞれの章が短いエピソードの集積で出来ているのですが、さらに短いエピソードの中でも信じられないような「ほら」がいくつも登場し、それが巻末まで続くというハイテンションな作りになっています。

 後半では、男爵本人のみならず、ものすごい速度で走れる男や桁違いの力持ち、地獄耳の男など、常識外れの能力を持つ家来を従えての活躍が語られ、民話的な要素も強くなってきますね。舞台も世界各地、果ては地球の真ん中を突っ切ったり、月にまで行ってしまうなど「ほら」の度合いも高くなっています。
 現代でも気軽に読めて楽しめる、愉快なユーモア小説ですね。

 ちなみに、主人公のモデルとなった、実在の人物ミュンヒハウゼン男爵ヒエロニュムス・カール・フリードリヒが存命のうちに、この作品を含めた「ほら男爵冒険譚」が出ているのもすごいなと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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