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すれ違う物語  J・ロバート・レノン『楽園で会いましょう』
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 J・ロバート・レノンの短篇集『楽園で会いましょう』(李春喜訳 大阪教育図書)は、<奇妙な味>風味の強い短篇集です。

 別世界への扉を見つけた家族の物語「ポータル」、養子斡旋をめぐって対立する二組の夫婦が描かれる「虚ろな生」、資産家の娘に恋した男が娘の父親から僻地の島に赴任を命ぜられてしまう「楽園で会いましょう」、事故で車椅子生活になった夫とその妻の日常が描かれる「鉄板焼きグリル」、死んだ後に生き返った青年ダンが周囲を困惑させていく「ゾンビ人間ダン」、障害のあるらしい兄妹の経営するレストランを訪れた夫婦の勘違いから事件が起こってしまう「バック・スノート・レストランの嵐の夜」、鬱気味の妻が抜け殻となった体を残して分裂し、明るい性格になるという「生霊」、物語の萌芽が短い断章で語られる「呪われた断章」、自分勝手で風変わりな男ウェバーとルームメイトになった男の人生の変転を描く「ウェバーの頭部」、ベビーシッターの女性が雇い主の夫妻の死を知らされる「エクスタシー」、妻から別れを切り出された夫が娘二人と共に最後の家族旅行に出かける「一九八七年の救いのない屈辱」、母親危篤の報を受けてかけつけた息子の奇妙な旅路が語られる「フライト」、風変わりな教師が衝動的に学校をやめると言い残し、元妻の家に娘に会いに行くという「未来日記」、元妻から愛犬のお別れの会に招待された男とその妻を描く「お別れ、バウンダー」を収録しています。

 収録作共通のテーマを上げてみるならば、人間同士のコミュニケーションの難しさを描いた作品群、といえるでしょうか。家族や夫婦、恋人、友人など、意思の疎通や関係性が上手くいかず、その関係が壊れてしまったり、あるいはその関係性の再生を予感させる作品もあります。
 コミュニケーション不全を強調するためか、主人公となる人物は風変わりで、流されやすい男性に設定されていることが多いです。
 例えば「楽園で会いましょう」は、資産家の娘シンシアに恋した男ブラントが主人公。シンシアの父親から遠い僻地の島への赴任を命じられ、言われるがままに現地に飛びますが結局は娘側には大した愛情はなく、弄ばれていただけだった…という物語です。
 「未来日記」では、自分の提案を却下された小学校教師のルーサーが衝動的に学校を辞めると言い残し、娘に会うために、元妻の家に無断で侵入してしまいます。徹底して自分勝手な主人公なのですが、それを優しく迎える娘や彼の性格を理解してくれる現恋人がいたりと、優しい雰囲気の物語とはなっていますね。

 行きずりに出会った人々の間の齟齬が描かれる作品というのもあります。「バック・スノート・レストランの嵐の夜」では、親からレストランを受け継ぎ、形だけ経営を続けている知的障害のあるらしい兄妹ブルースとヘザーが描かれます。
 ある夜、激しい雨風を避けて店に入ってきたファーンとロイ夫妻は、ブルースの動作を誤解し、事件を起こしてしまうことになります…。
 一見不気味ながら、実は心優しい兄妹が、ふとしたことから、客の夫婦に危険な人物と勘違いされてしまう、という物語です。客の片方ファーンにも精神的なトラウマがあることが匂わされていますね。これなどもコミュニケーションの齟齬を描いた作品といえるでしょうか。シリアスに描かれているので、より結末の悲劇性が際立っています。

 超自然的な要素のある作品もいくつかあって、その変わった設定によって逆にテーマが浮き彫りになってくる…という部分もあります。
 「ポータル」は、別世界への扉を見つけた家族が描かれる物語。引っ越した新居の裏庭で、子どもたちが見つけた不思議な扉は、別世界につながる魔法のポータルでした。
 最初は現実世界とごく少しの差異しかない世界と思われましたが、入る度にそこは違う世界で、段々と現実世界とかけ離れた世界につながることになります…。
 家族での異世界探索が繰り返され、そこに家族の絆の深まりのようなものが見られる一方、現実世界では、子どもたちは独立心を深めていき、夫婦仲もぎこちなくなってくる、という家族間のコミュニケーション不全が描かれます。
 別世界への扉が家族をつなぎ止めているのか、それともそれこそが家族を離していくことになった原因なのか…。いろいろと考えさせる作品ですね。
 「ゾンビ人間ダン」は、死んだ人間の蘇生が可能になった世界を舞台にした作品。溺死した青年ダンは母親の意向によって蘇ることになります。母親はダンのかっての友人たちに、彼の社会復帰のリハビリの手伝いをしてほしいと声をかけますが、すでに友人たちとダンとの間には大きな溝ができていました…。
 一方的な都合で息子に向き合っていた母親、享楽的な行為にふける元友人たち…。彼らは社会的に忌まれる「ゾンビ」となった青年とそう違いはないのではないか、という社会諷刺的な視点もある作品となっています。
 「生霊」は、分身テーマの幻想小説。鬱気味で暗い性格の妻ロリーンは、ある日突然明るい性格になり夫のカールを驚かせます。妻の出かけた後、彼女の部屋には抜け殻のような体が残されていました。どうやら妻は抜け殻を切り離すことによって、明るさを手に入れたようなのですが…。
 暗い性格の半身を切り離すことができるようになった妻の物語です。しかし明るいだけのその女性は完全な人間とはいえないようで…。半身同士の不思議な融合が描かれる結末も魅力的ですね。ユニークな「分身」小説です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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