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クトゥルフのいる情景  杉村修『幻想とクトゥルフの雫』
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 杉村修『幻想とクトゥルフの雫』(ツーワンライフ)は、クトゥルフ神話的な要素を取り入れたSF・幻想短篇集です。
 巻末の「死ぬ火星」が全体の半分を占める長めの作品なのですが、それ以外はショートショートといっていい、ごく短い物語になっています。

 クトゥルフ神話的な要素が使われているといっても、いわゆる「クトゥルフ神話作品」の型に沿ったものは少なく、飽くまで味付けやモチーフとして使われたり、神話の神々を登場人物として流用したり、といった感じになっています。
 ですので、邪神に触れて主人公が発狂してしまう…というような、ダークで深刻なお話にはなっておらず、楽しく読めるショートショート集といった趣になっていますね。
 クトゥルフ神話の邪神たちが登場する場合でも、お茶目な使い方をされていたりするところに新鮮な驚きがあります。

 特に面白く読んだのは、「障がい者が障がい者として生きられる町」「ロスト・ブルースフィア」「今日は特別な日だ」「死ぬ火星」などでしょうか。

 「障がい者が障がい者として生きられる町」は、住民の三分の一が障がい者だという町を描いた作品。国によって実験的に作られたその町は、障がい者が暮らしやすい町だというのですが…。
 事故が起こりそうになっても、皆の協力でそれを防いでしまうなど、ある種の理想の町が描かれるのですが、そこに実は隠されたデータがあった…という不穏なお話です。

 「ロスト・ブルースフィア」は、異星人の目から地球の人類の様子が語られるという作品。何百光年も離れた星から地球を観察する異星人のケールとサリガー。地球人たちは進歩を続けますが、やがて巨大な人工知能に支配されてしまいます。やがてそれに対抗する別の人工知能を生み出しますが…。
 人類の歴史も異星人にとってはそう長い時間ではなかった…というスケールの大きな時間感覚が語られます。相対的な視点が面白いですね。

 「今日は特別な日だ」は、不思議なボイスレコーダーをめぐる物語。裕太が手に入れたボイスレコーダーには「声」が入っており、裕太はその声をアリスと名付けます。彼女と会話を交わすようになりますが、たまにしか質問の答えをを返してくれません。
 アリスはたびたび不思議な呪文のようなものを唱えていましたが…。
 アリスはなぜレコーダー内に囚われているのか?彼女の目的は…?ブラックな展開が面白いですね。

 「死ぬ火星」は集中で一番長い力作。火星に暮らす少年ユウは、天才児の一人として頭にマイクロチップを埋め込まれており、そこには特殊なAIが収められていました。同じく天文学の天才児である親友真矢と日々を過ごしていましたが、ある日ユウは頭の中に直接呼びかける声を聞きます。
 ユウのことを「ノア」と呼ぶその声によれば、近くで超新星爆発があり、それによるガンマ線バーストが火星を襲うというのです。世間のニュースによればその猶予は数年であり、深刻な事態にはならないというのが大方の意見でしたが、声は猶予は三ヶ月しかなく、ほぼ確実に人類は滅ぶというのです。
 ただし、ある星を見つければ助かることができるといいます。ユウと真矢は必死でその星を見つけようとしますが…。
 人類の滅亡を防ごうと奔走する少年たちが描かれるSF作品です。人類滅亡とその救済策にクトゥルフの神々が関わっており、それに選ばれた少年たちが努力を続けることになります。
 登場する「邪神」が意外と人間に協力的であるのも面白いところですね。破滅を前にしながらも、どこか澄んだ世界観とリリカルな雰囲気があり、魅力的な作品となっています。



テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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