死んでも愛してる  マテオ・ヒル監督『エル・タロット』
B000IHXTYYスパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット
ホルディ・ダウデール; フアン・ホセ・バイェスタ; ナタリア・ミヤン マテオ・ヒル
video maker(VC/DAS)(D) 2006-11-24

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 年上の謎めいた女性に憧れる少年、というのは、よくあるテーマですが、〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、マテオ・ヒル監督『エル・タロット』もそのテーマをうまく使った佳作です。
 初老の作家トマスは、40数年ぶりに故郷の町に帰ってきます。田園地帯だった町は、すっかり近代化されていましたが、丘の上の家だけは、町を離れたときのまま。かって、その家に住んでいた女性モイラと、トマスは恋愛関係にあったのです。
 好奇心から、魔女の噂をたてられている女性を見ようと、友人たちと丘の上の家を訪れたトマスは、ふとした拍子で転び、気絶してしまいます。そこに住む女性モイラに介抱されたのをきっかけに、トマスは彼女に恋心を抱きます。しかし、町の人間は、モイラを淫らな女だとして、軽蔑の念を隠そうともしません。
 人々の噂など信じなかったトマスでしたが、やがて嫉妬の念から、隠れた男がいるのではないかと、疑心暗鬼に駆られます。夜に合うことを頑なに拒むモイラの態度をいぶかしんだトマスは、意を決して深夜モイラの家に出かけます。そこでトマスが見たものとは…。
 ホラー映画シリーズの一編ながら、後半ギリギリまで、とくに超自然的なことは起こりません。主人公が見る幻影、象徴的なシーンなど、ツボとなるポイントはあるものの、基本的には年上の女性を恋する少年の視点で物語は進みます。
 前近代的な村、宗教心の強い人々、異様に潔癖な母親など、モイラとトマスの恋の障害となる舞台設定は細かくできています。男女の仲になりながらも、何かを隠し続けるモイラに対し、トマスが疑心暗鬼になってゆく過程も説得力豊かに描かれます。
 交互にあらわれる年老いたトマスのパートから、件の女性モイラがすでに死んでいることはわかるのですが、それがなぜ起こったのか、トマスとの恋の行方はどうなったのか?というサスペンス風味も用意されています。
 後半に起こる惨劇シーンも直接的な描写を避けて、暗示や象徴でうまくまとめており、淡い恋物語のトーンをうまく崩すことなく物語を構成しているのには、感心しました。それだけに、最後の最後で起こる超自然的なシーンのインパクトが強く感じられる仕組みになっています。
 青春物語としても秀逸な、異色のホラー作品です。
この記事に対するコメント
迷跡
これです、WOWOWで観た〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉4本中ベストは。
老作家が少年時代に強烈な体験をして後にした故郷を再訪するという設定はスティーヴン・キングなんかにもよくあるパターンですが、ノスタルジィと過去の記憶の再構成がホラーに奥行きを与えますよね。この映画はそれにふさわしいきれいな映像だったと思います。ラストも原因・結果が円環的になり、理屈ではなく納得してしまったりして。
欲を言えば、少年時代にタロットのリーディングで未来が暗示され、ふりかえってみるとそのとおりの生涯をたどっていたというような仕掛けも(淡く)あればよかったのにとタロット愛好者は思うのでした。
【2006/11/28 21:30】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

佳作でしたね
超自然現象が起こりそうで、なかなか起こらないところが、もどかしいのですが、見終わってみると、なかなか面白い作品ではありました。
ホラー的な要素うんぬんよりも、罪の意識に苦しめられる老人の過去に何が起こったのか、というミステリ的な方に興味を惹かれましたね。ループする結末も、個人的に好みでした。
タロットカードに関しては、小道具的な使い方しかされていなくて、もっと作品の筋にからめるやり方もあったんじゃないか、とは感じました。
【2006/11/28 21:49】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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