 グードルン・パウゼヴァング『最後の子どもたち』(高田ゆみ子訳 小学館)は、原爆が落とされた西ドイツの町を舞台にした、ディザスター(大災害)小説です。
西ドイツのフランクフルトに暮らす少年ロランドとその家族は母方の祖父母のいるシェーベンボルンへ出かけますが、車で走行中に閃光と轟音に襲われます。父クラウスと母インゲは、どこかの町に原爆が投下されたことを悟ります。 シェーベンボルンに着くと、祖父母はフルダに出かけていたことを知らされます。フルダはおそらく核攻撃の直撃を受けていたのです。一家は祖父母の家に留まりますが、やがてテレビやラジオも止まり、救援もない中、食料がなくなっていきます。 周囲では負傷者や家族を失ったものが増え始めていました。爆発で直接怪我をしたもののほか、放射能障害や後から発生する疫病で命を落とす者も現れます。 ロランドは病院でけが人の手伝いを行っていましたが、瀕死の女性から幼い娘ジルケと息子イェンスを託されてしまいます…。
ドイツの作家パウゼヴァングによる、核災害を扱った作品です。1983年の発表で、まだ冷戦下にあった西ドイツを舞台に、実際に核が落とされたらどうなるのか? というところがリアルに描かれています。 国同士の関係性やどのようにして核攻撃にまで至ったのか、といった政治的な状況はほとんど語られず、あくまで核攻撃を受けた後の町や人々の様子がリアルな様子で語られていくことになります。 放射能の被害がすさまじく、人々が次々に死んでしまいます。離れたところにいたはずのロランドの一家も間接的な被害を受けており、家族たちもだんだんと亡くなってしまうのです。
食料や物資が無くなり、人々はそれをめぐって争いにもなってしまいますが、ロランドや母インゲは他人を助けるべきだとボランティアを手伝う一方、父クラウスは家族を優先すべきだとして、家族内でも対立ができてしまいます。 母インゲの意志の強さは強烈で、壊滅したのが確実な町がまだ存在していると信じ込むなど、妄執に近い思いを抱いており、それは家族を危険にさらすことにもつながっていきます。 善人であるロランドの一家にしてから、他人も助けたいという善意を発揮する一方、時には盗みを働いたり、けが人を見捨てていくこともあります。それは他の人間も同様で、パニックの最中の、人間の善性と悪性もが等しく描かれており、重厚な読み味となっています。
主人公の家族たちにも容赦なく死が襲い掛かり、子どもたちも死んでしまうという、強烈な作品です。原爆や放射能の恐ろしさを描くという意味では、これほど恐ろしい作品はないでしょう。 ドイツ作品ということもあるのでしょうが、これを読むと、英米の同種の作品がいかにロマンティックだったか…ということを逆に認識させられます。傑作だとは思いますが、あまりに救いがないので、安易にお勧めしかねる作品ではありますね。
テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
|