死んでみればわかること  ジョン・メイブリー監督『ジャケット』
B000H5U25Gジャケット
キーラ・ナイトレイ ジョン・メイブリー エイドリアン・ブロディ
松竹 2006-10-28

by G-Tools

 タイムトラベルと切ないラブロマンスとは、相性がいいらしく、傑作も多数あります。ジョン・メイブリー監督『ジャケット』(2005 アメリカ)も、その例にもれません。
 1992年、湾岸戦争で頭に重傷を負ったジャック・スタークスは、奇跡的に命をとりとめたものの、後遺症の記憶障害に悩まされていました。
 ヒッチハイクで旅をしていたジャックは、道ばたである母娘に出会います。故障した車の前で酔いつぶれている母親、それとは対照的な素直な幼女ジャッキー。車を修理してやったジャックは、ジャッキーにねだられて、自分の認識票をプレゼントします。
 その後、別の男の車にのせてもらったジャックは、後ろから警察の車に呼び止められます。運転手の男は、突然警察に発砲し、ジャックはその際に意識を失います。
 目覚めたジャックは、警官殺しの罪で裁判にかけられてしまいます。心神喪失で無罪とされたものの、精神病院に収容されてしまうのです。しかも、ジャックの治療を担当することになったベッカー医師は、急進的な男。治療と称して、薬漬けにされたジャックは「ジャケット」(拘束衣)を着せられ、地下の死体安置所の引き出しに閉じ込められてしまいます。
 引き出しの中で、過去の記憶のフラッシュバックに悩まされるジャックが気づくと、そこはさびれたレストランの前。ウエイトレスの女性は、所在なさげなジャックを見かね、家に招待します。その女性の部屋でジャックが見つけた物は、以前ジャックが幼女にあげた認識票、そしてあの母娘の写真でした。
 ジャックは、女性から驚くべきことを聞き出します。今が2007年であること、目の前の女性はかって出会った幼女ジャッキーであること、母親が火事で焼死したこと、そして自分は1993年の元旦に死亡したことを…!
 タイムトラベルによって、自分の死を知った男が、その原因を知るために調査に出る…という物語です。自分の死のタイムリミットまでに、真相に迫れるのか、というサスペンスはなかなかのもの。主人公を演じるエイドリアン・ブロディの繊細な演技とも相まって、避けられない死に向かって突き進むクライマックスには迫力があります。
 ただ、タイムトラベルの原因やらその理屈には、ほとんどふれられません。「そういうこと」として流されてしまうのです。この分野では『バタフライ・エフェクト』という超絶的な傑作があるだけに、それと比べてしまうと、脚本上の甘さがかなり目立ってしまいます。
 周りの人々がタイムトラベルを信じない…というのは定番の設定ですが、恋人となるジャッキーにそれを信じさせる過程に、説得力があまり感じられないのは弱いですね。
 タイムトラベル自体の設定にも、どうも説得力が弱いような気がします。拘束衣を着せられた状態でタイムトラベルしているのに、着いた先では普通の服装になっているとかいうのはともかく、都合良く毎回ジャッキーの目の前にあらわれるとか、何回未来へ行っても、前回の訪問の後の時刻に着く、というのもかなりできすぎのような気が。
 ジャックが罪を着せられることになった殺人事件が、全く解決しないままで終わってしまうのには、驚きました。ジャックが精神病院に放り込まれるという、前提を導入するだけのための要素としてしか使われていないのです。これは非常にもったいない。
 さらに言うなら、ジャックが自分の死の真相を探り出す過程に関しても、あまりにすいすいと進んでしまうというか、障害がないのが気になります。ジャックを酷い目にあわせるベッカー医師にしても、未来ではすでに失脚しています。それゆえ「復讐」や「旧悪を暴く」といった爽快感はあまりありません。謎解きというほどの謎もなく、起こってしまった既定事実をジャックがたどる…といった趣が強いのですが、諦観に満ちた作品のトーンにはむしろ合っているのかもしれません。
 いろいろアラが見つかる作品ではあるのですが、それをうち消すほど、主人公をはじめとする俳優たちの演技が素晴らしいです。静謐な雰囲気、繊細な心理描写など、ドラマとしては第一級のものになっています。
 厳密なタイム・パラドックスやSF的な趣向を求めると物足りない点が残りますが、人間ドラマとしては、かなりの佳作でしょう。

テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
キャストがいいですね
『バタフライ・エフェクト』では確か<過去に戻って将来を取り戻すこと>で、今と過去を何度も行き来するという話だったような気がするのですが、『ジャケット』では自分が存在しない未来に行くって感じですかね?うん、面白そう♪
『ジャケット』は今回kazuouさんの記事で初めて知ったのですが、タイムトラベルの中でのラブロマンスって結末がものすごく気になります。設定が設定だけに誰もが皆ハッピーエンドというのは無理があるし、かといってあり得ない奇想天外な結末もシラけてしまう。
タイムトラベルとは少し違いますが、時空を超えたラブストーリー『イルマーレ』も気になるところです。
ただこのようなタイムトラベル系の話は複雑なストーリーも多いので、ちゃんと見てないと頭がこんがらがっちゃうんですよね(笑)。
【2006/11/05 19:00】 URL | TKAT #- [ 編集]

なかなか面白かったですよ
『バタフライ・エフェクト』では、未来(現在)は可変的というか変え放題(?)でしたが、『ジャケット』の場合、基本的に「運命は変えられない」というスタンスで物語が進みます。
主人公は、自分の死を既定事実として受け入れた上で、死の真相を知りたい、という感じなんですよね。そういう風な話なので、作品のトーンはかなりもの悲しいものがあります。結末もかなり切ない感じです。
あと、『バタフライ・エフェクト』みたいに未来が分岐したりとかしないので、頭がこんがらがるほど複雑なストーリーではないですね。けっこうツッコミ所も多い作品ではあるんですけど、個人的にはかなり好みの作品でした。
『イルマーレ』もあらすじを聞くと、けっこう面白そうです。タイムトラベルとラブストーリーを絡めたものって、ハズレが少ないので、これも期待できそうですね。
【2006/11/05 20:34】 URL | kazuou #- [ 編集]

何に使う?
前回ご紹介の『タイムマシンの殺人』もそうですが、タイムマシンあるいは時間移動能力を得た場合何に使うのかは難しい問題ですね。
この点で次のような筋の手塚治虫の短編漫画が印象に残っています。
あまりパッとしない同級生が男子生徒憧れの的の女生徒と仲がいい。不思議に思ったガキ大将がその理由を問い詰めると、裏山だかの洞窟の中の川を流れると時間を逆行できることを発見し、何回も試行錯誤を繰り返した結果だと(例えばデートの申し込みだけでも何十回もやり直しの末成功している)。当然ガキ大将もまねをするわけですが、互いに相手を出し抜こうとより以前に遡る。その結果、二人とも誕生以前に戻り消滅してしまう。
結末がわかったようで実はよくわからないのですが、中学生だったらこのように利用するだろうなという気はします。
【2006/11/05 22:05】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

そうなるでしょうね
その手塚治虫作品は、僕も読んだことがあります。タイトルは失念しましたが。
たしかにまだ子供だったら、そういう使い方をしそうですね。文中でも言及した『バタフライ・エフェクト』では、まさにそれをやっていて、何度も過去を改変しますが、そのたびに新たな問題は発生してしまう…という展開に面白みがありました。
『ジャケット』では、タイムトラベルの行き先を選択する余地がないので、そういう楽しみはないんですよね。未来において、すでに死んだ自分のことを聞いて回る…という、皮肉な展開が見所でしょうか。
【2006/11/06 07:01】 URL | kazuou #- [ 編集]

見ましたよー
kazuouさんのおっしゃるとおりアラは多いですが、非常に面白く見れました。やっぱりラストはこうするしかなかったのかなーなんて。この内容で超ハッピーエンドはやっぱりないですよね(笑)。でも切なくなる思いもありつつも後味が全然悪くないのがいいですね。
主人公がクリスマス生まれ、未来に行くのがクリスマスイヴ、ということで、もしかしたら不幸な人を幸せにするための神の遣いの役目だったのかななんて思ったり。(勝手な想像は広がるばかりです)

P.S TBさせていただきました♪が!間違って2回TBしてしまいました・・・。申し訳ないですが、最初の方を削除してもらえますか?すみません!
【2006/11/14 22:34】 URL | TKAT #- [ 編集]

雰囲気がうまいです
作品冒頭からすでに、悲しい結末を予感させるかのような悲しい雰囲気ですよね。タイムトラベル自体が、テーマというより、人間ドラマを展開させるための道具として使われている感じです。テーマとタイムトラベルが同じぐらいの比重で描かれた『バタフライ・エフェクト』ほどの傑作とはいえないですが、れはこれで、心に残る佳作だと思います。
たしかに、結末も後味が悪くないのがいいですね。
【2006/11/15 06:55】 URL | kazuou #- [ 編集]

見たいです
タイムトラベル好きとしては、チョット見たいです。
自分が死んだ後の世界に飛ぶって面白そうなパターン。

ジャンルはなんでしょう。SF?ロマンス?
レンタル屋さんに行って見ます。
【2006/11/15 22:14】 URL | ユキノ #3346CNtI [ 編集]

面白いです
ジャンルは、まあSFでしょう。
自分の死の真相を探る…というサスペンス、あとラヴロマンスをからめてます。でも雰囲気は物悲しい、というなかなか面白い作品です。見て損はない映画だと思いますよ。
【2006/11/15 23:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/156-71ef8bf5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「ジャケット」

『ジャケット』 THE JACKET  製作年:2005年  製作国:アメリカ/ドイツ  監督:ジョン・メイブリー  出演:エイドリアン・ブロディ、キーラ・ナイトレイ、      クリス・クリストファーソン、ジ TK.blog【2006/11/14 22:15】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する