短篇がいっぱい  ぼくらはカルチャー探偵団編『短篇小説の快楽』
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短篇小説の快楽
ぼくらはカルチャー探偵団
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 名編集者として知られた、故安原顯が結成した「ぼくらはカルチャー探偵団」。かって1980年代半ばから、1990年代初頭まで、この団体によるブックガイドシリーズが角川文庫から出ていました。
 ミステリ小説をいろんなジャンルごとに紹介した『ミステリーは眠りを殺す』、恋愛小説ばかりを紹介した『恋愛小説の快楽』など、面白い企画がいくつもありましたが、中でも、質量ともに圧倒的だったのが、本書『短篇小説の快楽 ジャンル別短篇小説750』(ぼくらはカルチャー探偵団編 角川文庫)です。
 タイトル通り、短篇小説を紹介する本なのですが、ジャンルごとにそれぞれの専門家が、ベスト50を選ぶというもの。これが、またヴァラエティに富んでいるのです。人によっては、未訳の作品もたくさん入れていたりします。ひとつひとつの作品紹介がやたらと簡潔な人もいれば、作者の紹介から作品内容まで踏み込んだ解説をする人もいる、という具合。
 とりあえず、内容の一覧を書いておきましょう。

 【鼎談】…新・短篇小説講義 荒俣宏・金井美恵子・中沢新一
 『現代アメリカ短篇小説ベスト50』越川芳明
 『現代フランス短篇小説ベスト50』野崎歓
 『現代イギリス短篇小説ベスト50』富士川義之
 『現代ドイツ短篇小説ベスト50』三宅晶子
 『現代イタリア短篇小説ベスト50』川島英昭
 『現代ラテンアメリカ短篇小説ベスト50』鼓直
 『ラヴ・ロマンス短篇小説(外国篇)ベスト50』中条省平
 『ラヴ・ロマンス短篇小説(日本篇)ベスト50』島弘之
 『ミステリー短篇小説ベスト50』矢野浩三郎
 『SF短篇小説ベスト50』巽孝之
 『ファンタジー短篇小説ベスト50』荒俣宏
 『ホラー短篇小説ベスト50』風間賢二
 『旅の短篇小説ベスト50』武藤康史
 『ノン・ジャンルの短篇(外国)ベスト50』今福龍太
 『ノン・ジャンルの短篇(日本)ベスト50』池内紀

 「ノン・ジャンル」とか、よくわからない分類も混じっていますが、なかなか壮観なラインナップです。
 巻頭の鼎談は、「分かる人には分かるだろ」的な、飛躍の多い議論で、どうも楽しめないのですが、それ以外の各ジャンルのガイドはとても楽しめます。
 最初は、各国の現代短篇についてのガイドが続きますが、「現代」といっても、ほんとうの「現代」というわけではなくて、戦前あたりからもセレクトするなど、時代の枠は幅広くとってあるようです。単体での紹介も珍しくないアメリカ文学やフランス文学はともかく、ドイツやイタリア、ラテンアメリカはガイドとしても貴重ですね。
 それでは、中から面白かったものを簡単に紹介しましょう。
 『現代フランス短篇小説ベスト50』は、最初こそサルトル・カミュの「いかにも」なセレクションで始まりますが、そのあとはマルセル・エーメ、ボリス・ヴィアン、レモン・クノー、シュペルヴィエル、マルセル・ベアリュ、レオノーラ・カリントン、ロマン・ギャリなど、軽みに満ちた幻想小説が多く紹介されていて、魅力的です。
 『現代ラテンアメリカ短篇小説ベスト50』は、ほとんど全て、これ「マジック・リアリズム」系の作品で占められています。あらすじを読むだけで、読みたくなること必定の作品ばかり。ボルヘス、コルタサル、アンデルソン=インベル、ムヒーカ=ライネス、オラシオ・キローガ、レオポルド・ルゴネスなど。
 『ラヴ・ロマンス短篇小説(外国篇)ベスト50』は、さすが目利きの中条省平だけあって、様々な外国小説の中から、面白そうな作品を集めています。フィッツジェラルド、ヘミングウェイあたりの「普通」の作品から、マンディアルグやロブ=グリエなどの「ひねった」ところ。ジャック・フィニィ、マルセル・エーメ、ローラン・トポールなどの異色作家まで、その選択眼の幅広さには感心させられます。
 ジャンル小説の読者には、やはり『ミステリ』『SF』『ファンタジー』『ホラー』が気になるところでしょう。
 『ミステリー短篇小説ベスト50』は、かなりオーソドックスながらバランスのとれたセレクション。エラリイ・クイーン、アガサ・クリスティ、モーリス・ルブラン、コナン・ドイルの大御所に混じって、ロアルド・ダール、ジョン・コリア、シャーリィ・ジャクスン、パトリシア・ハイスミスなどの、短篇の名手の作品も垣間見えます。
 『SF短篇小説ベスト50』は、オーソドックスとはかけ離れた独創的なセレクション。スタニスワフ・レム、J・G・バラード、ストルガツキイなど、ちょっと「高踏的」な作家が多いのが特徴。ブラッドベリやスタージョンなども混じっていますが、それもあまり有名どころではない作品が選ばれています。
 『ファンタジー短篇小説ベスト50』は、著者が「ファンタジー」の定義自体が曖昧模糊としている、と語っているだけあって、文学畑からジャンル作家まで、許容範囲の広い選択です。D・H・ロレンスやフロイトまで入っているのは、荒俣宏ならではでしょうか。ただ一篇あたりの解説文が、異様に短いので、作品のことをもっと知りたい人には物足りない面も。
 『ホラー短篇小説ベスト50』は、おそらく本書で一番密度の濃いガイドでしょう。怪奇小説アンソロジーの定番にふれた後、「異色作家」「モダンホラー」などの定義や紹介を交えながら、個々の作家・作品紹介に進む流れは、非常にわかりやすく、面白く読むことができます。個々の作品解説にも、作家・ストーリー・ジャンル・関連作品など、情報量を要領よく詰め込んでいて、初心者から玄人まで楽しめる作り。なお、この内容は、少々構成が変わっていますが、風間賢二の著書『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)にも収録されていますので、興味のある方はそちらへどうぞ。
 本書は、いわゆる文学畑からジャンル小説まで、幅広いセレクションのガイドになっています。それだけに、今まで興味のなかった作家や作品にも興味がわくこと必定です。とにかく短篇好きの方には、強烈にオススメしたい一冊。

テーマ:オススメ本!! - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント
こんばんは
知ってる著者が多い『ミステリー短篇小説ベスト50』にまず目がいってしまいました(ホントかなりオーソドックスですね)。
kazuouさんが強烈におススメしたいという『ホラー短篇小説ベスト50』も初心者にやさしいということでここで紹介されてる本はどれも読みたくなりそう・・・。
ブックガイドって紹介する専門家や紹介の仕方によってその本の印象が違いますが、そこがバラエティに富んでていいのかもしれませんねー。でも未訳の作品の紹介が多ければ、もしその短編が超読みたい!と思った時かなりブルーになるかも・・・。
【2006/10/18 22:41】 URL | TKAT #- [ 編集]


ラテンアメリカの小説は”奇妙な””隣の悪夢”的な話が好きな人には絶対のお勧め。
東欧の熟れた果実的なきらびやかさがあります。

この本の中で「いいものを集めているなぁ。」と思わずうなったのは、『ラブ・ロマンス・・外国篇』
でした。ロブ=グリエなんてさすが中条省平氏です。
【2006/10/18 23:04】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

>TKATさん
そうなんですよね、紹介者によって切り口が変わるのが、ブックガイドの愉しみかもしれません。そういうわけで、何人もの選者がいる本書は、その点ヴァラエティには事欠きません。
ベスト3とかベスト5、ぐらいの企画は雑誌なんかでもわりとよくありますが、ベスト50となると、そうはありませんよね。それだけに、それぞれの選者の好みがよくあらわれているセレクションになっていると思います。
『ホラー短篇小説ベスト50』はオススメ! 僕がホラーに開眼したのは、このガイドのおかげだといっていいかもしれません。
【2006/10/19 06:46】 URL | kazuou #- [ 編集]

>shenさん
たまたま本書中の『ホラー短篇小説ベスト50』でもふれられていたんですが、ラテンアメリカの作品は、アメリカの1940~50年代の怪奇小説に似た感じがする、という文章があって、なるほどと思った覚えがあります。ビオイ=カサレスとかアンデルソン=インベルなんか、まんまB級ホラーだよなあ、とか。
ラテンアメリカ作品には、ヨーロッパやアメリカの現代文学が失ってしまった、原初的な物語の面白さがまだ生きているんですよね。
中条省平のセレクションには、感心しました。ふつうこの手の人の選択って、妙にアカデミックなものになりがちなんですが、この人の場合、いろんなジャンルからまんべんなく選んでいて、しかも「面白さ」優先、という感じがして、良い意味での「ヴァラエティ」がありますね。
【2006/10/19 06:55】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんにちは、ぼくは最近、安原氏の一連のブックガイド本を集めている者です。何冊かは
初版当時に買っております。
角川文庫 リテレール別冊、学研M文庫 まあ集められるだけ集めようと
思っているのですが、「短篇小説の快楽」だけは
まったく知りませんでした。
でも面白そうですね。

こないだ買ったのは1993年発行の「リテレール別冊 読書の魅惑」です。
風間賢二 中条省平などの お馴染みの人に加えて
鹿島茂さん、水野忠夫さん、などの新顔(当時としては)も楽しいです。

それにしても「短篇小説の快楽」は知りませんでした。
教えていただいて、ありがとうございます。
【2012/06/22 15:29】 URL | いちプロ #WwqDCs7A [ 編集]

>いちプロさん
いちプロさん、こんにちは。

僕も角川文庫、リテレール別冊など、いくつかシリーズのガイドを読みましたが、いちばん面白かったのが、この『短篇小説の快楽』でした。
いまは手に入りにくくなっているかと思いますが、ぜひ読まれることをオススメしておきたいと思います。
【2012/06/23 19:35】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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