想像力の恐怖  スティーブン・ケイ監督『ブギーマン』
B000GH2RUSブギーマン
スティーブン・ケイ バリー・ワトソン エミリー・デシャネル
松竹 2006-09-28

by G-Tools

 怪奇小説によくあるテーマの一つに「想像力によって生み出される怪物」というのが、あります。簡単に言うと、想像力豊かな子供が、空想上の怪物や怪人を怖がる、というもの。
 話のパターンは、だいたい決まっています。周りの大人は誰も子供のいうことを信じないのですが、実は子供の言っていることは本当で、怪物に襲われてしまう…というようなストーリー。
 しかし、映像分野では、あまりこのパターンを見ません。テーマがテーマだけに、映像では、退屈なものになる可能性が大きいからです。考えてみるとわかると思うのですが、怪物をすぐさま画面に出すわけにはいきません。怪物がしょっぱなから姿を見せていれば「気持ち悪く」はあっても「怖く」はないからです。
 怪物そのものよりも、「得体の知れない」怪物を怖がる主人公の心理にこそ、このタイプの話のキモがあります。映像では、その「恐怖」を感じる主人公の心理描写が、作品成功の鍵を握るといっていいでしょう。さて、このテーマに取り組んだ作品、 サム・ライミ制作、スティーブン・ケイ監督『ブギーマン』(2004 アメリカ)の場合は、どうなっているのでしょうか?
 主人公のティムは、幼いころに父親から、クローゼットに潜む怪物「ブギーマン」の話を繰り返し聞かされ、それを怖がっていました。ティムが8歳のある夜、彼は、相も変わらず、暗くした部屋の物影におびえていました。そんなティムを寝かしつけようとした父親は、部屋の中を調べ「ブギーマン」など存在しないことを言い聞かせようとします。ところがクローゼットを開けた父親は、ティムの目の前で、クローゼットの中に引き込まれ、姿を消してしまったのです!
 それから15年後、いまだに暗闇を恐れ続けるティムでしたが、恋人ジェシカの両親に挨拶に訪れた夜、不可解な夢を見ます。その直後にかかってきた電話は、なんと母親の死を知らせるものでした。あわてて帰郷したティムは、再びあの悪夢のような家を訪れることになります。
 クローゼットで再び怪現象に襲われたティムは、家を出る刹那、かけつけた恋人ジェシカと行き会い、モーテルに泊まります。しかしバスルームにいたはずのジェシカは、いつの間にか姿を消していたのです…。
 さて、前半の雰囲気は、なかなかのものです。
 序盤のシーンは非常にインパクトがあります。父親が、得体の知れない怪物に引き込まれてしまう最初のクライマックスといい、幼いティムが暗闇で見る物影が、くりかえし人の形になる描写といい、とても緊迫感があります。
 それからは、暗闇を恐れるティムの心理描写が丹念に積み重ねられていきます。例えば、コートを取ろうとして、クローゼットの暗闇の前で立ちつくす描写など、非常に上手いです。例によって、周りの人々はティムの言うことを信じようとせず、それゆえティムの恐怖は、妄想であると片づけられます。この時点では、怪物が直接描写されないので、ティムの妄想である、という解釈も可能ではあるわけです。
 心理描写で引っぱるにせよ、超自然ホラーである以上、いずれは怪物が画面に現れるわけですが、やっぱりその正体がわかってしまった後は、さすがに緊迫感は落ちてしまいます。あとは、どうやって退治するか、という方向に行ってしまうわけで、そこらへんは「普通」のホラーです。
 そもそもホラー映画というのは、「気配」や「暗示」というのが、怖さの重要な要素になっています。しかし「気配」や「暗示」を多用すると退屈になってしまう、というのもまた事実。話題になった実験的な作品『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などは、そのタイプでしょう。
 エンタテインメントとしては、観客を退屈させない要素をどうやって入れるか、というのが思案のしどころです。これも加減を間違えると、ぜんぜん「怖く」なくなってしまいます。『ブギーマン』では、その辺の工夫がところどころに挟まれています。
 例えば、ティムが生家で「ブギーマン」にさらわれた子供たちの幻覚を見るシーン。あと、クローゼットを通して、時間や空間を移動する仕掛けなども凝らされています。バスルームから消えた恋人が実際に怪物におそわれる場所に、時間をさかのぼって行くものの、結局助けられない…というあたり、なかなか工夫が感じられます。
 正直この作品、あまり「怖く」ないのですが、この手のテーマに取り組んだ作品としては、手堅くまとめてはいます。娯楽作品としては、及第点を与えてもいいのではないでしょうか。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

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【2006/10/14 19:27】 | # [ 編集]

ベビールーム
ブギーマン、スティーヴン・キングにもよく出てくるので以前から気になっています。
ただ日本人の場合、今ひとつ実感が湧かないのでは。というのは、欧米では幼いうちから子どもを一人で寝させる習慣のようですが、日本の場合は今でも子どもが一人で寝るのはある程度大きくなってからだからです。
8月にWOWOWのスパニッシュホラー・プロジェクトでスペインのホラーテレビ番組を楽しみましたが、その1作目が「ベビールーム」。深夜、別室に寝かした赤ちゃんのようすを父親がテレビカメラで見ていると、怪しい影が蠢いているというもの。ちょっと日本ではあり得ない設定かなと思いました。
【2006/10/14 21:40】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>shenさん
『ブギーマン』すでに、ご覧になっていましたか。
テーマ的に面白そうだったので、観てみましたが、まあまあ面白く見れました。
クローゼットに潜んでいるのが、殺人鬼だった…という都市伝説は、日本の本でも読んだ覚えがありますね。
目新しさは全然ないのですが、ツボをおさえた演出と、細かい工夫があって、なかなかの佳作だと思います。
【2006/10/14 21:57】 URL | kazuou #- [ 編集]

>迷跡さん
そういえば、スティーヴン・キングでも、まんま『ブギーマン』という短編もありましたね。あちらでは、けっこうメジャーな存在なんでしょうか。
欧米では、子供を小さいころから一人で寝させる、という習慣は、けっこうエンタテインメントの設定でもよく使われますね。とくにホラー映画なんかでは、子供に危険が及んでいるのに、親が全然気づかない…なんて描写を、よく見ます。
『ベビールーム』も、そういう系統の話なんでしょうか。見てみたいですね。別室の赤ん坊をテレビカメラで見る…、たしかに日本では考えられない光景ではあります。
【2006/10/14 22:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


ブギーマン、映画では”boogeyman"になっていますが、米国(欧米?)ではbogeyman
と綴り”おばけ””人に付きまとうもの””子とり鬼”として、よく親が子供をしつけの脅しネタに
使う妖怪の一つとしてよく登場してます。日本だと”河童”とか”トイレの花子さん””口裂け女”
みたいな存在でしょうか。
アニメのドジな悪役キャラクターの名前としても登場するポピュラーな妖怪ですね。


欧米では、自立心を促すため赤ちゃんの頃から大人とは別室のベビーべッドで一人寝が一般的
ですね。夜は大人の時間と区別しているというか、小さいうちから”個人”と認めてる?
親の添い寝がほぼ当たり前という日本の習慣は向こうにいわせると「ありえない!」だそうです。
【2006/10/15 12:14】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

なるほど
「ブギーマン」は、そんな位置づけになるんですか。以前、スティーヴン・キングの作品で「ブギーマン」が出てきたときに、具体的なイメージが浮かばなくて、困ったことがありましたが。
子供をひとりで寝かせる、というのはともかく、赤ん坊のころから独り寝、というのはどうかと思いますけどね。個人主義が一貫しているといえばそれまでですが、なんか極端ですよね。
そういえば、前に読んだヨーロッパの本で、たしか北欧だったと思うんですけど、あまりに個人主義が強すぎて、人と接していてあまりに疲れるので、人とのつき合い自体が嫌になってしまうことがある、とか書かれていて、これも極端だなあ、と思った覚えがありますね。
【2006/10/15 14:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


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ブギーマン

映画が始まると、少し開いたドアから暗闇が現れ、この世で一番の恐怖が訪れる。『ブギーマン』の冒頭の5分では、ある少年の父親が強引にクローゼットに押し込められ、少年が恐怖に陥る。彼は無表情な青年ティム(『7th Heaven』でおなじみのバリー・ワトソン)として成長 1-kakaku.com【2006/11/14 22:43】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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