ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ4 その他のジャンル編-
ファンタジーの歴史――空想世界 ファンタジーの冒険 妖精のアイルランド―「取り替え子」(チェンジリング)の文学史 乱視読者の帰還 そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド ショートショートの世界 アメリカン・ヒーロー伝説

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 前回から、かなり間が空いてしまいましたが、今回はその他のジャンル編です。
 まずはファンタジーから。
 リン・カーター『ファンタジーの歴史』(東京創元社)は、タイトル通りファンタジーの通史ですが、古典ファンタジーにかなり力点が置かれてます。ウィリアム・モリス、ダンセイニ、E・R・エディスン、トールキンなど。とくにヒロイック・ファンタジーに関しては詳しくふれられているので、その種のファンには楽しめます。
 高杉一郎編『英米児童文学』(中教出版)は、英米の児童向け作品の概説書。作品論だけでなく、作家やその文学史的な意義など、けっこう詳しい情報が載っていて参考になります。アーサー・ランサム、イーディス・ネズビット、エリナー・ファージョンなどプロパー作家だけでなく、古典的な作家のファンタジー的な作品をも射程内に入れているのが特徴。マーク・トウェインやH・G・ウェルズ、キプリング、サッカレーなどにも言及されています。
 私市保彦『ネモ船長と青ひげ』(晶文社)は、日本唯一のヴェルヌ研究家(?)である著者が、ヴェルヌとフランス児童文学について語ったエッセイ集。いくつか収録されたヴェルヌ論も、それぞれホフマンや『ロビンソン・クルーソー』と比較するなど、目の付け所が面白いです。
 小谷真理『ファンタジーの冒険』(ちくま新書)は、ファンタジーの通史。ルイス・キャロル、ジョージ・マクドナルドなどの古典ファンタジーから、現代ファンタジーまで、バランスのとれた構成。個々の作品についてはあまり詳しくないのですが、要領よくまとめてあるので、ファンタジーの流れをつかむには最適の一冊です。
 下楠昌哉『妖精のアイルランド』(平凡社新書)は、斬新な切り口で書かれた非常に面白い本です。ブラム・ストーカー、オスカー・ワイルド、ラフカディオ・ハーン、イェイツなどいわゆるケルティック・ファンタジーの作家を取り上げた章もあるのですが、なんといっても第一章『ブリジット・クリアリー焼殺事件』が圧巻。人間が妖精と入れ替わるという「取り替え子」の伝説を信じた男による妻殺しの事件を通して、現実のアイルランドと妖精伝承との関わり合いを追うという、面白い論考になっています。

 文学よりのガイドとしては、
 風間賢二『ダンスする文学』(自由国民社)が、ジャンルにとらわれず一般の人が読んでも面白い小説をとりあげています。ポストモダン小説、ラテンアメリカ文学、ホラーなど、バラエティに富んだ構成。
 同じく風間賢二『ジャンル・フィクション・ワールド』(新書館)は、ミステリ、SF、ホラーなど、いわゆる大衆小説の各ジャンルの面白さを、初心者からすれっからしの読者まで、誰が読んでも面白い読み物に仕立てた啓蒙的ガイド。図版もたくさんあり、オススメの一冊です。
 若島正『乱視読者の新冒険』『乱視読者の帰還』(みすず書房)は、文学の目利きというべき著者の評論集。専門であるナボコフへの言及が多いのですが、それ以外でも、なかなか穿った見方を見せてくれます。とくに『…帰還』に収められた『失われた小説を求めて』は、主に未訳の奇想天外な小説がたくさん紹介されていて、興味をそそります。
 同じく若島の『乱視読者の英米短篇講義』(研究社)は、マイナー(?)な海外短篇を取り上げて、読み込むという書物。アンブローズ・ビアス、シャーリイ・ジャクスン、A・E・コッパード、ミュリエル・スパーク、フラン・オブライエンなど実にマニアックな作家がとりあげられているのが嬉しいところ。
 澁澤龍彦『悪魔のいる文学史』は、副題〈神秘家と狂詩人〉が表すように、文学史のアウトサイダーというべき風変わりな人物がとりあげられています。中には作家というよりは、詩も書いた殺人者といった方がふさわしい、ラスネールのような人物も入っています。サド、マゾッホ、ブルトンなどの有名な作家に混じって、グザヴィエ・フォルヌレ、シャルル・クロスなどのマイナー作家にも、かなり詳細な記述が割かれているのが面白いところでしょう。
 豊崎由美『そんなに読んでどうするの?』(アスペクト)は、副題〈縦横無尽のブックガイド〉とあるように、ジャンルや国にこだわらない、多彩な作品を集めたガイドブック。何より著者の特徴的な文体が面白い一冊です。

 冒険小説に関しては、
 珍しい評論集、北上次郎『冒険小説論』(早川書房)があります。デュマの剣豪小説からアメリカのスパイ小説まで、実に幅広い国・時代・作品にわたっています。英米の冒険小説に見られる騎士道の変化について語った部分など、なかなか示唆に富む指摘もたくさんあります。類書があまりない貴重な本。
 小鷹信光『アメリカン・ヒーロー伝説』(ちくま文庫)は、アメリカが生み出したヒーローの変遷をたどるという趣向の本です。扱っている時代は、19世紀から20世紀の前半まで。著者がミステリ畑の翻訳家だけに、ポーやジャック・フットレル、M・D・ポーストなどミステリ作家が多く取り上げられますが、マーク・トウェインやO・ヘンリーなどの大衆作家も取り上げられています。他にもアメリカ版〈切り裂きジャック〉と称される「リジー・ボーデン事件」を扱った章などもあり、バラエティに富んでいます。ミステリファンには、マイナーなミステリ作家を一望した『アメリカのホームズたち』などが興味深いでしょう。
 
 ノンジャンル方面では、
 石上三登志『地球のための紳士録』(奇想天外社)は、辞典形式の面白い本。前の項目で紹介された人物と関わりのある人物が次にとりあげられていくという面白い試みです。今で言うハイパーリンク形式とでもいうのでしょうか。取り上げられるのは、映画監督や俳優など、作家に限らないのですが、実にユニークな本です。
 北村薫『謎のギャラリー -名作館 本館-』(新潮文庫)は、同名のアンソロジーシリーズ〈謎のギャラリー〉の解説編というべきエッセイ集です。対話形式でいくつかのテーマについて、作品を紹介する形式をとっています。どちらかと言えばミステリ寄りの作品が多いのですが、日本の純文学や中国の古典など、ジャンルを飛び越えたものも散見されます。「リドルストーリー」と「こわい話」を扱った章などが面白いですね。
 高井信『ショート・ショートの世界』(集英社新書)は、タイトル通りショート・ショートについてのガイド本。ショート・ショートの定義から、歴史的な流れ、代表的な作家・作品など、まさにショート・ショートに関する全てが網羅されています。ショート・ショートといえば思い浮かべる星新一から、城昌幸、生島治郎、都筑道夫、ビアス、サキ、モーリス・ルヴェル、フレドリック・ブラウン、ヘンリー・スレッサーと多くの作家を紹介しており、読書ガイドとしても非常に有用です。

〈ブック・ガイドの愉しみ1 ミステリ編〉は、こちら
〈ブック・ガイドの愉しみ2 SF編〉は、こちら
〈ブック・ガイドの愉しみ3 幻想文学・ホラー編〉は、こちら です。

テーマ:**本の紹介** - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント
ごぶさたしています。
ブックガイドといえば、昔は結構「作家が書いたブックガイド(書評)」を好んでよく読んでいたのを思い出します(星新一「きまぐれ読書メモ」、筒井康隆「みだれうち読書ノート」etc...)。ジャンルにこだわらず、バラエティにとんだ内容の本が多かったので、いろいろと勉強にもなりました。
【2006/09/24 09:50】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

そうですね
『きまぐれ読書メモ』『みだれうち読書ノート』は、僕もお世話になりました。筒井康隆なんかは、小説以外の専門書なんかがけっこう並べてあって、さすがだなあと感心した覚えがあります。あと「作家のブックガイド」としては、小松左京『読む楽しみ語る楽しみ』なんかもありますね。こうして見るとSF作家ばっかり(笑)。初期の日本のSF作家は、本当に勉強熱心だったんだなあと思います。
ミステリ畑では、やっぱり都筑道夫のエッセイや評論ははずせないところですね。
【2006/09/24 11:15】 URL | kazuou #- [ 編集]


私はブックガイドを殆ど読んだことがないんですよね。
知らない作家の本はkazuouのように文学系のブログで教えていただいたり、アンソロジーもので興味を持ったり、本屋で裏表紙に書かれてるあらすじや説明文を読んで購入することがほとんど。なのでガイドブックが思ってた以上に数多くあるのにびっくりしました。
アイルランドは行ってみたい国の一つでアイルランド妖精は前から興味がり、それをテーマにしてる『妖精のアイルランド』は面白そうですね。 
ちなみに『きまぐれ読書メモ』だけは私もかつて読んだ記憶があります(笑)。
【2006/09/24 13:47】 URL | TKAT #- [ 編集]

オススメです
僕は、ブックガイドとか作家事典とかのリファレンス本が大好きなんですよね。実を言うと、実際の作品を読むより好きかも(笑)。知らない作家の情報はもちろん、この作家がこんな作品を書いてたんだ、という新たな発見があることもあって、非常に面白いです。
目に付くものは大体眼を通していますが、ここに挙げたのは、ほんの一部分なので、TKATさんも機会があったら手にとってみるといいですよ。
『妖精のアイルランド』は、ブックガイドとしては、あんまり有用でない(笑)んですが、面白いことは確かです。単純に文学作品をとりあげるだけでなくて、民間伝承や文学、現実の社会との関わり合いについて書いている、なかなか意欲的な書物だと思います。新書なので、読みやすいですしね。
ちなみにアイルランド系の文学作品に関しては、雑誌ですが『幻想文学34 ケルト幻想文学誌』(幻想文学出版局)がものすごく充実していて参考になります。とくに「ケルト幻想作家名鑑」は、そこらの文学事典では太刀打ちできない密度の濃さです。アイルランド系の作家に関してはこれ一冊で十分なくらいでしょう。
【2006/09/24 19:10】 URL | kazuou #- [ 編集]

わたしも
お久しぶりです。
私もガイドブックは読まない派なんですが
『ファンタジーの歴史』は読んでみたいな~と思います。

意外に名作を見落としてたりするんですよね。
【2006/09/24 20:39】 URL | ユキノ #1x4BA832 [ 編集]

基礎教養
『ファンタジーの歴史』は、読みやすいし、ファンタジーの歴史について、うまくまとめてあるので基礎教養としても、オススメの本です。リン・カーターはヒロイック・ファンタジーを広めた功労者でもありますし、さすがにその種のジャンルに関しては、網羅している感じですね。マイナーな名作についてもけっこう触れていますよ。
『ロード・オブ・ザ・リング』やら『ハリー・ポッター』の影響で、ファンタジーの解説本もずいぶん出ましたが、やはり質量ともにしっかりとした出来なので、このジャンルに関しては、まず第一に読むべき本かと思います。
【2006/09/24 21:12】 URL | kazuou #- [ 編集]

そうだったのか
『妖精のアイルランド』って下楠昌哉さんだったのか!
下楠昌哉といえば『アイリッシュ・ヴァンパイア』。
あのあとがきは、大変面白かった。
この本は、読まねばなりませんね!
【2006/09/25 00:16】 URL | くろにゃんこ #Rr/PoIDc [ 編集]


僕も『アイリッシュ・ヴァンパイア』を先に読んでいたので、名前だけで『妖精のアイルランド』を読みました。期待していたのとは、ちょっと趣が違いましたが、これはこれで、かなり面白いですよ。
【2006/09/25 06:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

ブックガイド大好きです。
 私も、実際の本を読むより好きかもしれません(笑)筒井康隆の 『みだれ撃ち涜書ノート』は今でも時々棚から出して参照してます。

 若島正『乱視読者の新冒険』『乱視読者の帰還』『乱視読者の英米短篇講義』・・は知らなかったので、そのうち図書館で借りて読みたいと思います。また積読本が増えることに・・(汗)
 豊崎由美の『そんなに読んで、どうするの?』はすごく面白かったです(^^)v
【2006/09/25 09:48】 URL | 猫のゆりかご #QG0IHlXE [ 編集]


豊崎由美は罵倒芸のほうが好きなので、褒めてばかりのこの本はあまり楽しめませんでした(笑)。褒めなければブックガイドとしての役目が果たせないので無い物ねだりなんですけどね。
【2006/09/25 13:27】 URL | Takeman #- [ 編集]

>猫のゆりかごさん
やっぱりブックガイドは楽しいですよね。
若島正の『乱視読者』シリーズは、どれも面白いですよ。圧倒的に未訳の本の紹介が多いんですが、それがどれも面白そうで困ってしまいます。
同じ著者の、今月出たばかりの『殺しの時間』を今読んでいるのですが、やっぱり面白い! この本におさめられているエッセイは10年以上前のものが多いんですが、その後けっこう翻訳されたものも多くて、この人の眼力はなかなかのものだなあと感心しました。
【2006/09/25 22:15】 URL | kazuou #- [ 編集]

>Takemanさん
『そんなに読んで、どうするの?』は、たしかに豊崎由美としては、異様におとなしめでしたね。この人の罵倒は、たしかにひとつの「芸」になっていると思います。相手を小馬鹿にするというか、揶揄する仕方が実にうまいです。「けなす」方のエッセイ集でもまとめてもらえると、面白そうなんですけどね。
【2006/09/25 22:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


『悪魔の文学史』が気になります。『怪奇小説傑作集4フランス編』でシャルル・クロスが気に入ったもので。早速探してみますね~。
【2006/09/25 22:53】 URL | イーゲル #- [ 編集]


シャルル・クロスですか。『恋愛の科学』はいいですよねえ。
『悪魔のいる文学史』は、澁澤龍彦好みの作家を並べたものですね。ほんとうにマイナーな作家が多くて、シャルル・クロスをこんなに詳細に紹介した本なんて、日本では唯一なんじゃないでしょうか。たぶん現役本なので、入手は容易だと思いますよ。
ちなみにシャルル・クロスの作品は『19世紀フランス幻想短篇集』(国書刊行会)に短編が二編ほど、『室内 世紀末劇集』(国書刊行会 フランス世紀末文学叢書12)に何編か戯曲が収録されています。とくに『室内 世紀末劇集』に収録された戯曲は、どれもナンセンス・コメディで抱腹絶倒なので、オススメですよ。
【2006/09/25 23:14】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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