掘り返された幸福  埋もれた短編発掘その3
 人間の幸福とはどこにあるのでしょう? やはりお金でしょうか。今回紹介する作品の主人公も、最初はそう考えました。しかし運命は思わぬ方向に彼を導くのです…。今回ご紹介するのは、ロバート・アーサー『マニング氏の金のなる木』(秋津知子訳 早川書房 ミステリマガジン1978年10月号所収)です。
 銀行の出納局長補佐、ヘンリー・マニングは、砂色の髪の好青年です。将来を嘱望されるこの青年には、秘密がありました。株投機にとりつかれた彼は、銀行の金を使い込んでいたのです。図太くなったヘンリーは、犯行がばれるのも時間の問題と考え、ある対策を立てます。それは出所後に使える大金を隠しておくこと。金を魔法びんにつめ、公園に昼を食べに行くふりをして出かけたヘンリーは、自分を尾行する二人組に気付きます。
 あわててバスに飛び乗ったヘンリーは、尾行をまくことに成功します。そして、ふと降り立った新興住宅地で、ある家の庭に、恰好の金の隠し場所を見つけます。

 そしてヘンリーのほとんどすぐ脇の芝生に深い穴があいていて、その穴の向こうに植えるばかりになった苗木が置いてあった。根本をズックでくるんだ、あおあおとした見事なエゾマツだ。

 ヘンリーが金を穴に隠した直後、黒い髪のがっしりとした男がやってきます。その家の持ち主らしい男に話しかけ、手伝うふりをして穴を埋めたヘンリーは、その若い男と妻に対し、どこか感謝の念を覚えます。
 三年後、出所したヘンリーは、かって埋めた金を掘り出しにやってきます。しかし、成長したエゾマツを掘り起こすのは困難であり、見咎められる心配もあることに気付きます。結局、合法的に家を手に入れることにしたヘンリーは、人相を変え近くの自動車工場に勤め始めます。家の住人が引っ越す際に、金で買い取ろうというのです。
 ヘンリーは、問題の男ジェローム・スミスと親しくなろうと努めますが、一向にジェロームはうち解けません。羽振りのよいらしいジェロームは、一向に無愛想のままです。それとは対照的に、ジェロームの妻コンスタンスと息子ピーターと、ヘンリーは親しくなります。
 やがてジェロームが事業の拡大のため、引越を考えていることを知ったヘンリーは、コンスタンスと別れることを思って憂鬱になるのです。ところがある日、ジェロームはコンスタンスを捨てて西部に行ってしまいます。ヘンリーは、コンスタンス母子に何くれとなく世話をやき、ついにプロポーズするのですが、その胸中は複雑です。

 彼は言葉を切り、自分は本当に彼女を愛しているのだろうか、それとも単に隠してある金を取り戻したいだけなのだろうかと恥じ入りながら考えた。

 結婚したヘンリーは、コンスタンス母子との生活に満足し、金を掘り出すことには、頓着しないようになるのです。
 一年後、自動車工場の持ち主が引退することになり、事業を買い取るために大金が必要になります。しかしヘンリーは、いざという段になって、幸せのきっかけとなったエゾマツを掘り起こすことにためらいを覚えるのです…。
 金を埋めた、文字通り金のなる木に対して、ヘンリーのとった決断とは?
 金を得るために近づいた女性に、いつの間にか惹かれてゆくようになるヘンリーの心理の変化には、非常に説得力があります。まさしく手段が目的になってゆくのです。人間の幸せとは何かを考えた一編の寓話であり、後味も非常に良い作品です。
 ロバート・アーサーは、現在ではおそらく『ガラスの橋』(『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』 角川文庫所収)が一番有名でしょう。この作品は謎解きミステリなのですが、アーサーの本領はユーモアあふれる都会的なファンタジーにこそあります。他にも面白い短編がたくさんあり、異色作家短編集に入っても遜色のない作家です。『魔王と賭博師』『ミスター・ジンクス』などはいずれ紹介したいと思っています。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ミステリマガジン1978年10月号
お疲れ様です。この短編が掲載されたミステリマガジン、私持っておりました(笑)。スレッサーとP・K・ディックしか読んでおりませんでした。お恥ずかしい。
読後、ちょっと違うかもしれませんが星新一の「鍵」を思い出しました。手元に資料がないのでうろ覚えですけれど、あれも「手段が目的になっていく」作品であったと思います。
ラストの一行も「因果応報」を表しているようで味があっていいですね。
【2006/02/17 19:34】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

たしかに
おお、げしさんはお持ちでしたか。そういえば、スレッサーが載ってましたものね。
そうですね。たしかに似ているような気がします。というか、星新一の創作作法の一つとして、目的と手段の逆転というテーマがあるといっていいのかもしれません。
結末もほんわかしていて、これ、映画化したりしたら、すごくうけそうな気がするのですが。
【2006/02/17 20:44】 URL | kazuou #- [ 編集]


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