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幸福の代償  山本弘『夏葉と宇宙へ三週間』

夏葉と宇宙へ三週間 (21世紀空想科学小説 8) 単行本 – 2013/12/9


 山本弘『夏葉と宇宙へ三週間』(岩崎書店)は、ふとしたことから宇宙へ旅立つことになった少年少女が、銀河的なスケールの脅威と戦うことになるという、冒険SF小説です。

 夏休みに学校の臨海キャンプに来ていた小学六年生の少年、加納新(あらた)は、海面に現れた宇宙船のようなものに近づいていく少女を止めようと、そちらに泳いでいきます。少女は、隣のクラスの首藤夏葉でした。青い光によって新と夏葉は宇宙船内に取り込まれてしまいます。
 宇宙船のコンピューターは、ユーディシャウライン号と名乗ります。主であるガルムイエ星の探検家ダリー・イスターンは亡くなったといいます。生きたニンゲンを乗せないと宇宙船自体も帰還できないため、彼ら二人に一緒にガルムイエ星まで来てほしいというのです。
 往復で三週間、反対する新に対して、夏葉はせっかくの宇宙旅行を無駄にしたくないと主張します。夏葉に引っ張られ、新は共に四万光年近い場所にあるガルムイエ星まで宇宙旅行をすることになりますが…。

 ひょんなことから宇宙を旅することになった少年少女の冒険を描く宇宙SF小説です。観光気分で旅立った二人の前に巨大な敵が現れ、銀河スケールの陰謀に巻き込まれてしまうという、派手な展開となっています。
 この「敵」も、単純な侵略者ではなく、知的生物の「幸せ」をするための行動原理で動いている、というのが面白いところですね。
 二人が乗ることになる宇宙船ユーディシャウライン号や機械類も「ニンゲン」を傷つけないためのルールに縛られていて、直接的に傷つけてはいけない、というのはもちろん、新しいものを作るなど、独自に創造性を発揮することも禁止されているところなども興味深いです。

 主人公の少年少女のキャラクターも印象深いです。新が生真面目で責任感の強い少年として描かれているのに対し、夏葉はハーフであることでいじめにあっていたり、母親から捨てられたと思っているなど、その強気さのある表面に翳を抱えていることも示されます。この夏葉が自分を不幸だと感じていることが、後半の伏線にもなっており、「幸福とは何なのか」「人間の自由意志とは」といった作品のテーマとも結びついてくるのは、非常に上手いですね。
 新と夏葉の初々しい恋愛も描かれており、甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガール的な味わいも強いです。

 面白いのは結末の趣向で、選択肢が提示され、どちらを選ぶかは読者が決めるという<リドル・ストーリー>的な仕掛けがされています。作品冒頭から、ストックトン「女か虎か」などが言及され、これが<リドル・ストーリー>になることが宣言されているのも思い切った感じですね。

 様々な要素が盛り込まれた冒険宇宙SF小説です。このジャンルならではの「価値観の相対性」的なテーマもありますし、活劇としても純粋に面白い作品になっています。良質なジュブナイル作品といっていいかと思います。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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