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恐怖のフライト  スティーヴン・キング&ベヴ・ヴィンセント編『死んだら飛べる』

死んだら飛べる (竹書房文庫) 文庫 – 2019/9/26


 スティーヴン・キング&ベヴ・ヴィンセント編『死んだら飛べる』(白石朗、中村融他訳 竹書房文庫)は、飛行機・フライトをテーマにした作品を集めたアンソロジーです。ホラー作品がメインのようですが、ミステリ・SF・普通小説的な作品も収録されていますね。

E・マイクル・ルイス「貨物」
 その輸送機は、カルト教団の集団自殺によって殺された、大量の子どもたちの死体を運ぶことになっていました。棺はしっかり固定されていましたが、棺を収めている貨物室からは、歌声のようなものが聞こえてきていました…。
 大量の子どもの遺体を運ぶことになった輸送機の乗員たちの奇怪な体験を描くホラー作品です。登場人物の緊張感が伝わってくるような雰囲気が素晴らしいですね。登場人物の一人が、子どもたちは死んだことにも気付いていないのではないか…と考えるあたり、かなり怖い作品です。

アーサー・コナン・ドイル「大空の恐怖」
 イギリスの野原で、飛行機乗りジョイス=アームストロングの手記が発見されます。本人は未だに行方不明であり、手記には、まだ人類が到達していない高度で、彼が目撃した秘密が記されていました…。
 高高度の空には人類が知らない怪物が存在していた…というホラー作品です。人類が到達していない場所が描かれるという意味で「秘境小説」のバリエーションともいえますね。発表当時にこれを読んだ読者にとって、恐怖度は非常に高い作品だったのではないでしょうか。

リチャード・マシスン「高度二万フィートの恐怖」
 精神的に不安定な男ウィルスンは旅客機の窓から外を覗いた際、そこに怪物がいることに気づきます。周囲に訴えるものの、誰も信じてくれません。他の人間が見た瞬間に、怪物は隠れてしまうのです。怪物はやがてエンジン部分を壊し始めますが…。
 怪物の存在を誰にも信じてもらえないというパラノイア的恐怖を扱った、マシスンの古典的ホラー作品です。怪物の実在はほぼ疑い得ないのですが、それを誰にも信じてもらえず、元々神経症的傾向のあった主人公の精神がさらに追い詰められていくという、息詰まるような作品になっています。

アンブローズ・ビアス「飛行機械」
 飛行機械を作った男が実験飛行をして失敗してしまう、という掌編。皮肉な寓話といった趣の作品です。

E・C・タブ「ルシファー!」
 死体保管係のフランク・ウェストンは、死体にはめられていた指輪を盗みます。その指輪には五十七秒だけ、時間を巻き戻す力がありました。フランクは何をしても時間を巻き戻せば、全てがなかったことになるのをいいことに、残酷な行為を繰り返します…。
 五十七秒間だけ時間を巻き戻せる力を手に入れた男が、生来のサディスティックな性質から残酷な行為を繰り返す、という物語。やがてとんでもないしっぺ返しを受けることになるのですが、指輪の力のせいで、運命の残酷さがさらに強烈なものになるという結末もブラックで鮮やかです。

トム・ビッセル「第五のカテゴリー」
 法律家のジョンが飛行機内で目を覚ますと、周囲には誰もいませんでした。乗客を探すものの、乗務員を含め誰も人間が見当たりません。荷物入れを探してみたところ、隣に座っていた女性の死体が詰め込まれているのが見つかります…。
 乗客が消失するという大がかりな演出で、超自然的なシチュエーションのホラーかと思わせるのですが、意外にも、現実的な恐怖が中心となるという面白い作品です。主人公の法律的な解釈が、戦争での残酷さを助長することになり世間から非難されているという設定で、主人公はその罰を受けることになります。
 作者は湾岸戦争を取材したこともあるというジャーナリストだそうで、そのあたりの経験が、この作品にリアルさを与えている一つの要因でもありましょうか。

ダン・シモンズ「二分四十五秒」
 高所恐怖症の気のある爆発物の専門家の恐怖の心象を描いた作品、でしょうか。悪夢のような情景がフラッシュバックで描かれています。

コーディ・グッドフェロー「仮面の悪魔」
 ライアン・レイバーンは、南米のショクロア族の生き残りから奪った手彫りの仮面を飛行機に持ち込みます。機内で彼の隣席に座った盲目の少女は激しい咳をし始めますが…。
 飛行機内に呪いの仮面を持ち込んでしまったことから、その呪いによって次々と乗客が死んでいくというホラー作品。生理的な気色悪さが強烈ですね。

ジョン・ヴァーリイ「誘拐作戦」
 未来から現代の飛行機に現れた誘拐部隊の隊員たち。遺伝子操作の乱用により人間の成長が阻害され、地球もまともに住めなくなった未来から、彼らは事故で死ぬ運命の人々を未来に連れていく使命を帯びてタイムトラベルをしてきていたのです…。
 人類が袋小路に陥った未来において、人類を存続させるために過去の人々の誘拐を行う部隊を描いた作品です。未来に生きる人々も、連れ去られた人々も、どちらもろくな生涯を送れない、という結末の暗澹さは印象的ですね。

ジョー・ヒル「解放」
 飛行中の旅客機において、機長から緊急のニュースが放送されます。グアム付近で核爆弾によるものらしき攻撃があったというのです。乗客たちはニュースを知り動揺しますが…。
 飛行中に破滅的な戦争の開始を知らされた乗客たちをカットバックで描いていくという、普通小説的な作品です。東洋人、性的マイノリティ、人種差別主義者など、多様な人間たちの様々な反応が描かれていきます。
 人種差別発言を繰り返す男とそれに反発する男が分かりあったり、年齢差のある女優と男が瞬間的に愛情を感じたりと、極限状況に置かれた人間の不思議な心理が描かれていく部分が読みどころでしょうか。明らかに「悪者」である人種差別主義者の男が、その実、妻に対して深い愛を抱いており、妻もまた彼を英雄視している、というのも面白いところです。
 「解放」されたのは誰(何)なのか? タイトルもいろいろと考えさせるところがあり、意味深です。

デイヴィッド・J・スカウ「戦争鳥(ウォーバード)」
 第二次大戦に参加した父親の仲間の生き残りである老人ジョーゲンセンを取材することになった「わたし」。ジョーゲンセンが語る戦争中の話のなか、彼は自らが目撃したという奇妙な怪物の話を始めますが…。
 タイトルにもある「戦争鳥(ウォーバード)」をテーマにした作品なのですが、作品の大部分はリアルな戦争描写について占められています。「戦争鳥(ウォーバード)」は実在するのか? 寓話的な要素もある戦争物語です。

レイ・ブラッドベリ「空飛ぶ機械」
 古代中国の皇帝元は、侍従から、翼を着けて空を飛んでいる男がいるという知らせを受け、それを見に行くことになります。空を飛んでいる男がそのための機械を発明したことに対して、皇帝はその美しさを認めながらも、男を捕らえよと命令します…。
 発明の芸術性を認めながらも、政治と国にとってはそれは害悪になると、発明物と発明家をなかったことにしようとする皇帝を描く物語です。古い時代を舞台にしたディストピア物語と言えるのですが、皇帝がある種の悲しみを感じているところに、彼が単純な暴君ではなく豊かな感性を持った人間であることも示され、寓話としても懐の広い作品になっていますね。

ベヴ・ヴィンセント「機上のゾンビ」
 ウイルスによってゾンビが蔓延した世界で、生存者たちの小さなグループのリーダーとなっていたマイルズ。グループ内の男バリーが飛行機を運転できると言い出したことから、彼を信じて皆で脱出計画を決行することになりますが…。
 ゾンビに支配された世界での絶望的な逃避行を描いた作品です。飛行機を運転できると豪語する男がほら吹きの可能性もあるなか、不安を抱えながら計画を進めるグループが描かれます。飛行機での脱出自体は成功するものの、その先も特に希望があるわけではない、というラストの情景も味わいがありますね。

ロアルド・ダール「彼らは歳を取るまい」
 偵察飛行に出たまま行方不明になっていた男フィン。帰還したフィンはその間のことを覚えていないというのです。仲間の機が撃墜されたことをきっかけに記憶を取り戻したフィンは、信じられないような話を始めますが…。
 空軍のパイロットが飛行中に垣間見た、神秘的な経験が描かれる幻想小説です。いわゆる「臨死体験」のようでもあり、その体験の当事者がそれ以来死に惹かれるようになってしまう、という部分も考えると怖いところではありますね。

ピーター・トレメイン「プライベートな殺人」
 飛行機内の化粧室に入ったきり出てこない客を心配し中を開けてみたところ、そこには撃たれたような跡のある男の死体がありました。死んだのは有名な富豪のグレイでした。
 乗務員たちは自殺ではないかと考えますが、居合わせた犯罪学博士フェインは、グレイは殺されたに違いないと断言します…。
 密室で殺された男の謎を解くという、本格ミステリ作品です。密室の謎よりも、殺人の動機面から真相を探っていくところが面白いですね。

スティーヴン・キング「乱気流エキスパート」
 病的な飛行機嫌いにもかかわらず、何者かの依頼を受けるたびに飛行機に乗り込むクレイグ・ディクスン。彼は何のために飛行機に乗り込むのか…?
 人々を救うために飛行機に乗り続ける「乱気流エキスパート」の男を描いた作品です。積極的に何かをするのではなく、ただいるだけで役目を果たすという、消極的な手法で仕事をする主人公の行動が面白いところです。まるでシリーズのプロローグのような結末も印象的。

ジェイムズ・ディッキー「落ちてゆく」
 飛行機から落下したスチュワーデスが落ちていく過程を表現した詩作品。実際にあった事故からインスピレーションを得ているそうです。暗い題材ではありながら、きらびやかなイメージも多く使われているのが特徴ですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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