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超論理の世界  ジャン・レイ<名探偵ハリー・ディクソン>シリーズ
 ジャン・レイ(1887年~1964年)は、SFや幻想小説を中心に活躍した、ベルギーのエンターテインメント作家です。彼が執筆した年少読者向けの<名探偵ハリー・ディクソン>シリーズは大変な人気があったそうで、1980年代に日本でも全三巻(合計六話)の邦訳が出ています。
 アメリカ出身でイギリスで活動する探偵のハリー・ディクソンと助手のトム・ウイルズの活躍を描くシリーズなのですが、合理的に謎が解かれる本格ミステリではなく、超自然、オカルト、宇宙人、殺人兵器など、何でもありの楽しい冒険ファンタジーとなっています。
 「合理的」ではないものの、作品に登場するSF・幻想的な要素が最終的には上手くまとめられ、その「超論理的展開」には、ある種の説得力が感じられるのが魅力ですね。荒唐無稽ではありますが、読んでいて非常に楽しいシリーズです。
 主人公であるハリー・ディクソン、最終的には勝利を収めることにはなるのですが、扱う事件が、超自然現象や科学兵器など、人間の能力を超えたものが多いため、作品前半では犯人や怪人にしてやられてしまうことも多いです。目の前であっさり人を殺されてしまったり(全体に人死が多いですね)するのですが、逆に人間の手には負えないという意味で、事件の規模の壮大さが強調されるのにつながったりもします。
 助手のウイルズはかなり有能なキャラクターで、様々な場面で活躍します。行動的で変装もお手の物、探偵と別行動をして単独で動くこともありと、一見、ディクソンよりも活躍の度合いが強いエピソードもあったりしますね。
 この<ハリー・ディクソン>シリーズ、もともとドイツ語によるシリーズだそうで、その翻訳を任されたジャン・レイが、このぐらいなら自分でも書ける、ということでオリジナルな話を書き始め、それが人気を得たそうです。
 邦訳エピソード六話だけの印象ではありますが、資質が怪奇幻想的なものにある作家ゆえか、怪奇・オカルト的な題材を扱った作品の完成度が高くなっているように思います。


名探偵ハリー・ディクソン〈1〉怪盗クモ団 (岩波少年文庫) 単行本 – 1986/11/13


ジャン・レイ『怪盗クモ団 名探偵ハリー・ディクソン1』(榊原晃三訳 岩波少年文庫)

「怪盗クモ団」
 名探偵ハリー・ディクソンのもとに、精巧なクモの装身具が突然現れます。用心して見張っていても、いつの間にかそのクモは増えていました。事務所に現れた若い娘はマドモアゼル・キュブリエと名乗り、クモを置いたのは自分の仕業だといいます。彼女は犯罪組織<クモ団>の首領であり、自分たちの邪魔をするならディクソンを殺すと脅迫しますが…。
 可憐な少女に見えながら、その姿は神出鬼没。部下を使って金を奪い、人を殺す残酷極まりない女首領と名探偵ハリー・ディクソンとの戦いを描いた作品です。
 この女首領、組織の人間を多数使うばかりか、自らも積極的に動くため、ディクソンも事件を防ぎきれず、犠牲者も多数出てしまいます。戦いの中で、二人の間に仄かな恋情のようなものが生まれる…という展開も良いですね。
 この女首領、魅力的なキャラクターだけに、作者も惜しいと思ったのか、明確に決着が着かずに終わるところも面白いです。

「謎の緑色光線」
 ロンドン警視庁のグッドフィールド警視とその部下たちは、とある村での捜査を終えた後、車が故障し立ち往生してしまいます。近くに明かりが見え近づいていきますが、それはかって、火事で焼け落ちたジョージ・マーカム卿の古い館でした。直後に謎の緑色の光線に襲われた彼らは、自動車と運転手を黒焦げにされてしまいます。
 ハリー・ディクソンの元には、金をよこせという脅迫を受けた富豪たちが次々と相談に訪れます。フランスから派遣された刑事によれば、前代未聞の兵器を開発していた科学者アロトーが失踪し、脅迫の首謀者はその兵器を手に入れたのではないかというのです…。 人も建物もあっという間に破壊する謎の兵器「緑色光線」を手に入れた犯人と名探偵の戦いを描く作品です。「緑色光線」の他に「殺人ロボット」なども登場し、その破天荒さにはびっくりしてしまいます。
 SF的なテーマを扱っていますが、その科学的設定はかなり雑。また「意外な犯人」が登場はするものの、推理もへったくれもなく、成り行きと力業で事件を解決してしまいます。ところどころでアクション・見せ場も多い、大雑把ではありながら、楽しい一篇になっています。



地下の怪寺院―名探偵ハリー・ディクソン 2 (岩波少年文庫 (3122)) 単行本 – 1987/10/19


ジャン・レイ『地下の怪寺院 名探偵ハリー・ディクソン2』(榊原晃三訳 岩波少年文庫)

「七狂人の謎」
 アメリカ時代の幼馴染みであり、行き来の途絶えていた旧友レジナルド・マーロウから、ディクソンの元へ助けを求める手紙が届きます。辺鄙な場所ファイアストーン・ヒルにあるマーロウの館に辿り着いたディクソンが聞いたのは、奇妙な話でした。
 この地方の資産家たちが次々と発狂しているというのです。すでに六人がその状態になり、近くにある精神科医マーデン博士のサナトリュームに収容されているといいます。次に狙われるのは、同じく資産家である自分ではないかとマーロウは恐れていました…。
 病なのか人為的なものなのか、理由が分からないながらも、地元の名士が次々と精神的におかしくなってしまう事件にディクソンが遭遇します。一見超自然的な色合いが濃く、怪奇色の強い作品になっていますね。
 明らかに怪しい精神病院はともかく、意外な人物が意外な形で事件に関わっていたことが分かるラストには驚くのではないでしょうか。結末も相当にブラックです。

「地下の怪寺院」
 探偵ディクソンと助手のウイルズは、かって邪悪な行為を繰り返し滅亡することになったクリックルウェル一族の館のそばで、謎の飛行物体と同時に、見るも恐ろしい怪物を目撃します。
 記憶力に優れる新聞記者スカーレットの話から、かって月へのロケットを飛ばすことに失敗したことから<アップルツリー>という綽名の付けられたベネズエラの科学者ペレイロス博士が、飛行物体に関わっているのではないかという疑いが浮上します。
 捜査に協力していたスカーレットは死体となって発見されます。ウイルズの調査の結果判明したのは、部屋に会ったねばねばの粘液、そしてスカーレットは、恐怖のあまりに死んだ可能性が高いということでした…。
 科学者によるロケット実験、滅んだはずの邪悪な一族、暗躍するカルト教団、謎の地球外生命体、地下に建設された寺院など、様々な要素がてんこ盛りで、一見、大風呂敷を広げすぎにも見えるのですが、それらが最終的には上手くまとまってしまうという、破天荒かつ魅力的な物語です。
 メインとなるのは、宇宙へのロケット研究を続ける科学者ペレイロスをめぐる部分で、彼自身か、その黒幕らしき存在が大胆な計画を進めていることが判明します。後半に登場する地下寺院での展開は、本当に奇想天外で、驚きの連続です。
 序盤で言及される邪悪な一族の話が、単なる物語の装飾に過ぎないのだと思っていると、結末でそれが生きてくるという趣向にも驚かされますね。



悪魔のベッド―名探偵ハリー・ディクソン 3 (岩波少年文庫 (3123)) 単行本 – 1987/12/18


ジャン・レイ『悪魔のベッド 名探偵ハリー・ディクソン3』(榊原晃三訳 岩波少年文庫)

「悪魔のベッド」
 グランピアン山脈の北の斜面に現れたり消えたりする不思議な湖。百年近く前に、その湖に浮かぶ小島で暮らしていたグレストック一族の青年が残した手記が競売にかけられていることを知ったハリー・ディクソンは、その手記を入手します。
 本を手に入れようと、ディクソンと競り合う男がいましたが、どうやらその男サーバスは、湖があった場所に建つ館の管理人のようなのです。
 手記に書かれていたのは奇妙な事件でした。家族全員が島を離れた後、再度一人だけ戻ってきた青年ジョン・グレストックは、荒れ果てた家の一室だけが綺麗に保たれていることに気付きます。そこには豪華なベッドが用意され、何物かが寝起きしているようなのです。落下してきた天蓋によって圧死するのを免れたジョンは、突然現れた男たちから、家から出て行けと言われ困惑することになります。
 一方、現代では、地質学者のマールウッドがグランピアン山脈で死亡しているのが発見され、死体のそばの岩の側面には<グレストック>という文字が記されていました。グレストック一族の館が事件と何か関係があるのではないかと考えたディクソンと助手のウイルズは、手記にあった古い館を調査に向かいます…。
 誰も住まなくなったはずの館に現れた「悪魔のベッド」。誰が何のために用意し、誰がそれを使っているのか? 百年近く前の不思議な事件を発端に、現代でも摩訶不思議な事件が起こります。
 現代のパートでは、研究者であるという妖艶な美女ライナと、彼女に惚れ込んだ青年貴族エドワード・ヘイ卿が登場します。この二人のロマンスが展開するのかと思いきや、思いもかけない方向に物語がねじれていくのは、破天荒なこのシリーズならではですね。
 登場する怪奇現象や怪物などにもインパクトがありますが、それに対抗するハリー・ディクソンの行動も強烈です。敵を殲滅するための荒っぽい方法には「やりすぎ感」が感じられるほどです。

「銀仮面」
 科学者カルトロップ教授によって作られた飛行船E19号から乗客が落下し、飛行船自体も消えてしまうという事件が起きます。その謎を追って、ディクソンはある村を調査に訪れます。村の住人は皆独身者でしたが、それぞれが後ろ暗い過去のある連中ばかりのようなのです。やがて村の住人が次々と命を落とします。廃墟の地下に潜入したディクソンは、銀色の頭を持った謎のロボットに襲われますが…。
 飛行船の落下事故と消失、身分を隠した男ばかりが集まる村、連続殺人事件、謎のロボット…。シリーズの他作品同様、謎に満ちた要素が次々と放り込まれ、ワクワクさせるお話になっているのですが、この作品に関しては、正直なところ、事件同士の結びつきが弱く、ちょっと散漫な印象にはなってしまっていますね。
 ただ、事件全体を仕組んだ犯人の計画が判明する部分はよく出来ていると思います。かっての敵である犯罪者とディクソンが、一時的に手を組むことになる…という展開もなかなかです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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