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奇想世界  榊林銘『あと十五秒で死ぬ』

あと十五秒で死ぬ (ミステリ・フロンティア) 単行本 – 2021/1/28


 榊林銘『あと十五秒で死ぬ』(ミステリ・フロンティア)は、奇想天外な特殊設定ミステリを四作収録した短篇集です。

「十五秒」
 薬剤師の「私」が気が付くと、目の前に銃弾が浮いていました。見ると、自分の胸に穴が開いており血しぶきが飛んでいたのです。しかし周りの時間が自分を含め停止しているようで動くことができません。そこに現れたのは、人間サイズの巨大な猫でした。死神のようなものだと名乗る猫によれば「私」は銃弾で貫かれ死ぬ直前であるというのです。「私」には犯人と動機に心当たりがありました。絶命までに十五秒が残っていると聞いた「私」は、犯人を確認するため猫に頼み、その時間の間だけ時間を何度も止められる能力を与えられることになりますが…。
 死ぬ直前の女性薬剤師の「私」が、死神に与えられた十五秒を使って、犯人を確認しダイイングメッセージを残そうとする作品です。犯人には心当たりがあり、実際にその人物であることがすぐに確認できるので、実際の「私」の行動は、犯人に見つからないようにメッセージを残すことがメインとなります。
 犯人に見つかったらメッセージが消されてしまうので、いかに上手く犯人の目をくらますか、という工夫がされていくのが面白いですね。
 時間停止によって考える時間が与えられるとはいえ、実際の体は出血により死ぬ寸前、まともに体を動かせばその影響で短い寿命がさらに縮んでしまいます。
 生涯に残された十五秒で何ができるのか? というあたり、何ともスリリングでトリッキーな展開が描かれます。主人公が薬剤師ならではの策を練るところも面白いですね。

「このあと衝撃の結末が」
 『クイズ時空探偵』という、クイズ付きのタイムトラベルドラマを見ながら寝てしまっていた中学生の「俺」は、ドラマのヒロインが結末で死んでしまうのを見て驚きます。ドラマを最初から見ていたという姉は、ちゃんと伏線はあったといいます。
姉の口車に乗せられ、「俺」は、ドラマをダイジェストで最初から見返すことになりますが…。
 ミステリドラマの真相を推理する…というお話なのですが、そのドラマがタイムトラベルを扱った作品であること、クイズ付きであること、視聴者参加型番組であることなど、複雑な要素が加えられて、トリッキーな作品になっています。
作中話であるドラマのストーリー自体はわりとオーソドックスなお話なのですが、それをめぐる推理部分はとても魅力的。脚本家による「あなたも過去を変えられる」というドラマのコンセプトが示されるのですが、これが文字通りのトリックとしてドラマに埋め込まれる趣向はすごいですね。

「不眠症」
 体の弱い母親と二人で暮らす娘の茉莉は、時折見る妙な夢に悩まされていました。その夢では母親の運転する車の助手席に座った自分が、母親から話しかけられ、その直後に意識が飛んでしまうのです。しかも母親の言葉は夢を見るたびに変わっていくようなのですが…。
 その内容がいつも異なる、夢の中での母親の言葉は何を意味しているのか? を探ってゆく夢テーマ作品です。
 現実での親子二人きりの生活に幸福感を覚えていた茉莉は、夢の意味するものについて悩みます。夢の中での茉莉と母親との関係は、現実での関係とはどこか違っているようなのです。
 ミステリ味もありますが、これはどちらかと言うと幻想小説でしょうか。切なさも感じられる秀作です。

「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
 日本海の北に浮かぶ赤兎島の住民には特殊な体質がありました。首が取れやすいのです。力を強くかけると首が取れてしまうのですが、十五秒以内に体につなげれば死なないのです。その事実は島外の住民には秘密にされていました。
 祭りの夜、林道を歩いていた高校生の克人は、何者かに突然襲われ、離れた場所に首を飛ばされてしまいます。死を覚悟した瞬間、たまたま来合わせた友人の姫路公は自らの首を外し、克人の首をすげ変えます。十五秒以内に首を付け替えることを繰り返し、助けを呼びに行こうと二人は考えます。
 一方、神社で発見された克人の体は灯油をかけられ燃やされていました…。
首を外すことのできる特殊な体質の島人の間での殺人事件(体だけですが)が起こるという、ユニークな設定のミステリ作品です。主人公の体を燃やし、殺そうとした犯人は誰なのか? というのがメインの謎なのですが、それ以前に、主人公たちの陥った環境が強烈で印象に残る作品です。
 他人の体であったとしても、ほぼ同い年で同じ性別であれば首をつけることができるのです。そのため主人公の克人は、友人と首を十五秒以内に付け替え続けるという、とんでもない設定です。のちには別の友人が現れ三人内で交代で作業をすることになるのですが、そのままでは、いずれ死を迎える可能性が高いのです。その間に謎を解くことができるのか? という、タイムリミット・サスペンスにもなっています。
 十五秒以上首を外しておければ人を殺せる一方、首を外したからといって即死を意味するわけではない、という性質を上手く利用したお話になっており、その奇想天外な発想には驚かされます。また、クライマックスでの解決方法の力業には唖然としてしまいます。 特殊な世界観とその謎解きが無理なく結びついていて、まさに「異形のミステリ」といえる作品です。

 「十五秒」にも感心したのですが、一番インパクトが強いのは、やはり「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」でしょうか。いわゆる「バカミス」の領域に入る作品だと思いますが、そのブラック・ユーモアと、意外に本格的な推理も含めて楽しい作品でした。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「あと十五秒で死ぬ」読みました。
 これは面白かったですね。
私的には、「このあと衝撃の結末が」が一番ハマりました。
二段構えのミステリー自体は珍しくないけれど、
こういう二段構えは予想外でした。
皆が幸せで終わるミステリーもあるんだなと、感心しました。

「首が取れても死なない…」は、
最終的に巡査が全部、持っていってしまいましたね(笑)。
私は、足りない胴体はまさか、序盤に出てきた学校の人体模型に接続するのか?
などと考えてしまいました。
【2021/07/10 19:12】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
全体に設定凝りすぎのお話が多くて楽しかったですね。
「首が取れても死なない…」は、終始唖然とするような展開で、ミステリと言うよりは奇想小説みたいな感覚で読みました。
【2021/07/10 19:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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