ブラッドベリアーナ その2
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 今回は、印象に残っているブラッドベリの作品について、書いてみます。
 まず、SFでの代表作となると、やはり連作短編集『火星年代記』ということになるのでしょうか。これは確かに傑作だと思います。火星が舞台といっても、ブラッドベリの描く火星というのは、SF映画のイメージにあるような宇宙的なものでは全くありません。設定を読み飛ばしたなら、舞台はアメリカの田舎町なのかと思うような、きわめて地上的なもの。そういうところが「科学的」ではないと批判される所以なのでしょうが、ブラッドベリに関してはこれがむしろ魅力になっているのではと思います。
 読む前は、火星に植民した人々の生活をリリカルに語る作品…だと思いこんでいたのですが、これ前半に関しては、なかなかサスペンス味が豊かで驚きました。『第三探検隊』など、人間に敵対する火星人がけっこう得体が知れなかったりして、ホラーとしても読むことができます。
 火星で鞄を売る男の話『鞄店』だとか、結末の『百万年ピクニック』なんかもよいのですが、個人的に一番好きなのは、やはり『優しく雨ぞ降りしきる』。物語という物語があるわけではないのですが、静謐なイメージが、ただただ、美しい一編。
 あと単独での短編についても、いくつか触れてみたいと思います。 
 SF的なアイディアで、いちばん驚いたのは『霜と炎』(創元SF文庫『ウは宇宙船のウ』収録)。時間の流れが異様に速い惑星が舞台。ここでは人間は生まれてすぐに大人になり、老衰してしまうのです。その寿命はわずか一週間程度! 主人公は、先祖が乗ってきた宇宙船でこの星を脱出しようとしますが、それを邪魔する勢力が。残された寿命は、あとわずか数日…。
 人質に残された時間はあとわずか、とか死刑執行何日前、とか〈タイム・リミットもの〉は数あれど、ここまで極限的な条件を課された作品は前代未聞なのではないでしょうか。まさに究極のタイム・リミット・サスペンス・SFです。
 イメージの美しさでは『万華鏡』(ハヤカワ文庫NV『刺青の男』収録)。宇宙船の爆発により船外に放り出された乗組員たち。仲間たちは各惑星の引力に引かれて落ちていきます。そして主人公は地球に流れ星となって降り注ぐ…。結末の映像美は比類がありません。
 『鉢の底の果物』(ハヤカワ文庫NV『太陽の黄金の林檎』収録)は、リチャード・マシスンを思わせるパラノイア・ストーリー。殺人を犯した男は、立ち去る間際に自分の指紋が残っていることに気づきます。あわててふき取ったものの、考えれば自分はこの家のあちこちに触っている…。ある種、滑稽なまでの結末が印象的。
 『歓迎と別離』(ハヤカワ文庫NV『太陽の黄金の林檎』収録)。いつまで経っても成長せず、外見は子供のままのウィリー。しかし、本当は43歳なのです。その秘密のために、彼は同じところに数年間以上いることはできません。仕事につくことも不可能な彼が見つけた天職とは…。「永遠の子供」を真っ正面から取り上げた作品です。
 『誰も降りなかった町』(早川書房『メランコリイの妙薬』収録)。ふと電車から降り立った男。彼は長年の考えを実行にうつそうとしているのです。それは見知らぬ町の見知らぬ人間を殺す、というもの。ホームにいた一人の老人を標的と見定めた彼でしたが、老人は思いもかけないことを話し出します…。
 殺人願望を秘めた男のクライム・ストーリーが、思いもかけない結末に。まさに、ブラッドベリにしか書き得ないミステリ。
 『十月のゲーム』(新潮文庫『十月の旅人』収録)。妻とうまくいっていない男。彼は妻に復讐するために、自らの血をも引いている娘を殺そうとします。そしてハロウィーンのパーティの夜に…。
 理解できない、まったくの異物としての妻と娘。疎外感に苛まれた男のサイコ・スリラーとも読める残酷譚。
 『夜のコレクト・コール』(ハヤカワ文庫NV『キリマンジャロ・マシーン』収録)。火星の捨てられた町に一人残った狷介な男。他人の全くいない、静寂そのものの町に、数十年ぶりにかかってきた電話。それは男が若い頃に設置した自動電話システムでした…。
 傲慢な男が、冗談まじりに作った電話。老齢となった孤独な男が自らの声によって、さらに孤独を深める…という皮肉な物語。火星の見捨てられた町の夜の情景が美しい作品です。
 『火の柱』(創元SF文庫『スは宇宙のス』収録)。突然墓の中から生き返った男は、そこが未来であることを知ります。ポオやラヴクラフトが焚書になるこの世界に憎悪を覚えた彼は、衝動のままに、ひたすら殺人を繰り返すのですが…。
 変わってしまった世界に対し、ひとり戦いを挑む主人公。失われたものに対する哀惜の感情が胸を打つ、神話的な趣さえ感じられるピカレスク・ロマン。
 まだまだ語りたい作品はあるのですが、とりあえずこのぐらいで。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
忘れえぬ短編
自分の気に入ったブラッドベリの短編を選んでいく作業も楽しいですね。ただ困ったことに手元に本がありません。それならいっそ記憶のみを頼りにセレクトしてみましょう。
『ウは宇宙船のウ』が最初のブラッドベリ体験だったと思います。「長雨」は私の金星のイメージを決定づけてしまった忘れえぬ短編です。この集は叙情性を抑えたSFテイストが強い作品が多くて、SF読み始めの中学生にとって"万華鏡"のようでした。「霜と炎」についてはほとんど同感です。
『火星年代記』では、2番目の作品だったでしょうか、火星人の妻が不安な予感にかられていく話が一番印象に残っています。この奥さん、なんかかわいい。
『十月はたそがれの国』では、「アンクル・エナー」、「集会」などの"一族"の話がよかったですね。ですから近作の『塵よりよみがえり』はけっこううれしかったですよ(kazuouさんは厳しい評価のようですが)。
あと題名も短編集も失念してしまいましたが、龍(=蒸気機関車)に向かって突進していく騎士の掌編もなぜか忘れがたいなあ。
「霧笛」は萩尾望都の漫画のイメージが強いですね。
題名が印象深くてわけがわからないながら記憶に残っているのが「世にも稀なる趣向の奇跡」。結局、蜃気楼を見るだけの話だったのかな?



【2006/08/08 21:17】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

人それぞれですね
数あるブラッドベリ作品、やっぱり人それぞれ、お気に入りの作品があるみたいですね。
僕は、センチメンタルに寄った作品は、あんまり好みじゃないかもしれません。〈一族もの〉は、その点どうもピンとこないところがあるんですよね。
蒸気機関車に突進する騎士の話は、『竜』(『ウは宇宙船のウ』収録)でしたっけ? 掌編ながら、イメージの素晴らしい作品だったと記憶してます。
『世にも稀なる趣向の奇跡』は、まあ「蜃気楼を見るだけの話」ではありますね。
萩尾望都の漫画家作品については、次回に触れる予定です(まだ続く?)。
【2006/08/08 21:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


ここに挙げられた作品、ほとんど読んだのですが、全く印象に残っていません。
正直この人はSF作家ではなく、ちょっとホラー味の幻想作家だと思っています。
いまこの人の作品の中で私が一番好き(だと初めて読んだ時に思った)な「たんぽぽのお酒」を十数年ぶりに再読していますが、改めて読むとやはりこれも幻想小説ですね。
近日レビューします
【2006/08/10 00:36】 URL | piaa #- [ 編集]

そのとおりですね
ブラッドベリは、たしかにSF作家ではなく幻想小説作家、だというのは、そのとおりだと思います。はっきり言ってSFはダシにすぎない感じです。ただSFの衣をかぶせたときに、よりブラッドベリらしさが際だつのは確かです。
piaaさんは、『たんぽぽのお酒』がお好きでしたか。僕は逆にこの作品、印象が薄いんですよね。とはいえ、随分前に読んだので、今再読すると、また別の感じを受けるかもしれません。
【2006/08/10 06:55】 URL | kazuou #- [ 編集]


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