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永遠の子どもたち  ニール・シャスターマン『エヴァーロスト』

エヴァーロスト (ソフトバンク文庫) 文庫 – 2008/2/15


 ニール・シャスターマンの長篇『エヴァーロスト』(岡田好恵訳 ソフトバンク文庫)は、不慮の事故で死んだ少年少女が、死後の不思議な世界<エヴァーロスト>に迷い込み冒険を繰り広げるというファンタジー作品です。

 14歳の少年ニックと少女アリーは、交通事故で命を落としてしまいます。二人が目を覚ますと、そこには、年下らしき少年がいました。その少年リーフが話すには、ここは死んだ子どもだけが滞在できる死後の世界だというのです。
 この世界<エヴァーロスト>からは生者の世界には干渉できず、立ち止まっているとどんどん地中に体が沈み込んでいってしまうのです。家に帰りたいアリーはニックとリーフと共に旅へ出ることになります。やがて彼らは、この世界の指導者的存在である少女メアリー・ハイタワーと出会うことになります…。

 命を落とし死後の世界に迷い込んだ少年少女が、その別世界で冒険を繰り広げる…というファンタジー作品です。この死後の世界<エヴァーロスト>が独特の造形をされており、その世界観がこの作品の一番の魅力ともなっています。
 子どもだけが入れる世界であり、その子どもたちも必ずしも<エヴァーロスト>に来るわけではありません。立ち止まっていると体が沈み込んでしまい、ほうっておくと地中に取り込まれて戻ってこれなくなってしまいます。沈み込まない特定の場所「デッドスポット」に行かなければ落ち着くこともできません。
 この世界に来る段階では死んだ直後の姿形が固定されており、例えばニックは、顔につけたチョコが取れない状態でこの世界へやってくることになります。長年この世界で生活していると記憶も薄れ、自らの名前さえ思い出せなくなってしまうのです。

 <エヴァーロスト>の指導者的存在メアリーと出会ったニックとアリーは、彼女からこの世界のルールや特徴を教えてもらうことになります。彼女によればこの世界から脱出することは不可能だというのですが、メアリーは何かを隠しているような節もあるのです。
 後半では、善意と母性に満ちたメアリーとは対極に、力で一部の子どもたちを支配する存在も現れ、ニックとアリーはその争いに巻き込まれていくことにもなります。

 面白いのは、<エヴァーロスト>における「物」の扱い。人間だけでなく、物質にも「死」があり「幽霊」になるというのです。食べ物にしろ道具にしろ、それらが「幽霊」になれば、<エヴァーロスト>の住民たちにもそれらが使用可能となるのです。
 それの延長で、建物に関してもそれが「死んだ」場合、<エヴァーロスト>に幽霊となって現れ、そこはまた「デッドスポット」にもなっているため、住民たちにとって安全な場所にもなっているという具合です。

 <エヴァーロスト>は完全な別世界ではなく、現実世界と異なる層で重なり合った世界のようであるのも、独自の設定ですね。子どもたちの中には、生者の世界に干渉できる能力を持つ者もいるらしく、それがまた後半の展開にも重要な関わり合いを持ってくることになります。
 最終的に<エヴァーロスト>の世界の秘密が明らかになり、主人公たちはそれぞれの決断を迫られることになります。しかしその決断は必ずしも皆の幸福を意味するわけではない…というあたりに、ほろ苦い部分も感じられますね。

 登場人物はみな子どもであるだけに、突然の事故で命を失ったものが多く、生前からの執着心などを抱えています。それは新米のニックやアリーだけでなく、長い間<エヴァーロスト>で暮らす者たちも同じで、そうしたものから超然としている指導者メアリーでさえ利己的な執着心を抱えていたことが分かるラストには味わいがありますね。
 主人公二人だけでなく、周囲の人物を含めて、少年少女たちの成長(肉体は死んでいるので「魂」の成長とでもいうべきでしょうか)を描く良質なファンタジー作品となっています。

 物語の合間合間に、メアリーが<エヴァーロスト>について書いた本の断章が引用されていく、という趣向も面白いです。この世界についての知識を読者に説明するために引用されているのかと思いきや、必ずしもそれが全て真実ではないことも分かってくるなど、ある種の「ミスディレクション」ともなっているようですね。しかも後半では、メアリーに対抗してアリーが書いた本の内容も出現するなど、ユーモアたっぷりの趣向となっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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