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愛と永遠  S・P・ソムトウ『ヴァンパイア・ジャンクション』

ヴァンパイア・ジャンクション (創元推理文庫) 文庫 – 2001/9/1


 S・P・ソムトウの長篇『ヴァンパイア・ジャンクション』(金子浩訳 創元推理文庫)は、世界中の話題をさらう美少年歌手が、実は数千年を生きるヴァンパイアであり、彼の数奇に満ちた人生が語られていくというホラー・ファンタジー作品です。

 大ヒット曲《ヴァンパイア・ジャンクション》で、世界中のティーンエイジャーから絶大な人気を誇る12歳の美少年ロック歌手ティミー・ヴァレンンタイン。彼の正体は、数千年の時を生きる吸血鬼でした。名前を変え、場所を変えては生き延びてきたのです。
 ティミーから依頼を受けた女性精神分析医カーラ・ルーベンスは、彼の数奇に満ちた過去を聞くことになります。
 一方、オカルトを信奉する団体〈混沌の神々〉の面々は、ティミーの存在を知り、彼を殺すための偶像を手に入れようと東南アジアに向かいます。
 カーラの前夫である指揮者スティーヴン・マイルズは、幼い頃に目撃したティミーの存在に憑かれていましたが、ある事情から〈混沌の神々〉行動を共にすることになります。
 また、吸血鬼によって姪を殺されたブライアンは、復讐のためにティミーたちを追っていました…。

 長い時を生きる美少年吸血鬼ティミーについて、現代アメリカで歌手として活躍する様子と、波乱に満ちた彼の過去が、カットバックで語られていくというホラー・ファンタジー作品です。
 ティミーの過去に関しては、彼の精神分析をすることになった女医カーラが、それぞれのエピソードを聞いていくという形になります。過去のエピソードでは、人間の少年のふりをしてそれぞれの時代や町に入り込んだティミーの動きが語られていくのですが、どれも伝奇的な味わいがあって面白いですね。
 中では、ナチスの収容所に入り込み、何度も殺されるというエピソードや、ジル・ド・レーに捕らえられ、彼の邪悪さと狂気に当てられてしまうエピソードなどのインパクトが強いです。
 現代では、仲間を求めるティミーが、過去に吸血にしてしまった少女キティーを見つけたことから彼女を保護しますが、彼女が勝手に吸血行為を繰り返し吸血鬼を増やしてしまったり、自殺願望の強い少女リサを吸血鬼にしてしまったことから、リサの叔父ブライアンがティミーに復讐心を抱くことにもなります

 ティミーの明確な敵として現れるのが〈混沌の神々〉なるオカルト団体。過去に行った儀式によってティミーを呼び出したと信じていることから、彼を退治しようと東南アジアに飛び、不気味な偶像を手に入れようとすることにもなります。
 このメンバーが、比較的まともなスティーヴン・マイルズを除いて、皆が皆変態じみた人間ばかりで怖気を振るってしまいます。主人公ティミーが吸血鬼でありながら、人間に対しても同情心を抱く繊細な少年として描かれており、それもあって、読者としては、彼に敵対する〈混沌の神々〉やブライアンたちの勢力よりも、ティミーの側を応援したくなりますね。

 ティミーの周辺だけでなく、ふとしたことから吸血鬼になってしまった人物とその家族を描くエピソードも作中でいくつか描かれていきます。後半では、町全体の人間が吸血鬼化してしまうことにもなり、ティミーの思惑とは裏腹に、彼が退治されるべき怪物であるかのように思われてしまうのも皮肉な展開です

 この作品に登場する吸血鬼は、変身能力が得意のようで、蝙蝠や狼、他にもいろいろな動物に変身が可能なようです。吸血鬼になったばかりの者は日光や十字架が苦手なのですが、あくまで心理的な制約のようで、ティミーのように長年生きているものは、そうした制約を克服しています。
 ユニークなのは、主人公ティミーの人物像でしょうか。彼が求めているのは愛なのですが、その愛も肉体的なものではなく、精神的・象徴的なそれなのです。鍵を握るのは、精神分析医カーラと、〈混沌の神々〉の一員として行動するものの、ティミーに惹かれ続ける音楽家スティーヴン。彼ら三人が出会ったときに起きるのは何なのか? 「元型」を始めとして、ユング的な思想や解釈が示されたりするあたりも、吸血鬼小説には似合わぬ面白い味わいですね。

 タイトルであり、ティミーの曲でもある《ヴァンパイア・ジャンクション》の「ジャンクション」とは、吸血鬼とそれにかかわる人々の様々な出会いを、分岐点や合流点といった意味を含めて使われているようですね。
 全体としてはミスティックなカラーの作品なのですが、吸血行為や、人間との戦いをめぐる戦闘シーンはかなり派手で極彩色です。スプラッター的な要素も強く、ホラーアクションとしても魅力的な場面が展開されています。後半に登場する、吸血鬼になってしまった家族に襲われる少年たちを描くエピソードは、単体でも恐怖度の高いホラー作品として楽しめます。

 吸血鬼による告白、というテーマでは、アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』(1985年発表)が思い浮かぶのですが、こちらのソムトウ作品の方が発表は早いそうです(1984年発表)。
 シリーズ続編もいくつかあるそうなのですが、そちらは未訳です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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