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「曖昧」な日常  松尾由美『いつもの道、ちがう角』

いつもの道、ちがう角 (光文社文庫) Kindle版


 松尾由美の短篇集『いつもの道、ちがう角』(光文社文庫)は、ジャンル分けを拒否するかのような、風変わりで、奇妙な味の物語を集めた短篇集です。

 奇妙なものを集めるコレクターの同僚が誘拐犯ではないかと疑う「琥珀のなかの虫」、麻疹にかかった少年が過去の記憶を鮮明に思い出すという「麻疹」、公園で知り合いになった画家が刺されたことから、その経緯を推理するという「恐ろしい絵」、マンションの階下の老夫人に呼ばれた住人たちが飼い犬殺しの容疑をかけられるという「厄介なティー・パーティ」、生け垣の隙間から覗いた女性の顔に魅了された青年が隣の家を探ろうとする「裏庭には」、幼い息子と共にシンポジウムに参加したライターが風変わりな団体と接触する「窪地公園で」、かっての恋人の贈り物を思い起こさせる品物を手に入れたことから、過去に思いを馳せる主婦の心理を描いた「いつもの道、ちがう角」の7篇を収録しています。

 明確なオチ(結末)がない作品が多く、その意味で非常に「もやもやした」味わいの強い作品集です。画家が刺された経緯を推理する「恐ろしい絵」や、飼い犬殺しの犯人を探すという「厄介なティー・パーティ」は、ミステリ的な結構が整っていますが、他の作品は意味や解釈が明確でないものが多いですね。

 最も完成度が高いのは「琥珀のなかの虫」でしょうか。休憩中のOLの真世が見つけたのは、クリームを挟む二枚のうち一枚が裏返っているクッキーでした。同僚の若村は、それを欲しがります。彼によれば、そうした個人の意思を超えたエラーや間違いに関わる品物をコレクションしているというのです。
 しかもそれらを樹脂で固め腐らないようにしているといいます。ニュースで、生まれつき障害のある女子大生が失踪したことを知った真世は、若村が人間までをも収集の対象にしているのではないかと疑っていました…。
 奇妙なものを収集するコレクターの同僚が誘拐犯なのではないのか疑うという、ホラー味の強い作品です。その疑いは杞憂だった…と見せかけて落とす結末には、<奇妙な味>風味も強いですね。

 「裏庭には」は、アパートに住む大学生が主人公。ある日、隣家の生け垣から覗いた子供とも大人ともつかぬ女性の顔に魅了された彼は、家の住人について探ろうとします。折しも、近所で小学生の少女が誘拐されたニュースを知った彼は、隣の家にその少女が監禁されているのではないかと疑います…。
 「琥珀のなかの虫」同様、こちらも犯罪を疑う話なのですが、あさっての方向から解決が来て、本来の関心の対象であった部分に超自然的ともいえる謎が残る、という意味深な作品です。変則的なゴースト・ストーリーとも取れる作品で、これは面白いですね。

 「分からなさ」では、「麻疹」「いつもの道、ちがう角」が目立っていますね。
 麻疹で高熱を出した少年が、その都度、過去の記憶を鮮明に思い出し、その中には犯罪に関わる事物も含まれていた…というのが「麻疹」
 ただ、それによって犯罪が明るみになったり、解決したりということはなく、そのまま終息してしまうという、何とも素っ頓狂な作品です。

 表題作の「いつもの道、ちがう角」は、集中でも最もとりとめの無いお話でしょうか。
 夫の急な出張で、新しい住まいでしばらく一人暮らしをすることになった主婦の「わたし」。数回カットしてもらった美容師が道の角を曲がっていくのを見た「わたし」がその道に入り込むと、そこには質屋がありました。
その店でふと気に入ったブローチを買いますが、それは学生時代に不幸な形で別れた恋人がくれた品物と似ていました。考えると、美容師自身も、その過去の恋人に似ていたような気がしてきますが…。
何気なく買った品物をきっかけに過去を思い出す、というお話なのですが、それによって導き出された推測や推理が確かめられるわけでもなく、物語自体も新たな展開を迎えるわけでもありません。飽くまで主人公の心に去来した様々な心象が描かれていくだけ、と言ってもよい作品です。
 それらが抒情的に閉じられたりするのであれば、物語の流れとして納得できるのですが、ある種の「夢オチ」のような結末がつけられており、ますますもって「もやもや」したお話になっています。
 ただ、妙な魅力があることも確かなのですよね。物語の核を追い求めていくと、はぐらかされてしまうような、不思議な魅力のある作品になっています。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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