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渇いた町  スージー・マローニー『雨を呼ぶ男』
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 スージー・マローニーの長篇『雨を呼ぶ男』(松下祥子訳 早川書房)は、雨を降らせることのできる能力を持つ男と、彼が訪れた呪われた土地をめぐって町の混乱が描かれるという、モダンホラー作品です。

 農業が主要な産業であるノース・ダコタ州の田舎町グッドランズは、数年来、雨が降らず、深刻な旱魃に見舞われていました。それに伴い、農業従事者たちは次々と廃業に追い込まれていました。銀行の支店長カレン・グレインジは、ローンを返済できない人々から抵当物件を取り上げざるをえない立場に置かれていました。数年前に赴任してきたカレンは、町の一員として溶け込むことができたと感じていただけに、友人でもある顧客たちに引導を渡す立場になることに苦渋の念を感じていたのです。
 ある日カレンのもとに現れた長髪の野性的な男は、雨降らし屋のトム・キートリーと名乗ります。以前にテレビで彼の映像を見たカレンが依頼の手紙を出していたのです。彼の能力の一端を見せられたカレンは、トムが雨を降らせてくれることを信じ始めます。しかしトムによれば、この町には何かがあり、雨が降るのを妨げているというのです。それを調べるためトムは町の中を歩き回ります。
 一方、町のあちこちで、火事を始め、人々を苦しめる事故や災害が多発していました。町の人々は、よそ者のトムの仕業ではないかと考え、なおかつカレンに疑いの目を向けるものも現れていました…。

 旱魃に苦しむ町に、雨降らし屋の男が現れたことから、町に不思議な事件が起こり始める、というホラー作品です。序盤でトムの超自然的な能力が提示され、彼の能力は本物であることが分かります。しかしグッドランズではその能力が上手く働かず、土地に何かがあることが分かってきます。
 雨を降らせるため町の土地を探っていくうちに、トムは怪しいよそ者として認識され、町の人々の反感を買ってしまいます。平行して、町の呪いに囚われてしまった貧民街の少女ヴィーダが、自分に憑りついた何者かの声に従い、トムを探し始める…という展開です。
 主人公カレンとトムの目的はシンプルで、町に雨を降らせる、というのが狙いなのですが、それを邪魔する土地の呪い、呪いに直接動かされる少女による災厄、彼らを異端視する町の人々など、様々な困難が持ち上がります。
 加えて序盤では、トムが本当に能力者なのか疑いの目を持ってしまうカレンの疑念もあったりと、一筋縄ではいかないところが面白いですね。

 主人公周りだけでなく、町の主要な人々の様子が丁寧に描かれていくのも特徴で、彼らの生活や旱魃による経済的な苦境までもがリアルに描かれています。
 特に住人の一人カールは、経済的な苦境により精神的な病を抱えてしまう不安定な人物で、トムに対する扇動を行うなど、物語を大きく動かす人物の一人になっています。

 トムの術を邪魔する町の呪い自体は、町の過去に起因するものなのですが、それが現代に蘇ったのは主人公カレンが移住してきたことが原因であり、また移住自体の原因も、彼女自身の過去の人生に関わるものにあったりと、物語の災厄の因縁が細かく描かれているのも魅力ですね。

 トムの能力に関わる部分に関してはファンタジー的な色彩が濃いのですが、苦境に陥った町の人々が狂信的な男に扇動されパニック状態になっていく過程がじっくり描かれるなど、モダンホラー的な興趣も強く、ホラーとして魅力的な作品になっています。

 本作、トム・クルーズ映画化の帯がついていますが、映画化された記憶がないので、たぶんお蔵入りになってしまったんだろうと思います。ちなみに原著は1997年刊、邦訳は1998年刊です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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