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老いた世界  ブライアン・W・オールディス『グレイベアド 子供のいない惑星』

グレイベアド―子供のいない惑星 (創元SF文庫) 文庫 – 1976/5/1


 ブライアン・W・オールディス『グレイベアド 子供のいない惑星』(深町眞理子訳 創元SF文庫)は、子供が生まれなくなり老人たちばかりになった世界を舞台にした、ユニークな「破滅もの」SF小説です。

 核戦争を発端とする放射能障害により、人類を含む生物の生殖腺が破壊され、子供が生まれなくなってから50年、世界は老人ばかりになっていました。その風貌から〈灰色ひげ〉と呼ばれる男アルジャーノン・ティンバレンは、50歳代ながら、この世界では最年少になっていました。
 滅びゆく人類の歴史を記録するために設立された機関「DOUCH」の一員である〈灰色ひげ〉は、なりゆきからその機関の設備を搭載した車も失い、ある村に何年もとどめおかれていました。イタチの被害から逃れることをきっかけに、〈灰色ひげ〉は妻や友人らとともに川を下って旅を始めることになります…。

 子供が50年間も生まれなかったため、登場人物は老人ばかり。人類は衰退に向かっているという陰鬱な世界を舞台にした作品です。残された人間たちの間の争いや暴力といった情景も描かれるものの、老齢ということもあり、それほど重大な闘争というのは描かれません。
 むしろ人類の脅威になっているのは、狂暴化したイタチやネズミなどの害獣、そして人々自身の滅びゆく世界に対しての諦観なのです。主人公〈灰色ひげ〉は、50代ながらまだ活力を残した男であり、害獣の脅威をきっかけに十数年住み着いた村を出て、妻や友人とともに新天地を求めることになります。

 旅の途中で出会う人々を通して、現在の世界の様子、そして挟まれる彼自身の回想を通して、世界に過去に何が起こったのか?ということが語られていきます。過去の回想で語られる、おもちゃ会社を経営する主人公の父親が、子供が生まれなくなったために破産する…というエピソードは特に印象的です。
 世界の平均年齢は70になっており、登場する人々も活力のなくなった人間が多いのですが、「<永遠の命>を売る」という山師的人物として登場するバニー・ジンガンダロウのキャラクターは印象的。やがてジンガンダロウとの関わりをきっかけに、世界の希望が見え始める…というのもユニークな展開です。

 設定が設定だけに全体に地味な話ではあるのですが、主人公をはじめとする人物の描写に深みがあるのと、ストーリーテリングの上手さもあって、飽きずに読ませます。テーマも現代的であり、佳作といっていい作品ではないでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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