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「ぼく」の人生の物語  マルセロ・ビルマヘール『見知らぬ友』

見知らぬ友 (世界傑作童話シリーズ) 単行本 – 2021/2/12


 アルゼンチンの作家マルセロ・ビルマヘールによる短篇集『見知らぬ友』(宇野和美訳 福音館書店)は、一見、普通の日常の中に、変わった出来事が起こるという、不思議な手触りの小説集です。

 自分が困難に出会うたびに突然現れ助けてくれる見知らぬ友の存在を描く「見知らぬ友」、髪を切るのが苦手な少年と床屋の交流を描いた「世界一強い男」、観賞魚店の魚をめぐって少年と少女の出会いが描かれる「ヴェネツィア」、紛争に従軍した長男をめぐって家族に起こる不思議な物語「立ち入り禁止」、黒い石について父子の対話が描かれる「黒い石」、詩をクラスメイトに盗まれた詩人の少年を描く「地球のかたわれ」、不良ぶった少年がガールフレンドに送ったラブレターが二人の人生を変えるという「失われたラブレター」、無名のザイールのサッカー選手をめぐる少年の物語「ムコンボ」、父親に会いに飛行機に一人乗った少年と「ぼく」の出会いを描いた「飛行機の旅」、かっては美しかったであろう老婆が保管していた少女時代の写真をめぐる奇談「クラス一の美少女」を収録しています。

 収録作の大部分の語り手は、作家自身を思わせる「ぼく」になっており、描かれるのも「ぼく」の少年時代が多くなっています。それだけに実体験を元にしたリアルな小説かと思わせるのですが、起こるのは超自然的とまでは言わないにしても、数奇な出来事ばかり。
解説によれば、実際、小説の核となるイメージは作者の少年時代の思い出から来ているのだとか。ただ、そこに数奇な出来事や、登場人物の変わった運命を混ぜ込んでいます。全体にユーモアあふれる語り口のせいもあり、不思議な手触りの作品集になっています。
 特に印象に残るのは「失われたラブレター」「クラス一の美少女」でしょうか。

 「失われたラブレター」は、こんな物語。不良じみたポーズを取りながらも才気あふれる少年マルコス。彼は美しい少女ルイシーナに恋していましたが、仲間との賭けにそそのかされてルイシーナへのラブレターを書きます。
 ラブレターは素晴らしい出来だったものの、賭けによって書かれたということで、二人の仲は進展せずに終わってしまいます。数十年後、マルコスは犯罪を犯して刑務所に収監され、一方ルイシーナは人妻となっていました。
 ある日ルイシーナの妹テオドーラは、ルイシーナが保存していたマルコスからのラブレターを読み、マルコスに恋してしまいます…。
 純粋な愛をつづったはずのラブレターが、書かれた環境、読まれた環境によって、思いもかけない結果を引き起こすという、不思議な人生の物語です。

 「クラス一の美少女」は、老女の変わった人生の物語。
 不動産の仕事をする父親の共をして、家を売りたいという老女の家を訪れた少年の「ぼく」。老女はかっての美しさを留めた女性でした。やがて老女は亡くなりますが、家に置いてあった少女時代の老女の美しい写真に惹かれた「ぼく」は写真を一枚くすねてしまいます。
 大人になり取材記者となった「ぼく」は、老人ホームへインタビューに訪れますが、その相手の一人マリータは、「ぼく」のもつ美少女の写真に写っているのは自分だと言い出します…。
 子ども時代の写真とそれを見た関係者の言葉により、亡くなった老女の人生の悲喜劇が語られるという物語です。読んでいて、いろいろ想像をそそられる物語になっていますね。

 表題作「見知らぬ友」「立ち入り禁止」は、超自然的な出来事が起こる明確な幻想小説になっています。

「見知らぬ友」では、主人公ルシオの人生のことあるごとに現れ、助けてくれる「見知らぬ友」が描かれます。
やがて彼の存在に慣れてしまったルシオは彼の助力を心待ちにするようになりますが、ある時を境に彼は現れなくなります…。
 「見知らぬ友」は何者なのか? 「分身物語」というべきか、「悪魔との契約」テーマというべきか、寓話的な作品です。

 「立ち入り禁止」は、フォークランド紛争で長男を徴兵されてしまった家庭が描かれます。少年ラファエルは、兄のルカスがいなくなってから、両親との間が上手くいかなくなっていました。両親はラファエルに夫婦の部屋への出入りを禁止し、同じ家でありながら一人で過ごすようになっていました。
 ある夜、言いつけを破って両親の部屋に入ったラファエルは、そこに誰もいないのに気づいて愕然とします。両親は確かに部屋にこもっているはずなのです…。
 閉ざされた部屋はどうなっていたのか? 寓話として捉えることもできるのでしょうが、まるで「シュレーディンガーの猫」を思わせる<奇妙な味>の物語です。

 観賞魚をめぐって少年と少女の束の間の出会いを描く「ヴェネツィア」であるとか、選手としては無名でありながら、カードの存在から少年たちの間で一時的な人気を博すサッカー選手をめぐる思い出を描いた「ムコンボ」など、普通小説的な色彩の濃い作品にも味わいがあって、それらで描かれる少年少女の淡い恋物語や、大人との交流など、そうした微妙な心理を扱った作品にもまた違った面白みがありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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