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死と再生  ロバート・R・マキャモン『スワン・ソング』

スワン・ソング〈上〉 (ミステリペイパーバックス) 新書 – 1994/4/1

スワン・ソング〈下〉 (ミステリペイパーバックス) 新書 – 1994/4/1


 ロバート・R・マキャモンの長篇『スワン・ソング』(加藤洋子訳 福武書店)は、全面核戦争により荒廃したアメリカ大陸で、世界再生の鍵を握る少女スワンをめぐって展開される、黙示録的ホラー作品です。

 第三次世界大戦が勃発し、アメリカとソ連は互いに大量の核爆弾を発射します。核ミサイルによる炎の柱と放射能の嵐がアメリカ全土を覆い尽くし、ほぼ全ての都市が壊滅してしまいます。
 黒人の悪役プロレスラーのジョシュは、たまたま立ち寄ったガソリン・スタンドの地下に、店長のポーポー、シングルマザーのダーリーンとその9歳の娘スワンと共に閉じ込められ、九死に一生を得ることになります。ポーポーとダーリーンは死に、スワンを守れというメッセージを受け取ったジョシュは、スワンと共に地下から脱出し、旅に出ることになります。
 マンハッタンで、精神のバランスを崩し浮浪者生活を送っていた女性シスターは、廃墟でガラスの不思議なリングを拾ったことにより、正常な心を取り戻し、リングによって示されたヴィジョンに従い、仲間と共に旅に出ることになります。
 核シェルター内部で攻撃を受け閉じ込められた施設の責任者マクリン大佐は、少年ローランドの助けを借り生き延びることに成功します。二人は、武器と軍事力を使い、軍隊を作ろうと考えます。
 一方、生き延びて復興をしようとする人々の意思を挫こうと、邪悪な「深紅の目の男」がところどころで暗躍していました…。

 全面的な核戦争により壊滅状態に陥ったアメリカ大陸を舞台に、奇跡を起こす少女スワンをめぐって、世界を再生させようとする人々と、邪悪な勢力が戦うことになる、というホラー作品です。
 中心となって描かれるのは三グループ。少女スワンと彼女を守護する黒人の大男ジョシュ、元ホームレスのシスター、ベトナム帰還兵のマクリン大佐とその副官ローランド少年の三グループの状況がカットバックで描かれていきます。
 また、それに加えて、人類が再び立ち上がるのを邪魔しようとする、悪魔ともつかぬ邪悪な男「深紅の目の男」の行動も同時に描かれていきます。
 大量の核爆弾によって、ほとんどの人々が即死、残った人々も放射能により死んでしまいます。大地は汚染され、作物も育たなくなってしまいます。残された食料や物資をめぐって、生き残った人々が互いに争うという、悲惨極まりない世界が舞台となっています。
 主人公スワンとジョシュ、そしてシスターは、それぞれ仲間を得て旅をすることになるのですが、事故、野生動物や敵対勢力の襲撃により、次々と命を落としていきます。自分たちの使命を自覚していないスワンたちと比較して、リングの導きにより救世主を探し続けようとするシスターたちのグループは、目的が明確なため、その旅路にも力強さがありますね。シスターたちは、スワンたちとのグループと合流できるのか? というのが前半の読みどころでしょうか。

 一方、「悪」の側といえるマクリン大佐とローランド少年は、互いに妄想じみた支配欲で強大なグループを形成していきます。
 スワンやシスターたちと、彼らが最終的に戦うことになるのは予想できますが、それがどのように関わってくるのか?というところも興味深いですね。
 真の敵といえる「深紅の目の男」の存在も面白いところです。おそらく「悪魔」の類で、絶大な力を持ちながらも、全能ではありません。
 リングを持つシスターを追いかけ続けるものの、その行方を突き止めることができずに放浪したり、スワンに対して恐れを感じてしまったりと、ところどころで妙な「弱さ」を見せるというのも面白いですね。

 序盤、核爆弾による被害とその直後の破壊状況の描写が強烈で、まさに阿鼻叫喚。その後も、法も倫理もなくなってしまった世界で、狂気に囚われた人々が繰り広げる暴力描写が強烈な作品になっています。全面暴力の嵐で、主人公たちの仲間を含め、人々があっさりと殺されてしまうなど、バイオレンス描写は本当にリアルで強烈です。ただ、奇跡を起こす少女スワンや、「神託」を受けるシスター、悪魔じみた「深紅の目の男」など、明らかに超自然的な存在・現象も登場しており、そのあたりの作品バランスは非常に上手いですね。
 割とあっさり殺されたり亡くなってしまう人物も多いのですが、そうした人物にもちゃんと見せ場があるところが嬉しいです。人物だけでなく、スワンのグループの一員となる犬のキラーや馬のミュールも、一人(一匹)のキャラクターとして輝いているところがありますね。

 どのキャラクターも魅力的に描かれているのですが、中でも魅力を放っているのがジョシュとシスターでしょうか。黒人の大男で元悪役レスラーのジョシュは、スワンを自分の娘とも思い、最後まで彼女を守り抜こうとします。前半、スワンを人質に取られるシーンがあるのですが、そこで手を縛られたまま、何人もの凶器を持った男たちと渡り合う場面は圧巻です。力強さと優しさを兼ね備えたキャラクターです。
 シスターは、自分の娘を失ったことから狂気に陥っていたものの、リングの導きによりその心を取り戻します。その信念は固く、それを見た何人もの男たちが彼女の仲間となることにもなります。

 前半はリアルな「核戦争もの」「破滅もの」といった感覚が強いです。後半は、「救世主」スワンをめぐる宗教的ファンタジーといった感じで、超自然味がかなり強くなってきます。前半のトーンがリアルで、暴力描写もハードなだけに、後半の展開には非常にカタルシスがありますね。
 リアルな暴力描写・世界観と、ファンタジー的な要素が無理なく同居していて、独自の味わいを生み出しています。「破滅もの」ジャンルにおいて、トップクラスの傑作と言ってよい作品だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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