FC2ブログ
囚われた未来  ジョン・クリストファー『トリポッド』四部作
 ジョン・クリストファーの『トリポッド』四部作は、謎の三本脚の機械<トリポッド>と共に異星からやってきた侵略者と、それに立ち向かう少年たちの活躍を描いた冒険SFシリーズです。もともと三部作として書かれ、20年近く後に前日譚が描かれています。邦訳判では、その前日譚が1巻とされ、オリジナルの三部作が2~4巻となっています。


トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF) 文庫 – 2004/11/15


ジョン・クリストファー『トリポッド1 襲来』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 少年ローリー・コードレイは友人のアンディと一緒にオリエンテーリングに参加しますが、道に迷ってしまい、ふと見つけた農場で一夜を過ごすことになります。夜中に機械音で起きた二人は、そこに巨大な三本脚の物体が現れたことに驚きます。機械はミサイルで破壊されますが、同じ物体は、世界の他の場所にも現れていました。<トリポッド>による被害は大したものではありませんでしたが、彼らの意図は皆目分かりません。
 ある頃から、テレビで放送されている<トリッピー・ショー>を見た子供たちが攻撃的になります。
 また、妙なキャップをつけられた大人たちが<トリポッド>の礼賛を始めるようになります。<トリポッド>に人々が洗脳されていることを知ったローリーの父マーティンは家族を連れ、イギリスを脱出する計画を立てますが…。

 異星からやってきた謎の三本脚の機械<トリポッド>。彼らに襲われた地球人類を描くシリーズの前日譚にあたる作品です。三本脚の機械が地球上に突如現れるものの、その機械自体はそれほど恐るべきものではなく、撃退も可能でした。ですが、地球人たちに対する巧妙な洗脳活動によって、人類の大部分が<トリポッド>の支配下に入ってしまうのです。主人公ローリーとその家族たちはイギリスを脱出し、様々な場所に避難しますが、あっという間に現地の人々は<トリポッド>に洗脳されてしまい、毎回追われてしまうことになります。
 敵である<トリポッド>そのものではなく、洗脳された人間たちが別の人間たちにも洗脳を施そうとするというのが巧妙で、身近な人間がいつの間にか洗脳されている、というのが怖いですね。最初は頭にかぶるだけのキャップによる洗脳であるために、それをはがせば解除も可能なのですが、やがてそれが頭そのものに密着するタイプのものになってしまい、洗脳を解除することもできなくなってしまいます。
 洗脳された人々はキャップの影響で、思考能力が落ち込んでしまうのか、ある程度の隙が生まれ、そこが主人公たちが付け入る隙になっていくわけですが、やはり敵の数が増えると多勢に無勢となってしまいます。
 前日譚であるため、<トリポッド>を地球上から撃退できずに終わるのは分かってしまうのですが、ローリー親子のグループが難を逃れることができるのか?といったところでのサスペンスがあり、面白く読めます。



トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF) 文庫 – 2005/1/15


ジョン・クリストファー『トリポッド2 脱出』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 人類が謎の機械<トリポッド>の支配下に置かれてから約百年、その支配から逃れようとする少年たちの冒険を描いた作品です。
 <トリポッド>が世界を支配するようになってから約百年。人類の数は激減し科学技術も停滞していました。しかし人々は素朴な生活を送り、それなりに平和な生活を送っていました。子供はある年齢になると<トリポッド>のキャップを植え付けられる定めになっており、人々はそれを当然とみなしていました
 小さな村に住む少年ウィル・パーカーは、従兄のジャックを尊敬していましたが、彼から<トリポッド>やキャップについての疑問を聞き、それらについて考えるようになります。キャップを付けられたジャックの豹変した姿を見たウィルは、<はぐれ者>オジマンディアスに興味を持ち、彼と話そうとします。
 キャップに適応できず精神を狂わせてしまったはずの<はぐれ者>ですが、オジマンディアスはそのふりをしていたのです。<トリポッド>の支配に抵抗する人々の住む国が離れた場所にあるという話を聞いたウィルは、従弟のヘンリーと共にその場所を目指す旅に出ることになりますが…。

 邦訳版として「2」となっていますが、こちらは1967年発表の、オリジナル版<トリポッド>の第一作です。もともと三部作で1960年代後半に発表されたシリーズなのですが、1988年になって続編(前日譚)が発表されたため、このハヤカワ版ではそれが「1」となっています。
 異星から来たらしい謎の機械<トリポッド>に人類が支配されるようになってから約百年後の世界を描いています。<トリポッド>のキャップによって、人類は洗脳状態に置かれているのですが、人類が滅ぼされることはなく、表面上緩やかな監視状態に置かれています。
 人口が減っていたり、最先端の科学技術は失われています。人々は、中世とまではいかないにしても、数百年前の水準の生活をしていました。
 反抗をしなければ、表面上、穏やかで平和な生活は可能であり、キャップによる洗脳も当たり前のものとされているのです。
 <トリポッド>の実態を知った少年ウィルは、従弟のヘンリーと共に、抵抗組織のある場所を目指して旅に出ますが、その旅路でさまざまな冒険をする…という、良質な冒険小説になっています。
 いわゆる「ディストピア」を描いた作品であるということもあるのですが、児童向け作品ではありながら、ところどころで暗い情念が描かれるのも特徴ですね。
 旅路で出会った頭脳明晰な少年ビーンポールを加えて、主人公ウィル、従弟のヘンリーの三人で旅をすることになるのですが、ウィルは、彼らの中での友情関係で悩むことになります。また、後半出会う伯爵夫妻とその娘とのふれあいから、本当に<トリポッド>に支配される世界が悪であると言い切っていいのか悩むことにもなります。
 キャップをかぶり洗脳状態にあったとしても、もともと善人である人間は<トリポッド>に関すること以外では、善人そのままなのです。伯爵令嬢にほのかな恋心を抱いたウィルが、あえて洗脳を受けて残るのか、自由をあくまで求めるべきなのかを悩むシーンは、なかなか面白いところですね。
 旅の共とする従弟のヘンリーとの関係も興味深いです。いわゆる「いじめっ子」であるヘンリーとは犬猿の仲だったはずのウィルが、成り行きから一緒に旅に出ることになり、やがて「仲間」になります。後半では、同じく仲間となるビーンポールを挟んで、友情とそれに伴う嫉妬が起こるなどの展開も思春期の少年たちを描いているだけに、リアリティがありますね。



トリポッド 3 潜入 (ハヤカワSF) 文庫 – 2005/3/15


ジョン・クリストファー『トリポッド3 潜入』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 抵抗組織に加わった少年ウィルたちが、<トリポッド>の情報を得るために、彼らの都市に侵入しようとする計画を描いた、シリーズ第三弾です。
 <トリポッド>に抵抗する人々が隠れ住む山<白い山脈>に到着したウィル、ヘンリー、ビーンポールたちは、指導者ユリウスのもと、訓練を重ねていました。<トリポッド>たちが住む都市には毎年のように若い人間が連れていかれており、その選別手段としてスポーツ大会が使われているというのです。
 スポーツ大会で優勝し、都市に潜入して脱出し情報を持ち帰るという任務を与えられたウィルたちは練習に励みますが、ヘンリーは選ばれず、代わりに選ばれた運動能力に優れた少年フリッツと共に、ウィルとビーンポールはスポーツ大会が行われる町に向かいます。町まで運んでもらうはずの船の船長ウルフが見つからなくなったことから、ウィルとビーンポールはウルフを探しに出かけますが、持ち前の短気さから喧嘩騒ぎを起こしてしまったウィルは町の人々に囚われてしまいます…。

 本巻では、<トリポッド>の都市に潜入した主人公ウィルたちが、彼らの情報を手に入れ、その都市から生きて脱出できるのか? といったところがメインテーマとなっています。思いもかけない<トリポッド>の正体や弱点が判明するのと同時に、彼らの残酷さや真の計画も明らかになります。
 <トリポッド>の都市は過酷な環境で、人間は使い捨て、潜入した少年たちも日々命の危険にさらされます。今までの巻でも見られたシビアな現実認識がこの巻でも示され、主人公ウィルは残酷な決断を迫られることになるのです。
 前半のスポーツ大会パートもハラハラドキドキ感があり面白いのですが、後半の都市に潜入してからのパートのサスペンス感は半端ではありません。ディストピアの極致のような世界で、キャップで洗脳された人間たちは何も感じていないようなものの、侵入した少年たちにとっては、まさに悪夢のような世界なのです。主人となった<トリポッド>たちの気まぐれはもちろん、過酷な環境のため、常に死が近づいてくるという強烈な場所なのです。
 スポーツ大会出場のためのライバルであり、最初は敵対心さえ持っていた少年フリッツとウィルとが、過酷な環境のなか、友情と連帯感を感じるようになる…という流れも、王道展開ですが、非常に良いですね。
 旅路で出会う、世捨て人ハンスのエピソードも味わい深いです。積極的に自由を求めたわけではなく、たまたま見逃された形でキャップの支配を逃れたハンスが、<トリポッド>たちに対して全く関心を持たない、というあたり、政治的な寓意も感じさせるところですね。



トリポッド 4凱歌 (ハヤカワ文庫 SF) 文庫 – 2005/5/15


ジョン・クリストファー『トリポッド4 凱歌』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 <トリポッド>たちの恐るべき計画を知った人類の戦士たちが、総力戦で彼らを叩こうとする、シリーズ最終編です。
 都市に侵入したウィルたちの活躍で、<トリポッド>の機械を操る異星人である<主人>の弱点を知った抵抗組織の人々ですが、彼らを一気に殲滅しなければ人類の勝利はありません。弱点を探るために<主人>を生け捕りにして調べたことから、また彼らには別の弱点が存在することが判明します。
 世界各地から仲間を集め、敵の拠点である三都市を同時に攻撃することになりますが…。

 <トリポッド>そしてそれを操る異星人<主人>への人類の総攻撃が描かれる、シリーズ最終編です。火薬や爆弾などは所有するものの、近代的な兵器を持たない人類が、いかに彼らに勝つのか? というのが読みどころですね。
 近代兵器ではないものの、思わぬ手段で敵の裏をかくというのも痛快です。シリーズを通して、少ない戦力、知恵とそして戦略で、わずかずつながら形勢を逆転していくわけで、良質な冒険小説といっていい作品だと思います。
本巻では、生け捕りにした<主人>の一人に、主人公ウィルが同情を抱くシーンもあるなど、互いに知的生物であるがゆえのやり取りも描かれます。このあたり、前巻で、<主人>の奴隷となったウィルとの間に、一方的ながら友情が生まれる、という部分ともパラレルになっていますね。
 個体同士では理解の可能性がありながらも、種族として考えた場合、互いに滅ぼすしか方法がない、というシビアな現実判断も描かれており、児童向け作品ではありながら、シリアスかつリアルなお話になっています。
 もともと敵側の生物が、地球の環境では暮らせず、都市の中にそうした空間を作っているという設定で、そこが技術でも力でも勝っている相手に対して人類が隙をつける部分になっています。実際、その慢心と思い込みの隙を縫って攻撃をしかける…という流れも上手いですね。
 絶望的な支配状況からの反抗、強烈なディストピア描写、容赦なく死ぬ登場人物たち、子どもたちにも求められる残酷な決断…。シリーズ全体を通して非常にビターな味わいのSF冒険小説になっています。
 それは人間関係に関しても同様で、目的を同じくする組織内でも仲間割れはありますし、<トリポッド>に勝利した後でさえ、人類は内輪もめをやめない…という苦々しい描写もあります。
 その一方、苦難を共にすることで理解し合える人物たちもいれば、洗脳下でさえ人を思いやることのできる人間もいます。
 また敵である<トリポッド>と<主人>の側にも、人間的な同情や理解力があることが示されるなど、彼らと人類とはそれほど極端に違った生き物ではないことも示唆されます。そうした「割り切れなさ」を多く示しながらも、現実的なところで決断したり割り切るしかない、というシニカルな人生観が描かれるのも魅力の一つでしょうか。
 また、次々に現れる困難に、少年たちが知恵と勇気を振り絞って立ち向かうという、純粋に冒険・少年小説的な部分でも非常に面白い作品です。
 それぞれの登場人物も丁寧に描かれていて、キャラクターにも魅力があります。主人公のウィルは最後まで無鉄砲・短気で、主要人物たちと比べてもあまり成長しないキャラではあるのですが、そのあたりの愛嬌さも含めて楽しめますね。



テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1287-0f73f148
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する