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残酷な夜  ガストン・ルルー『ガストン・ルルーの恐怖夜話』

ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫 (530‐1)) 文庫 – 1983/10/1


 ガストン・ルルー『ガストン・ルルーの恐怖夜話』(飯島宏訳 創元推理文庫)は、『オペラ座の怪人』などで知られるフランスの作家ガストン・ルルー(1868年~1927年)による、残酷味とブラック・ユーモアが強めの恐怖小説を集めた作品集です。

「金の斧」
 ルツェルン近くの湖畔の宿に滞在していた「わたし」は、ピアノを披露してくれた老婦人へのプレゼントとして、斧を象った金製のブローチを送りますが、彼女はそれを見るなり震えだし湖に投げ捨ててしまいます。その理由として「わたし」が聞かされたのは、老婦人と亡き夫との結婚生活の話でした…。
 夫が自分に隠れて犯罪を犯しているのではないかと考えた妻の心理的な恐怖を描く作品です。互いの誤解と思い込みが悲劇を招いてしまうという作品です。

「胸像たちの晩餐」
 ミシェル船長は、自分が片腕になった由来を語ります。別荘に滞在していたミシェルは、ある日空き家のはずの隣家でパーティのようなものが行われているのに気付きます。そこで見かけた美しい女性に気を惹かれるミシェルでしたが、その女性を再び見かけたのは一年後でした。
 隣家の主人がかっての友人ジェラール大佐であることを知ったミシェルは、その家を訪ねようとしますが、美しい夫人に追い返されてしまいます。その夜、強引にその家の集まりに参加したミシェルでしたが…。
 隣家に集まっていたのは恐ろしい目的を持つ集団だった…という、猟奇的かつグロテスクな物語。陰惨な話なのですが、その陰惨さが強烈なブラック・ユーモアで和らげられているという作品です。結末の一文にはインパクトがあります。

「ビロードの首飾りの女」
 コルシカの町で、アンジェルッチアという女を見た海軍大尉ゴベールは、その美しさと共に首にあるビロードの首飾りに注意を引かれます。青年ピエトロ=サントは、彼女についてある話を打ち明けます。かって前町長の妻だったアンジェルッチアはいとこのジュゼッペと不倫をし、それを知った夫の町長に、余興として手に入れたギロチンで殺されそうになったというのです。ピエトロ=サントは実際にアンジェルッチアは首を落とされ、それを首飾りで隠しているのだ、というのですが…。
 コルシカのヴェンデッタ(復讐)がテーマとなっています。女が本当は生きているのか死んでいるのか分からないという超自然的な興味と共に、不倫をきっかけとして血で血を洗う争いが描かれる、陰惨極まりない物語です。殺人シーンの演出も強烈ですね。

「ヴァンサン=ヴァンサンぼうやのクリスマス」
 ムッシュー・ダムールはカフェの友人たちに、可愛がっているという養子のヴァンサン=ヴァンサンを紹介します。彼は両親を失ったというのですが、その両親は殺されたにも関わらず、犯人はいないというのです…。
 男の子の両親はなぜ死ぬことになったのか? を語る物語。残酷なお話なのですが、息子を思うがゆえのそれらの行為が全く無駄になってしまうという、更に救いのない物語となっています。

「ノトランプ」
 祖母は、美しい孫娘オランプの将来を心配し、自分の生きている内に結婚相手を探そうと考えます。年頃になったオランプには十二人ものの求婚者が集まります。一番目に選ばれたデルファン青年とオランプは結婚しますが、その直後に夫は急死してしまいます。
二番目の男ユベールも同じく急死し、三番目だったサバン博士も死んでしまいますが、四番目だった男ザンザンに書き置きを遺していました。そこにはオランプが夫を次々と殺しているということが書かれていました…。
 結婚相手を次々と殺していく魔性の娘を描く恐怖小説と思いきや、次々とそれがひっくり返されるという物語。残酷・陰惨な話が多い本作品集の中にあっても、その陰惨さは一番の作品です。

「恐怖の館」
 新婚旅行でスイスを訪れたシャンリューとマリア=ルーチェの夫婦は、悪天候のために辺鄙な山の宿屋に泊まることになります。そこはかって客を殺して金品を奪っていたというヴァイスバッハ夫婦が経営していた悪名高い宿屋でした。
 新たな経営者であるシェーファー夫妻は、その宿屋を買取り、かっての惨劇の名所として売り出していたのです。道中で一悶着を起こしたイタリア人歌手アントニオ・フェレッティと伯爵夫人のカップルと共に宿屋に泊まることになりますが、彼らは、かっての殺人鬼夫婦の行動をいちいち再現しようとするシェーファー夫妻の態度に不気味さを覚えていました…。
 殺人鬼の夫婦が経営していた宿屋を買い取り、そこを名所として再現しようとする夫婦が、自らもかっての殺人鬼のように振る舞う…という不気味な作品です。からかっていただけなのか、本当に殺人者だったのか、を明確にしないこともあり、<リドル・ストーリー>的な趣もあるお話になっていますね。

「火の文字」
 狩の途中、嵐に襲われたことから、奇妙な噂の立つ屋敷に泊めてもらうことになった四人の男たち。屋敷の主人である老人はトランプを見て狼狽えます。かって悪魔との契約を行った主人は、絶対に賭けに負けない力を手に入れたというのです。話を信じない男たちと主人は実際に賭け事をしてみることになりますが…。
 終始不穏な雰囲気で展開される作品です。タンスの中の火の文字、声を出さずに吠える犬など、雰囲気が素晴らしいですね。集中では、唯一、超自然味のある怪奇小説です。

「蝋人形館」
 肝試しとして蝋人形館で一夜を過ごすことになったピエール。やがて蝋人形が動くのを目撃したピエールは、持参していた拳銃を発砲することになりますが…。
 お話の筋はオーソドックスですが、シチュエーションと純粋に心理的な恐怖で怖がらせる一篇になっています。

 収録された短篇のほとんどがツーロンのカフェ・ド・ラ・マリーヌに集まった元船乗りたちによって語られていく恐怖小説となっています。ある男が話を語っている中で、別の男の突っ込みが入ったり、話の途中で帰ってしまったりと、その反応にもユーモアがあって面白いですね。

 一篇を除いて、全てが人間の手になる恐ろしい事件を扱った物語になっています。残酷かつ陰惨なお話ばかりで、その印象は<グラン・ギニョル>風。実際、残酷劇の代名詞とされる<グラン・ギニョル>の最盛期とほぼ同時代の1920年代に書かれた作品群だそうで、そうした影響は強いのだと思います。
 実際ルルーもグラン・ギニョル座に劇を提供しています。その劇作「悪魔を見た男」はグラン・ギニョル座で1000回以上も上演されたヒット作だそうで、グラン・ギニョル座の最高傑作と言われることもあるとか。劇の邦訳もあります(藤田真利子訳「悪魔を見た男」荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』東京創元社 収録)。
 ちなみに、この劇「悪魔を見た男」は、短篇「火の文字」を劇化したものです。さらに「火の文字」は短縮版のお話で、短縮されていない作品も「悪魔に会った男」(朝比奈誼訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社 収録)として邦訳されています。

 こちらの二作品もついでに紹介しておきますね。

ガストン・ルルー「悪魔に会った男」(朝比奈誼訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社 収録)
 話の内容は「火の文字」と同じといっていいのですが、ところどころに追加シーンや詳しい描写が付け加えられています(どちらのバージョンが先に書かれたのかは分からないですが)。
 具体的には、「悪魔に会った男」と語り手の男たちが出会うシーンが細かくなっていること、語り手の「私」を含む四人の男たちの来歴が描かれていること、「私」が「災いの部屋」を視察するシーンがあること、などが違いでしょうか。
 全体に描写が細かく丁寧になっていて、怪奇幻想小説としての雰囲気が芳醇になっているという意味で、「火の文字」よりも完成度は高くなっているように思います。

ガストン・ルルー「悪魔を見た男」(藤田真利子訳 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』東京創元社 収録)
 狩りをしていたアラン、マティス、マチューの三人の男とマティスの妻クレルリ。ケガをしたマティスを親友のアランが助けます。夜になり、助けを求めた館でアパンゼルおばさんに迎えられた四人はほっとしますが、その館が悪魔を見たと噂されている男の家であることに気づき愕然とします。
 家の主人は、カード遊びをして時間をつぶそうというクレルリの言葉を聞き動揺します。主人は自らの過去を話し出します。
 破産してしまった主人は自殺を考えますが、そんな折にふと戸棚の中で見つけた魔術の本によって悪魔を呼び出すことになります。
 強く願った結果、戸棚の中に火の文字で「おまえは勝つ」という言葉が現れていました。それ以来、男は賭け事には必ず勝つようになり、負けることができなくなったというのです。半信半疑で話を聞いていたアランは試しに自分と賭けをしてみないかと男を誘うことになりますが…。
 賭け事に負けられない呪いをかけられた男の館に泊まった男たちが、主人と賭けをする…という大枠のところは小説版と同じなのですが、小説版には存在しない、クレルリという女性キャラクターが加えられているところが大きな変更点でしょうか。
 このクレルリ、夫のマティスを裏切ってアランと不倫をしているという設定です。幼馴染のマティスの命の危機を救ったアランに対して、なんで助けたのかなじるなど、かなりの悪女として描かれています。
 小説版では、メインとなるのはあくまで「悪魔を見た男」である家の主人なのですが、戯曲版では、アラン、マティス、クレルリの三人の男女の三角関係がメインとなっており、家の主人の物語はあまり目立たなくなっていますね。
 実際、「悪魔を見た男」の話を聞いたアランが、後半自らも悪魔との契約を行う、というオリジナルな要素が入っており、不倫の男女の末路を描いた、かなり人間臭さの強い物語になっているのが特徴です。
 超自然味の強い小説版に比べ、人間関係のもつれが強調された戯曲版は、そうした志向の強い<グラン・ギニョル>演劇用に改変されたのかもしれません。

 同一作品の三バージョン、読み比べてみると、その違いや作品の狙いが異なっているのが感じられるようで、面白いです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

自分はスーパーナチュラルな話の方が好きなので「火の文字」が好きでした。

「蝋人形館」だけは、英訳時点かどこかで紛れ込んだらしく、
実際はアンドレ・ド・ロルドの作品だと「ロルドの恐怖劇場」で説明されていたと思います。
【2021/04/25 02:47】 URL | ガンビー #- [ 編集]

>ガンビーさん
「火の文字」は僕も好きな作品です。ホラー小説集ですが、意外と超自然的な話が少ないんですよね。
「蝋人形館」、確かにロルド作品らしいのですが、収録作のカラーからして、混ざっていてもあまり違和感がないですね。
【2021/04/25 07:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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