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本の国からの旅人  ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』

不思議を売る男 単行本 – 1998/6/1


 ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』(金原瑞人訳 偕成社)は、親子のもとに現れた素性の知れない男が不思議な物語を語り出す…という枠物語ファンタジーです。

 少女エイルサは、学校の課題で図書館を見学に訪れた際に、本好きらしい不思議な若い男MCC・バークシャーと出会います。無職だというMCCを、エイルサは母親のポーベイ夫人に紹介し、彼女が営む古道具店で雇うことになります。本ばかり読んでいるMCCでしたが、お客が来る度に、品物にまつわる不思議な物語を話し始め、それを聞いた人々は、彼の語る話に魅了されることになります…。

 どこから来たかも、何者なのかもはっきりしない謎の若い男MCC・バークシャーが、少女エイルサと母親の住む古道具店に住み着き、不思議なお話をするようになる、という物語です。お客が品物を吟味する際に、その品物にまつわる話と称して、MCCが本当か嘘か分からない話をするのですが、客はその物語に惹かれて品物を買わされてしまうという寸法です。MCCが語るエピソードは、ファンタジー、ホラー、ミステリ、<奇妙な味>と、そのジャンルも様々。

 なかでは、船に密航した少年が海賊に囚われるものの信義を守ることになるという「ハープシコード[誇りと信頼の話]」、虚栄心に支配された娘が恐ろしい目に会うという「鏡[虚栄心の話]」、密室殺人をめぐる物語「ロールトップ・デスク[犯人探しの話]」、医者を目指す少年が軍人になることを強要する父親と戦争ゲームをすることになるという「鉛の兵隊[誇りの話]」などが面白いですね。

 一番印象に残るエピソードは「鉛の兵隊[誇りの話]」でしょうか。軍人であることに誇りを持ち、息子にも軍人になることを願っていた父親は、息子のウェリントンが医者になりたいと言い出したことに対して、それを認めようとしません。居合わせた軍医でもあるチャーリー叔父は、二人に戦争ゲームをやってみたらどうかと提案します。叔父はゲームの最中に、変わった条件を持ち出し二人を困惑させますが…。
 息子を愛していながらも、軍人になることを強要しようとする父親が、戦争ゲームを通じて、息子の心根を理解することになる、というお話です。全体にユーモラスな色調の濃いエピソード間にあって、シリアスで、かつ考えさせるテーマを持ったエピソードになっています。

 最初は得体の知れない人物としてMCCを疎ましく思っていたエイルサが、だんだんとMCCに惹かれていく、という流れも面白いですね。最終的にはMCCの正体が明かされ、物語全体に関わる仕掛けも明かされることになります。
 作中で、度々MCCがどこから来たのか訊ねられ、「リーディング(本の国)から」と答えるのですが、そのあたりも、文字通り彼の正体の伏線になっています。
 埋め込まれたエピソードは、ダークな色調の話も含めて全体に「ほら話」的な味わいが強い、楽しい物語になっています。外枠となるMCCとエイルサ親子の物語も変わらず楽しいのですが、結末でのMCCの正体が明かされる部分では、メタフィクショナルな趣向と共に、ちょっとした寂寥感があったりするのも面白い味わいですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「不思議を売る男」読みました
 面白かったです。

 個人的には、「中国のお皿」「木彫りのチェスト」、それに「鉛の兵隊」でしょうか。
「中国のお皿」は、皿を見た時に父親が気付かない所が良かったです。
「鉛の兵隊」は、単純に白黒つかない話になっている点ですね。

 エイルサ達の会ったMCCと、現実のMCCのギャップがちょっと悲しかったですね。
【2021/04/25 09:22】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
いろんなお話が入っていて楽しい作品ですよね。
最後の方で急に現実感が強くなる、というのも不思議な味わいでした(最後までファンタジー世界で展開してほしいな、というのは本音ではありますが)。
【2021/04/25 09:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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