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万物への変身  ジュール・シュペルヴィエル『日曜日の青年』

日曜日の青年 (1980年) (Serie fantastique) 単行本(ソフトカバー) – 古書, 1980/10/1


 ジュール・シュペルヴィエル『日曜日の青年』(嶋岡晨訳 思潮社)は、魂を他の生き物に潜り込ませることのできる若い詩人が、様々な生き物になって恋する人妻の周囲をさまよいながら、不思議な体験をするという幻想小説です。

 パリの青年詩人フィリップ・シャルル・アペステーグは、南米出身の人妻オブリガチオンに恋をしていました。しかしオブリガチオンは夫のフィルマンを熱愛しており、アペステーグに対しては母親のような愛情を抱いていました。彼女はむしろ、彼のお相手として妹のドロレスがふさわしいと考えていました。
 オブリガチオンと二人きりになった際にアペステーグは衝動的に彼女にキスをしてしまいます。怒ったオブリガチオンに部屋を追い出されたアペステーグでしたが、そこを去りたくないと強く念じた結果、自分の体とは別に、部屋の中にいた蠅の体の中に自分の魂がいるのに気づきます。蠅として、オブリガチオンの周囲を飛び回るアペステーグでしたが…。

 人妻に恋しているうちに、他の生き物に魂を潜り込ませることができるようになった青年詩人を描く幻想的な作品です。
 人妻オブリガチオンは夫を熱愛しており、アペステーグの恋が実る可能性はあまりないのですが、詩人は最初は蠅、次は猫と、他の生き物に潜り込んだ状態で、人妻の後を追いかけ続けます。
 最初は他の生き物だったのが、ついにはオブリガチオンその人と一体化したり、その後はまた別の人間の中に潜りこんだりすることにもなります。他の生物の中に潜り込んでも、その生物の行動には特に影響はないようで、そもそも宿主はアペステーグの存在にすら気が付かないのです。
 物語上、重要な役目を果たすのが、第二部から登場する、ギュチエレッツ博士。小人でありながら、その知識と技術で周囲から尊敬される医師です。オブリガチオンの良き友人になりますが、その後、彼女に恋をして精神錯乱を起こしてしまいます。

 作品は大きく三部に描かれています。第一部では主人公アペステーグが蠅と猫の中に入り込み、オブリガチオンとその周囲を観察することになります。第二部ではオブリガチオン自身に入り込んだアペステーグが、ギュチエレッツ博士の体に入り込むという展開、
第三部では「変身」は起こらず、「詩そのもの」への変身が行われる、という象徴的な結末を迎えます。
 基本、アペステーグのオブリガチオンへの恋がメインの物語なのですが、途中から登場するギュチエレッツ博士の存在感が強烈で、後半では二人の仲を取り持つなど、重要な役目を果たすことにもなります

 詩人でもあるシュペルヴィエルらしく、主人公アペステーグが蠅や猫に入り込んだときはその意識、他の人物、オブリガチオンやギュチエレッツ博士の体に入り込んだときは、その人の体の中から観察する他人の意識など、風変わりな主観描写が非常に面白く描かれています。
 主人公の魂が他の生き物に入り込んだ後、本体の体はどうなっているのか?というのも気になるのですが、本体に関してそちらの意識も普通に続いている、という設定も面白いところですね。
 ただ、魂なしでは、体の本体は生きていけず、だんだんと死に近づいていってしまうのです。魂と体の再会が描かれる部分も、どこか象徴的なものを帯びていて興味深いところです。

 恋愛小説的な部分でも、アペステーグが、恋敵であるはずのオブリガチオンの夫フィルマンに親愛の念を抱いたり、ギュチエレッツ博士に同情したりと、風変わりな味わいですね。<奇妙な味>の恋愛ファンタジーとしてとても面白い作品だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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