FC2ブログ
理想の家族  キット・ピアソン『丘の家、夢の家族』

丘の家、夢の家族 単行本 – 2000/10/1


 キット・ピアソンの長篇『丘の家、夢の家族』(本多英明訳 徳間書店)は、幸せな家族に憧れる少女が、理由も分からないまま、願った通りの「夢の家族」の一員になるというファンタジー作品です。

 バンクーバーで母親リーと暮らす少女シーオは、家族に憧れていました。母親のリーは16歳でシーオを生んだものの、父親は行方知れず、自分自身もまともな定職に就かず、娘のシーオを放置していました。
 ボーイフレンドの出来たリーは、シーオを姉のシャロンに預けようと考えます。シャロンの住むビクトリアに向かうフェリーの中で、仲の良さそうな四人きょうだいとその両親に出会ったシーオは、彼らのような家族の一員になりたいと強く願い、その直後に意識を失ってしまいます。
 目を覚ますと、彼女はなぜかフェリーで出会ったカルダー家の家族の一員となっていました。夢のような家族と幸せな生活を送るシーオでしたが…。

 経済的にも精神的にも孤独な少女シーオが、幸せな家族の一員になりたいと願った結果、何らかの理由でその願いが叶うことになる…というファンタジー作品です。
 主人公のシーオは不遇な少女で、母親からは育児放棄に近い扱いを受けています。食べ物もろくに与えられず、衣服などもほとんど買ってもらえません。母親にボーイフレンドができればほとんど放置状態、時には物乞いの真似までさせられています。
 彼女の唯一の楽しみは本を読むことぐらいで、図書館から本を借りてきては読みふけっていました。物語に没入することは現実世界から逃れたいという思いの表れでもあり、そのため本を読んでいないときでも、現実逃避のあまり空想をしがちで、学校の授業もろくに頭に入らないのです。
 カルダー家での生活を体験している時期には、本に対する興味が薄れてしまうというのも、もともと現実逃避の要素が強かったゆえでしょうか。

 シーオが夢見ていた家族との生活は、空想していた理想の生活そのものなのですが、何らかの原因で起きていた不思議な出来事は、また何らかの原因によって終わってしまうことになります。
 空想か夢だと思っていたカルダー家の人たちとの生活ですが、カルダー家やその住人たちが実在することが分かり、シーオは再び彼らの一員になりたいと、彼らに接触することになります。しかし、一緒に暮らしていたときは理想の家族だったはずのカルダー家の人たちも、思っていたほどの理想的な人物たちではなく、不平不満を訴えたり、仲違いしたりと、ごく平凡な普通の家族であることが徐々に分かってきます。
 また、カルダー家の人たちに憧れるあまり、彼らと比較して、持て余していた友人のスカイも、そこまで嫌な人間ではないことも分かってきます。

 後半では、自分の空想や理想を通して観てきたカルダー家の人々や友人に対して、彼らを等身大の現実的な存在として受け入れるシーオの成長が描かれていきます。
 それは母親のリーに対しても同様です。最後まで母親としても人間としてもあまり成長の見られないリーに対して、なるようにしかならない、しかし自ら主張すべきことは主張する、という現実的な落としどころを見つけるという展開は、ファンタジーとしては夢がないところではあるのですが、非常にリアリティがありますね。

 ヒロインが本好きということで、様々な児童文学やファンタジー作品が言及されるのも、楽しいところです。『砂の妖精』『ふくろ小路一番地』『シャーロットのおくりもの』『ナルニア国ものがたり』『ツバメ号とアマゾン号』『若草物語』など、
名作のタイトルが多く言及されています。
 シーオの出会うきょうだいが四人であるのは、『砂の妖精』に代表されるイーディス・ネズビット作品の主人公たちの構成を思わせるところがあり、シーオの空想が反映されていると考えてもいいのかもしれません(ネズビット作品の主人公の子どもたちは四人か五人のきょうだいであることが多いのです)。

 主人公シーオが夢の家族の一員になるという、一種の超自然現象に関する部分の解釈もユニークです。ある種の「現実改変」に近い扱いなのですが、仮定されるその原因も独特の設定になっています。
 シーオが主人公であり、彼女の成長を描く物語ではあるのですが、彼女の物語自体がまた別の人物の人生の物語でもあったことが分かるという結末には、感動がありますね。それに伴って、物語がメタフィクショナルな展開を見せるところもユニークです。
 夢と現実、両方を見据えた上でリアリティーは失わず、なおかつ物語の楽しみを味あわせてくれる、現代ファンタジーの秀作かと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1269-3b683d84
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する