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あり得ない出来事  ロード・ダンセイニ『魔法の国の旅人』

魔法の国の旅人 (ハヤカワ文庫 FT (47)) 文庫 – 1982/12/31


 ロード・ダンセイニ『魔法の国の旅人』(荒俣宏訳 ハヤカワ文庫FT)は、小さなクラブに現れる古参の会員ジョーキンズが語る、ファンタスティックかつ奇想天外な「ほら話」を集めた連作集です。

 ロンドンで友人に誘われ訪れた小さなクラブ「ビリヤード・クラブ」。そこでは古参の会員ジョゼフ・ジョーキンズが一杯の酒をおごるのと引き換えに、奇想天外な体験談を話してくれるというのが呼び物になっていました。「わたし」は彼から様々な話を聞くことになりますが…。

 クラブの古参会員ジョーキンズから、本当なのかホラなのか分からない奇想天外なエピソードが次々と飛び出す、というファンタスティックで楽しい連作集です。明らかに大ぼらとしか思えない話に指摘が入ると、むきになって抗弁するジョーキンズのキャラクターも楽しいですね。
 時には本物としか思えない物証が出てくることもあり、読者としては、もしかして本当なのでは…?と思わされてしまうあたりも、人を食った感じの物語となっています。

 ホテルで見世物にされていた人魚を盗み出し結婚してしまうという「ジョーキンズの奥方」、森の中で出会った魔女との交流を語る「柳の森の魔女」、虹のたもとの宝物とレプラコーンの物語「妖精の黄金」、前代未聞の巨大ダイヤモンドについて語る「大きなダイヤモンド」、最後の野牛と遭遇したジョーキンズの体験を語る「最後の野牛」、蜃気楼に現れた遠方の町が神秘の都市として崇められるという「クラコヴリッツの聖なる都」、魔術によって呼び出された古代エジプトの姫君の恋の物語「ラメセスの姫君」、儲けるために自ら考案した病気に取りつかれてしまうという「ジャートン病」、自らを追い詰める恐怖症を克服するために東洋を訪れる男を描いた「電気王」、地球の公転力を利用し飛行機で火星を訪れた男の冒険物語「われらが遠いいとこたち」、霊媒によって呼び出された霊は原爆を使用していたという「ビリヤード・クラブの戦略討議」のエピソードを収録しています。

 基本はジョーキンズが語る物語なのですが、クラブの一員である医者コーベットが語る「ジャートン病」だとか、ジョーキンズの話に登場する富豪メイキンズが間接的に物語を語る「電気王」なんて話もあり、もともとほら話感が強いエピソードが妙に真実味を増したりするあたり、面白い趣向ですね。

 虹のたもとに埋められた宝物とレプラコーンを見つけたジョーキンズがそれを手に入れようとするものの、それら全てが「夢」になって消えてしまうという「妖精の黄金」、ロマンティックな性分の男が蜃気楼で見た東洋の都市を崇拝し、やがてそれを疑似的に再現するという「クラコヴリッツの聖なる都」などは、ダンセイニのノンシリーズのファンタジーに近い味わいですね。

 治療法をも同時に編み出して商売に利用しようとした男が、架空の病に体を支配されてしまうという「ジャートン病」、富豪の男が精神的な恐怖症を克服しようと東洋に旅立ち、ある解決法を見つけるという「電気王」などは、病がテーマとなっているだけあり、恐怖感も強い作品になっています。
 実際、想像力による病を描いた「ジャートン病」には異様なリアリティがあり、「呪いの感染」を描くホラーとも読める作品です。

 飛行機で火星に向かうという「われらが遠いいとこたち」は、ジュール・ヴェルヌ的な雰囲気のSF冒険小説。惑星の公転力を利用して飛行機で宇宙に飛び出し、火星に行くという物語です。到着した火星には、地球人よりも洗練された人間たちがおり、さらに彼らを捕食する怪物のような存在がいたりと、H・G・ウェルズ作品の影響も見られるようですね。包帯を巻いておけば宇宙空間でも大丈夫、というあたり、かなり大雑把で笑ってしまいます。

 せっかく駆け落ちした人魚の野性味に困惑し、彼女を厄介ばらいしようとする「ジョーキンズの奥方」であるとか、神秘的な崇拝の念から再現した、蜃気楼都市の元が悪徳あふれる都市であったという「クラコヴリッツの聖なる都」など、非常にシニカルなエピソードもあり、ロマンティック一辺倒ではない、大人の味わいのファンタジー集になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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