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古き良きファンタジー  神宮輝夫編《イギリスファンタジー童話傑作選》
 神宮輝夫編の二冊のアンソロジー『銀色の時 イギリスファンタジー童話傑作選』『夏至の魔法 イギリスファンタジー童話傑作選』は、1920年代イギリスの年間作品集<ジョイ・ストリート>から選ばれたファンタジー童話を集めたアンソロジーです。
 純度の高い、古き良きファンタジー作品が集められており、楽しい作品集となっています。


銀色の時―イギリスファンタジー童話傑作選 (講談社文庫) 文庫 – 1986/12/1


神宮輝夫編『銀色の時 イギリスファンタジー童話傑作選』(若林ひとみ、もきかずこ訳 講談社文庫)

ローレンス・ハウスマン「銀色の時」
 妻を亡くし、幼い娘が行方不明になって以来、孤独に暮らしてきた男ケイレブ。彼は50年間、寝る前に家の鍵を閉めていました。鍵をかけ忘れたために娘を失ったことを彼は後悔し続けていたのです
 ある晩、家に鍵をかける意味があるのかと自問したケイレブは鍵をかけないことにします。直後に寝込んでしまったケイレブは、毎日寝ている間に、補充していないはずのまきが増えていることに気が付きます。ある夜、寝ずに起きていたケイレブが暖炉の前に行くと、自分そっくりの男が座っていました…。
 娘を何者かにさらわれてしまった男が50年ぶりに家の鍵を開けたことから、不思議な体験をする、という物語です。家の中に突然現れた男は、おそらく自分の分身であるようで、彼との会話から「自分自身」を締め出してしまっていたことがわかります。鍵を開けることは、自分の心を開くことにもなり、それをきっかけに、行方不明になっていた娘の行方もまた知らされることにもなるのです。
 妖精にさらわれていた娘を人間界に引き戻すチャンスを得ながらも、時の経過と自らの寿命、娘の幸福を考えた主人公が、魔法を解かずにおく、というラストも美しいですね。
 登場する魔法のウサギや銀色の毛皮、老人の孤独感と寂寥感など、物語全体の夢幻的な雰囲気も素晴らしいです。短い作品の中に50年という長い時間が感じられ、「時間」や「幸福」の寓話としても読めますね。多様な要素を含んだ傑作だと思います。

コンプトン・マッケンジー「へんてこ通りのメーベル」
 良家の子女でありながら活発でおてんばな少女メーベルは、散歩中に乳母やきょうだいとはぐれて迷子になってしまいます。歩き回った末に入り込んだのは「へんてこ通り」でした。
 その町の住人は皆がへんてこで、帰り道を訪ねてもまともな答えが返ってきません…。
 奇天烈な町に入り込んでしまった少女を描く、ナンセンス童話作品です。「へんてこ通り」の人々の言動は不条理かつナンセンスで、全く意味をなしません。
 少女には、迷子になった不安だけでなく、人々に対する恐怖感すら発生しているようで、ちょっと「怖い」作品でもあります。「へんてこ通り」の人々と主人公の間で言葉が通じないのは、イギリス社会の上流階層と下流階層の齟齬を皮肉って描かれているようにも読めますね。

A・A・ミルン「ウサギの王子」
 子どもができないため、世継ぎとなる若者を国中から募集しようと考えた王様。若者たちに交じって現れたのは、言葉を話すウサギでした。人間を世継ぎにしたい王様は、ウサギを試験から落とそうといろいろ策略を弄しますが、ウサギは常にその上を行くことになります…。
 王位を狙うウサギと、それを阻止しようとする王様の争いを描いています。やがてウサギの秘密も明らかになりハッピーエンドに。ユーモラスなファンタジーです。

メーベル・マーロウ「お菓子屋のフラッフおばさん」
 リスのフラッフおばさんが経営するお菓子屋の名物はペストリーでした。クマのブルーインは、代金を払わずにペストリーを食べてしまいます。友人のフクロウに知恵を借りたフラッフおばさんはブルーインに仕返しをしようと考えますが…。
 リスのおばさんが横暴なクマに仕返しをしようとする物語。このクマ、意外と素直で、最終的には痛い目を見たくないと、言うことを聞くようになります。動物たちの登場するかわいらしいファンタジーになっていますね。

メーベル・マーロウ「フラッフおばさんのブランデー・ボンボン」
 フラッフおばさんの新しい品は、ブランデー・ボンボン。リスたちが美味しそうな匂いをかぎつけてやってきますが、おばさんは明日まで待たなければだめだと言います。しかし、クマのブルーインは、隙を見て、口に入れてしまいます…。
 登場人物たちも共通する「お菓子屋のフラッフおばさん」シリーズ作品。こちらでは、クマのブルーインが大変痛い目を見てしまうという、痛快なお話になっています。

ロイ・メルドラム「太鼓たたきのピーター」
 お城の祝宴で演奏するために森の中を歩いていた太鼓たたきの少年ピーターと笛吹きの父親。しかし魔女の罠にはまって、父親の姿は消されてしまい、ピーターは魔女のしもべとして囚われてしまいます。
 ある日、魔女が不在の際に小屋を訪れた白い狼と友人になったピーターは、魔女から逃れる方法を教えてもらいます。王様に会ったピーターは、王から王子と王女が魔女の森で行方不明になったことを聞かされ、彼らを探してほしいと頼まれますが…。
 魔女に囚われた少年がそこから逃げ出し、魔女を出し抜くという物語です。魔女の様々な魔法が登場し、それらを破るために少年はいろいろと冒険をすることになります。その際、太鼓が重要な意味を持ってくるところが良いですね。楽しい冒険ファンタジーです。

ローズ・ファイルマン「サンタクロースが風邪をひいたら」
 サンタクロースが風邪をひいたため、彼の奥さんが代わりにプレゼントを配ろうと出かけることになりますが…。
 愛らしい掌篇ファンタジーです。

アルジャナン・ブラックウッド「ふしぎな友だち」
 ケント屋敷に住む少女モリーが飼っている灰色オウムのダドリーは、迷い込んできた野良猫のギルデロイとの間に、奇妙な仲間意識を抱いていました。
 このところ、屋敷の人々はいろいろな動物の物音に悩まされ、睡眠を妨害されていました。無邪気そうなダドリーの態度にモリーは疑いを抱きますが…。
 オウムと猫のコンビが屋敷の人々に嫌がらせをする、という動物もの作品です。作者はこの作品を長篇化した『王様オウムと野良ネコの大冒険』(相沢次子訳 ハヤカワ文庫FT)という作品も書いています。長篇版が完全にファンタジーとして書かれているのに対して、短篇版では、風変わりではあるものの、ダドリーとギルデロイの行動はあくまで動物として描かれており、超自然的な現象は登場しないのが特徴ですね。

フローラ・フォースター「幸運な王子」
 引き継ぐ財産もあまりなく、幸運を求めて旅に出た末っ子の王子は、ある町にたどり着きますが、町の宿屋はどこも閉まっているようでした。ようやく開いている宿屋に入ったところ、そこでは町中の宿屋の看板やマスコットの精たちがパーティを開いていたのです。彼らから様々な贈り物をもらった王子は、ドラゴンに囚われているという姫君を救いに向かいますが…。
 末っ子の王子が幸運を求めて冒険をするというファンタジーです。貰い物のおかげで事態が良くなったりと、タイトル通り、自分の努力というよりは「幸運」によって道を切り開いていくというのが面白いですね。最後のドラゴンとの戦いも知恵によって打ち勝つ、というのも良いですね。

G・K・チェスタトン「カラー・ランド」
 別荘の庭でブルーな気分になっていた少年トミーは、突然現れた奇妙な若者から、不思議な色のついた眼鏡を差し出されます。青の世界、赤の世界、黄色の世界など、様々な色に彩られた世界のことを聞くことになりますが…。
 若者から、様々な色の世界のことを聞く少年を描いた作品です。それぞれの色の空想的な国の様子が語られるだけでなく、色ごとに世界は違って見えるという、世界の相対性が語られます。哲学的な風味も強い寓話的ファンタジーです。

エリナー・ファージョン「すばらしい騎士」
 サセックスの名高い騎士、ジョン夢見卿は、オードリーという若い娘が幼いころになくした手まりを見つけだすことを使命と考え、旅に出ることになります。オードリーと、利発な青年ディックを共に手まりが流れていったというマレイ川を目指す一行でしたが…。
 夢想家の騎士がお供と共に冒険の旅に出るというファンタジー、なのですが、騎士本人は本当に夢想家で、現実的にはほとんど役に立たず、実際の働きはほとんどお供のディックが行う、というのが面白いところです。
 たびたびジョン卿が磨く盾の美しさが語られるのですが、騎士の純粋さ・世間知らずさを象徴しているものでしょうか。しかし、周囲の人物は彼を馬鹿にするわけではなく、むしろ崇拝している風さえあるのです。
 旅の途上、本来であれば使命を果たした後めとるつもりだったオードリーがディックと結婚してしまった後も、旅を続けようとする騎士の夢想家気質は筋金入りで、それを皮肉でなく肯定的な視線で捕らえる作者の筆には、独特の魅力がありますね。

 この『銀色の時』、解説にもある通り、様々なタッチ、題材の物語が収められており、楽しく読めるアンソロジーになっています。収録作では、ローレンス・ハウスマン「銀色の時」が飛び抜けた傑作だと思いますが、他の作品もどれも面白い作品です。



夏至の魔法―イギリスファンタジー童話傑作選 (講談社文庫) 文庫 – 1988/3/1


神宮輝夫編『夏至の魔法 イギリスファンタジー童話傑作選』(もき かずこ、若林ひとみ訳 講談社文庫)

メーベル・マーロウ「夏至の魔法」
 なんでも屋のダッチィ・ダンに買われていたロバ、クロップには逃げ出し癖がありました。逃げ出したクロップは、魔女が住んでいた家の垣根の木を使って作られたという回転木戸に追い詰められてしまいます。たまたま居合わせたオールド・ワイジー先生は、
ロバと目を合わせた瞬間、魔法によってクロップと中身が入れ替わってしまいます…。
 魔法によってロバと入れ替わってしまった学者の先生を描く作品です。人間の体に入ったロバはいつも通り吠えますが、それは自動的に人間の言葉に変換される、というのも面白いですね。ロバがいつもの癖で人間の姿のまま本や靴をかじるシーンは抱腹絶倒です。ユーモアたっぷりのファンタジー作品です。

ローレンス・ハウスマン「妖精を信じますか?」
 様々な業績を残した学者であるブレイントリー教授は、孫娘のエルフリーダのことを愛しながらも、彼女が信じている妖精の存在に関しては、この世にいないと断言していました。
 先に家にもどった教授は、エルフリーダから妖精を目撃したという手紙を受け取ります。手紙には、証拠として妖精がいたという木の葉っぱが同封されていました。その直後、見たことのないような小さな生き物がそばにいることに教授は気がつきます…。
 妖精を信じない現実主義者の教授のもとに、孫娘を通して妖精が現れるという物語。妖精の造形が非常にリアルで印象に残ります。魔法の存在ではありながら、人間が信じなくなったら妖精は死んでしまう…ということも描かれるなど、「死」の雰囲気が濃いところも興味深いですね。

ローズ・ファイルマン「王室御用達の焼きぐりは、いかが?」
 その美味さには定評のあったアンドリューの焼きぐり売りの屋台は、新しくやってきたソーセージ売りに押されて、あまり売れなくなってしまいます。古い看板を参考に、自分の店の看板を作ろうと思い立ったアンドリューは、見本に書いてあった「王室ご用達」の文句までもそのまま写してしまいます。看板のおかげで、売り上げはどんどん上がることになりますが…。
 「王室ご用達」の文句を看板に書いてしまった素朴な老人が、そのせいでトラブルに巻き込まれてしまう、という物語。登場人物たちの素朴さと正直さが気持ちのよい作品になっていますね。

A・A・ミルン「笑わないお姫様」
 笑い上戸の王は、娘が全く笑わないのを気にして、姫を笑わせたものに姫との結婚と国の半分をゆずる旨を布告します。たくさんの参加者が現れるものの、姫を笑わせることはできません。参加者の数はどんどん減っていきますが、諦めずに毎日やってくるのは、ひょうきん者のホッポ卿、美男子のロロ卿だけでした。ロロ卿に好感を抱いた姫は、彼が勝つことをひそかに願っていましたが…。
 笑わない姫と、彼女を笑わせようとする求婚者たちを描く物語。姫を笑わせるのが思いもかけない手段、というのは常套的な展開なのですが、笑いに関して才能があり努力もした方が破れてしまう、というところはちょっと釈然としないところではありますね。

コンプトン・マッケンジー「毛布の国の大冒険」
 マイケルはある夜、周囲がぼんやりしてくるのに気づきます。毛布の中の世界に入ってしまったのです。そこで出会ったのはウェールズのセント・デヴィッド。ほかにも合わせて七人の聖人たちと共に冒険に出ることになりますが…。
 毛布の中の世界で聖人たちと冒険を繰り広げるというファンタジー作品。最初は完全な別世界と思えた毛布の中の世界が、だんだんと現実と結びつきはじめ、現実の事物が幻想世界に現れ始める、という展開は魅力的です。

ヒュー・ウォルポール「ストレンジャー」
 子どもが苦手な父親と田舎の農家にやってきた少年の「私」。現地の人々とも深い付き合いはできず孤独を抱える「私」ですが、周囲の自然の美しさには魅力を感じていました。家の人々が留守のある夜、追われていた見知らぬよそ者の男が現れますが…。
 孤独を抱える少年が、突然現れたよそ者の男と瞬間的に心を通わせるという物語。全体に写実的に描かれた物語で、ファンタジーとはちょっと異なるのですが、少年の孤独感と寂寥感、そしてほのかな温かみが感じられる、味わい深い作品になっています。

メーベル・マーロウ「みんなで背中を流すには」
 川で何年も背の高さの順に並んで背中の流し合いをしていた小人たち。しかし、のっぽのランキー・トムは、自分はいつも一番後ろで背中を流してもらったことがないと文句を言いだします。お風呂係のハンピーは新しい方法を考えることになりますが…。
 小人たちの間で、背中の流し合いについて揉め事が起こるという物語です。妖精たちの世界が舞台ではありながら、話題になるのが、背中を洗うことというのが、生活感があふれていて楽しいですね。

メーベル・マーロウ「歌い病・バイオリン病・フルート病」
 ある夏の晩、突然歌が止まらなくなってしまった小人のゴロップ。彼は「歌い病」にかかってしまったというのです。相談した老人から、バイオリンに病を移せば病気は治ると言われたゴロップは、バイオリンを借りますが、今度は「バイオリン病」にかかってしまったといいます…。
 「歌い病」にかかった小人がバイオリンに病を移しますが、今度は「バイオリン病」になってしまい、果ては「フルート病」になってしまうという、ユーモラスなファンタジー。音楽が「病」として描かれるというユニークな作品です。結局「病」は形を変えただけ、という結末も面白いですね。

 小説のほか、巻頭に「カラーポエム」としてカラー口絵が8ページ、マリアン・アレン、ローズ・ファイルマン、ヒュー・チェスターマンの詩も掲載されています。こちらは素朴な童謡詩といった感じでしょうか。中ではイタリアの村のオレンジについて詠ったマリアン・アレン「オレンジ」が印象に残ります。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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