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最近読んだ本

ハサミ男 (講談社文庫) 文庫 – 2002/8/9


殊能将之『ハサミ男』(講談社文庫)
 少女を狙う連続殺人鬼「ハサミ男」は、第三の犠牲者として選んだ樽宮由紀子を殺す機会をうかがっている最中に、何者かに殺された由紀子の遺体を発見します。ハサミを使ったその殺人方法は、明らかに自分の方法を模倣していました。遺体の第一発見者となった「ハサミ男」は真犯人を探そうと考えますが…。

 連続殺人鬼が自分の模倣犯を探すという、ブラック・ユーモアに富んだ物語です。
 この殺人鬼、多重人格で自殺未遂を繰り返すというものすごい奇人。実際に殺人を犯しているらしい人格の他に「医師」と呼ばれる別人格がいて、この「医師」がメインの人格の行動や自殺未遂について、鋭い意見を挟んでいく…というのが特徴です。
 殺人鬼側の視点と、捜査を進める警察側の描写がカットバックで描かれていくのですが、警察側は犯人の証拠をなかなか掴むことができません。警察側はキャリアの犯罪心理分析官である堀之内と、そのパートナーとして抜擢された目黒西署の磯部を中心に、その捜査が描かれていきます。
 「ハサミ男」が真犯人を探ろうと、犠牲者樽宮由紀子のことを調べていくうちに、由紀子が多くの男性とつきあっていたことやその家族との歪んだ関係などが明らかになっていきます。そしてそんな由紀子の人間性に「ハサミ男」も関心を持つようになる、というのも面白い展開ですね。
 かなり大がかりなトリックが仕掛けられており、その仕掛け的な部分も面白いのですが、殺人鬼の異常心理や、犠牲者の人間性を辿る過程、ブラック・ユーモアに富んだ物語の展開自体も魅力的です。傑作との評価が高いのも頷ける作品でした。



ナキメサマ (角川ホラー文庫) 文庫 – 2020/12/24


阿泉来堂『ナキメサマ』(角川ホラー文庫)
 倉坂尚人の部屋を突然訪ねてきた見知らぬ女性は、高校時代の初恋の相手、葦原小夜子のルームメイトであり、さらに彼女が行方不明であると話します。有川弥生と名乗る女性は、小夜子は両親の死後、親戚のいる稲守村に帰省したまま帰ってこないと言います。
 何らかのトラブルに巻き込まれているだろう小夜子を連れ戻すために、一緒に来てほしいと言われた尚人は逡巡しますが、いまだに小夜子は彼のことを思っているという言葉を聞き、同行することを決意します。
 葦原家を訪れる二人ですが、小夜子の祖父である辰吉は、村の祭り「ナキメサマ」の儀式の巫女として役目が終わるまでは小夜子に合わせることができないと断られてしまいます。葦原家に泊まり、数日後に迫った祭が終わるのを待つことにした二人でしたが、尚人は夜に家の外で、着物を着て奇声を上げる怪物のようなものを目撃します…。

 因習に満ちた村で行われているらしい祭「ナキメサマ」。夜な夜な村を徘徊している怪物が「ナキメサマ」なのか? 祭りとはそれをなだめるための儀式なのか? 主人公の尚人と、後には村を調査に訪れた作家と編集者も加わり、村とその儀式について調べていくことになります。
 「ナキメサマ」の造形もユニークです。対面したら、人間はほぼ確実に殺されてしまうという恐るべき怪物なのですが、その怪物が生まれた由来には哀れむべき事情もあるのです。主人公は怪物を止め、恋人を救い出すことができるのか? また祭りの儀式は何のためにあるのか?
 尚人と小夜子の過去になにがあったのか? ということも含めて、さまざまな謎が提示され、魅力的な作品になっています。
 探偵役としては、主人公はあまり活躍せず、途中から登場する作家の那々木が主に調査役を担うことになるのですが、このあたりも伏線となっているところが上手いですね。
 純粋にホラーとしても面白いのですが、大掛かりなトリックも仕掛けられており、そちらの趣向も非常に面白い作品です。



惑わしの森 Kindle版


飯野文彦『惑わしの森』(祥伝社文庫)
 ライターを生業としていた佐久間正次は、ある小説賞を受賞したことをきっかけに作家専業になることを決意しますが、案に相違して小説はあまり売れず、経済的に困窮していました。旧知の雑誌編集者安東から、自殺の名所として知られる樹海の取材を依頼され、引き受けることになります。
 安東の言葉によれば、これまで人が行かなかった奥地に、新たな樹海が発見されたというのです。また安東は、密かにある伝説の真偽も調べてきてほしいと話します。
 かってコンビを組んでいたこともあるカメラマンの小沢と二人で樹海へ向かった正次は、小沢がろくな道標もない状態でどんどんと進むのに驚きます。また、以前とは異なる小沢の様子にも不審の念を抱きます。奥に進むにつれ、小沢の顔は異様なまでに髭が濃くなっていました…。

 経済的に追い詰められた作家が、樹海の取材をしているうちに奇怪な体験をすることになる…というホラー作品です。舞台が樹海だけに心霊ホラー的な展開になるかと思いきや、意外な方向に進んでいくのが面白いところです。
 主人公の妻が失踪していること、取材のパートナーの小沢の様子がおかしいこと、依頼主の安東にも何か良からぬ企みがあるらしいことなど、樹海の探索が始まる以前に、すでに不穏な状況にはなっており、この時点で登場人物たちの悲劇的な運命を予想してしまうのですが、思いもかけないことが起こり、事態が解決に向かうという、ユニークな展開となっています。ただ一見解決と見えたものの、その裏には本当に解決したといっていいのか分からなくなるような描写もありますね。
 ジャック・フィニィ『盗まれた街』+スタニスワフ・レム『ソラリス』と言うと、何となく雰囲気が伝わるでしょうか。ユニークなホラー作品となっています。



星の国のアリス (祥伝社文庫) 文庫 – 2001/10/1


田中啓文『星の国のアリス』(祥伝社文庫)
 愛する兄の妻との軋轢から、別の星の親戚の家に送られることになった16歳の少女アリス。乗り込んだ宇宙船“迦魅羅”号には、乗組員を始め風変わりな人物ばかりが乗り込んでいました。地球を出航直後、密航者の死体が発見されますが、その死体は全身の血を抜き取られていました。
 船長のゴッパは、殺人が吸血鬼によるものだと断言します。乗客名簿を見たところ、ドラキュラことヴラド公の子孫である男性が乗り込むはずだったというのです。個人的な事情で乗船が中止になったとは聞いていたものの、密かに船に乗り込んだか、もしくは誰かを殺してその人間に成り代わっているのではないかと船長は疑います。次々と殺人は続き、乗船した人間たちは互いに疑心暗鬼になっていきますが…。

  航行中の宇宙船内で、吸血鬼の仕業としか思えない殺人が起こるという、SFホラー作品です。航行中の宇宙船内部で殺人が起こるという、いわゆるミステリで言うところの<クローズド・サークルもの>なのですが、そこに吸血鬼や宇宙人など、SF・ホラー要素を混ぜ込んだユニークな作品です。乗客は何か秘密を抱えたらしき後ろ暗い人物ばかりなのに加えて、乗務員も中毒患者や異常性格者ばかり。
 まともな捜査もままならないうちに、どんどんと人が殺されてしまいます。主人公的な視点で描かれ、一見犯人ではありえないように見えるアリスにも、怪しい点が見え隠れします。誰が吸血鬼で誰が殺人犯なのか? あまりに意外すぎて、この真相を見抜くのはほとんど不可能なのではないでしょうか。
 登場人物が皆変人すぎて、誰が犯人でもおかしくないように見えるのに加えて、あまりに意外な方向から真相がやってくるので、唖然としてしまいますね。
 殺人の犠牲者の中に異星人も混じっているのですが、この異星人殺害後の死体の処理方法がグロテスクすぎて、こちらにも驚かされます。
 この著者らしくエログロ場面も多いので、好き嫌いは分かれそうですが、これはミステリとして見ても秀作といっていいのでは。



書きたい人のためのミステリ入門 (新潮新書) 新書 – 2020/12/17


新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』(新潮新書)
 ミステリに長らく関わってきた編集者である著者が、ミステリの書き方の作法を紹介するのと同時に、ミステリ入門的な内容を盛り込んだ本です。
 「ミステリ」とはどんな小説か、といった基本的なところから、伏線の張り方であるとか、ミステリにおけるリアリティ、世界観の設定など、さまざまな点からのアプローチがされているのですが、それぞれのアドバイスが非常に実用的なのが特徴です。
 印象に残ったのは、伏線について語った部分。伏線を多数盛り込んだとしても、読者はほとんど覚えていない、それよりもビジュアルとして印象に残る伏線を残せ、というアドバイスはなるほど、という感じです。
 あと、特殊設定ミステリに関する章も面白いです。さまざまな現実離れした世界を作っても、その世界でしか起こり得ない物語を作れなければあまり意味がない、という指摘も参考になりますね。
 タイトルから創作作法的な本だと思われがちですが、純粋に読み物としても面白いです。独特の「型」の多いジャンルだけに、読者として知っておくと面白い内容が載っています。
 「ミステリ」の重要な要素の一つである「謎」についても、それが解けない特殊なタイプの物語<リドル・ストーリー>などについて触れているのも、視野が広いですね。



天帝少年 中村朝短編集 (ビームコミックス) コミック – 2020/9/12


中村朝『天帝少年 中村朝短編集』(ビームコミックス)
 SF・ホラー・ファンタジーなどの色彩が濃い短篇を収録した漫画作品集です。
 泥棒に入った少年がその家の住人が書いていた小説原稿を見つけ夢中になるという「きみが小説家をみつけたら」、廃屋の屋敷から白髪になった男子高校生4人の死体が見つかったことから恐るべき真実が明らかになるという民俗学的ホラー「白件」、中国の神トウテツと人間の間に生まれ、あらゆるものを食べてしまう少年を描いた「トウテツの子」、生まれつき味を感じない少年が他人のために料理をするという「三弦巻き」、住人を幸せにしようとする座敷童とその部屋に越してきた少年の奇妙な共同生活を描く「流行り神プロトコル」、決まりきった日常に意味を見出せない少年が、鳥のような少女を連れた謎の少年と出会う「天帝少年」の6篇を収録しています。
 それぞれの短篇、冒頭に提示された物語だけでも純粋に面白いのですが、それらがクライマックスで思わぬ展開を見せ、真実の物語が明らかになる…という構造になっているものが多く、その芳醇さに驚かされます。
 例えば「流行り神プロトコル」。表面上、提示されるのは、部屋に住み着いた座敷童がそこにやってきた無愛想な少年を幸せにしようとする物語、なのですが、最終的にはそれとは全く異なる物語が現れることになります。
 また表題作「天帝少年」では、日常に倦んでいる少年が、異世界から来たらしき鳥の少女を連れた少年と出会い、それこそが自分の運命だったと考える物語なのですが、日常だと思っていた世界がそうではなく、主人公ですら別の人物だった…という、捻った構造の物語になっています。
 他の作品も多かれ少なかれ、そうした複雑な層を持つ物語となっていて、その描かれ方が非常に上手いのですよね。また作品自体の雰囲気も素晴らしい。短篇漫画集で、こんなに上手いなあ、と思わされた作品集は久しぶりです。



ダンピアのおいしい冒険(2) コミック – 2020/12/14


トマトスープ『ダンピアのおいしい冒険2』(イースト・プレス)
 17世紀に実在した探検家・博物学者ウィリアム・ダンピアの生涯を漫画化した作品の第二巻です。
 二巻では、前巻で船長のクックを失った後のダンピア一行の苦難が描かれるほか、少年時代から青年時代に至るダンピアの下積み時代が描かれます。一巻では目立っていた、珍奇な風物や変わった動植物の料理場面などは控えめですね。
 二巻のメインは、貧しい家庭に生まれたダンピアが、学問を志すも家庭環境から断念し、その代わりに仕事を通して博物学の魅力に目覚めていく過程が描かれる部分でしょうか。もちろん初めから上手くいくわけでなく、奉公でつまらない作業をやらされたり、乗り込んだ海軍船で死にそうになったりもします。
 とくに海軍の船で働くパートでは、船の劣悪な環境や勝ち目のない戦いに挑む上官など、かなり悲惨な生活も描かれていますね。倉庫の腐った食料が描かれるシーンは強烈です。1巻同様、野外での魅力的な料理シーンももちろんあります。島に住む鳥ブービーの肉や卵を使った料理シーンは、とても魅力的に描かれています。



日野日出志 トラウマ! 怪奇漫画集 単行本(ソフトカバー) – 2020/11/16


寺井広樹著、日野日出志監修『日野日出志 トラウマ! 怪奇漫画集』(イカロス出版)
 日野日出志のショッキングな作品の中でも、さらにトラウマになりそうな作品をセレクションした短篇集です。
 収録作は、「水の中」「地獄の子守唄」「はつかねずみ」「ウロコのない魚」「あしたの地獄 ―地球発2020―」「二階屋の出来事」
 日野日出志作品、個人的に読んでいない作品が多いので、この本の収録作も全て初読でした。確かに強烈に後を引く、トラウマレベルの作品が多いです。特に印象に残ったのは「水の中」「はつかねずみ」「ウロコのない魚」でしょうか。
 「水の中」は、交通事故で四肢を失い醜くなってしまった少年が、母親に面倒を見てもらいながら暮らしていたところ、水商売を始めた母親からだんだんと虐待されるようになる…という物語。
 少年の顔面が怪物じみた描写をされているのが強烈です。母子が迎える結末は悲惨なものにも関わらず、妙に叙情的に閉じられる幕切れが印象に残ります。
 「はつかねずみ」は、少年がペットショップからもらってきたはつかねずみが段々と巨大化し、とうとう家族全員がねずみによって支配されてしまう…という物語。
人間を食い殺したりと、ねずみの凶暴さが強烈です。
 「ウロコのない魚」は、たびたび自分が刺されたり殺されたりする幻覚を見続ける少年の物語。夜には恐ろしい悪夢を見るものの、その内容は思い出せないのです…。
 タイトルのウロコのない魚は奇形の魚で、幻覚にも登場するものの、物語の本筋には特に関係のないあたりも面白いですね。
 W・F・ハーヴィーの「炎天」に似ている、と言うとオチが割れてしまうでしょうか。この本、収録作品ごとに作者との対談が載っていて、実際インタビュアーが「炎天」の影響があるのか聞いていますが、読んだことはないそうです。



洋書ラビリンスへようこそ 単行本 – 2020/11/27


宮脇孝雄『洋書ラビリンスへようこそ』(アルク)
 著者が読んだ洋書のレビューを集めたブックガイドです。20世紀半ば以降の現代文学作品がメインに紹介されています。
 作品の一部が原文で取り上げられている部分がありますが、ちゃんと試訳が付けられていますし、作品のあらすじや概要も分かりやすくまとめられています。基本的に、洋書がまったく読めない読者でも、楽しめるようになっています。
 また、文章の初めは毎回興味を引くような話題が取り上げられており、エッセイとしても滋味のあるものになっていますね。
 過去のレビューを集めているとのことで、すでに翻訳が出ている本もありますが、それらも含めて面白そうなタイトルがたくさん集められています。
 主流文学だけでなく、SF・幻想文学方面の作品も多く取り上げられているのも魅力ですね。作家名を挙げると、ジェフ・ライマン、ロアルド・ダール、ラムジー・キャンベル、アンジェラ・カーター、スパイダー・ロビンスン、シャーリイ・ジャクスン、シオドア・スタージョン、トマス・リゴッティなど。
 まだ日本で未紹介の作家の中では、ケルト系の幻想作家だというリース・ヒューズがちょっと気になりました。
 小説以外にも、評論・ノンフィクション・エッセイ・旅行記なども取り上げられており、こちらも面白いです。なかでは、世界の破滅をテーマにした映画ばかりを集めたガイド本『ミレニアム・ムービーズ』(キム・ニューマン 未訳)が興味深いです。
 こちらは未読なのですが、著者の前著である『洋書天国へようこそ 深読みモダンクラシックス』では、モダンクラシックス(19世紀半ばから20世紀半ばにかけての英語の古典文学)がメインだそうで、こちらはほぼ翻訳のある古典作品紹介になっているようです。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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