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人生の不思議  モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見作品集 緑の酒』
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 モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見作品集 緑の酒』(中川潤編訳 エニグマティカ)は、フランスの残酷コント作家、モーリス・ルヴェル(1875-1926)の未邦訳作品を6編収録した作品集です。

 物乞いに金を恵んだ男が、その物乞いを尾行して真実を知ろうとする「緑の酒」、女性に相手にされない醜い男が娼婦によって幸福なまま死んでいくという「金髪の人」、犯罪を犯して収監され死の床にある息子とその監房を訪れた父親の物語「家名を穢すな」、人になつかない栗鼠とその飼い主の皮肉な物語「栗鼠を飼う」、妻の裏切りを知った夫の残酷な復讐を描く「小径の先」、亡き妻のイメージを心の中に取り戻そうと妻の墓を暴く男を描いた「忘却の淵」を収録しています。

 父親に復讐するために敢えて自暴自棄に犯罪を犯す息子を描いた「家名を穢すな」や、妻を苦しめるために情夫に残酷な復讐をする夫を描いた「小径の先」など、いかにもルヴェル風といった作品もありますが、今回の作品集では「栗鼠を飼う」「忘却の淵」がちょっと異色でしょうか。

 「栗鼠を飼う」は、野生味が強く人にあまり馴れない栗鼠のアドルフと彼を飼うことになった男の物語。なかなか馴れない栗鼠のために、男は屋敷の庭に面した部屋をまるまるアドルフのために開放します。窓が開いているのに気づいたアドルフはやがて庭に飛び出しますが…。
 これは作者には珍しい、動物とのふれあいを描いた物語?と思いきや、そこはルヴェル。人間に触れてしまった動物が野生に戻りきれない哀しみを描いた残酷物語になっています。

 巻末の「忘却の淵」は、ルヴェルとしてはかなり長めの作品になっています。
 「わたし」は、五年ぶりに友人のガストン・ヴァルイユに出会います。彼は妻を亡くして以来塞ぎこみ別人のようになっていました。ガストンは自分の心情を打ち明けます。
 愛妻は不治の病で亡くなったが、亡くなる直前の亡霊のような容貌が心に焼きついてしまい、妻の姿を思い浮かべることができなくなったことに苦しんでいるというのです。髪の毛が死後もしばらく残ることを知ったガストンは、妻の墓からその髪の毛を手に入れようと考えますが…。
 晩年の病にやつれた妻のイメージを払拭しようと、妻の墓からその髪を手に入れようとする男の物語です。強迫観念に囚われてはいるものの、ある種の純愛を描いた物語と思いきや、そこには皮肉な結末が待ち構えています。精神的な残酷さを描いた物語ともいえるでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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