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子どもだけの世界  アンドレス・バルバ『きらめく共和国』

きらめく共和国 (日本語) 単行本 – 2020/11/11


 スペインの作家アンドレス・バルバの長篇『きらめく共和国』(宇野和美訳 東京創元社)は、とある亜熱帯の町に突然現れ、突然死ぬことになった32人の子どもたちをめぐって、一人の男が過去を回想することになる…という不思議な手触りの作品です。

 1994年、ジャングルと川をかかえる亜熱帯の町サンクリストバルに、現地の人々には理解できない不思議な言葉で話す子どもたちが、どこからともなく現れます。物乞いやちょっとした盗みを働く彼らは不気味がられながらも、大した被害はないために放っておかれていました。
 しかし子どもたちの行動はエスカレートし、ある日スーパーに多人数で集まった彼らは、そこで数人の大人を刺殺してしまいます。直後に姿を消してしまった彼らがジャングルに潜んでいるのではないかと考えた町の住人たちは、ジャングルの中を捜索すべきだと考えますが…。

 突然町に現れた大量の奇妙な子どもたちをめぐる物語です。物語の大枠は、事件から22年後、事件の渦中にいた社会福祉課長の「私」の過去の回想に、別の人間の日記や評論などが挟まれていくという形になっています。初めから32人の子どもたちが死んでしまったことが示されており、彼らはなぜ死んだのか、どのように死んだのかが、徐々に明かされていくことにないます。
 問題となる子どもたちは、とくに超自然的な存在ではなく、他の町から流れてきた、いわゆるストリート・チルドレン的な存在らしいのですが、子どもたちだけで集まって暮らすうちに、独自の言語が生まれて、彼らだけの文化を形作るようになっていたらしいのです。ただ、知識も技能もない彼らは、町から盗みを働くことでしか生きていけず、それが町の大人たちとの軋轢を引き起こすことになります。
 しかし、自由な子どもたちに憧れる町の住人の子どもたちも現れ、彼らの仲間に加わろうと行方をくらます子どもも現れます。殺人事件と併せ、現実的な脅威を感じた町の大人たちは、子どもたちを排除しようという方向に動いていくことになるのです。

 物語の語り手となる「私」は、サンクリストバル出身の妻マヤとその義理の娘ニーニャと暮らしていますが、回想をしている時点では、すでに妻は亡くなり、娘も他の男のもとに去ってしまったことが記されています。
 悲しみを抱えたその心境が、過去の子どもたちへの同情となって現れている節もあり、子どもたちに対して他の対応策はなかったかという後悔の念もあるようなのです。実際、過去の事件の最中では「私」は子どもたちに対しては、かなり強硬な立場で臨んでいます。時を経ての「私」の事件に対する心境の変化もまた読みどころでしょうか。

 「私」の妻であるマヤは、ヴァイオリン奏者兼音楽教師なのですが、作中で彼女が愛する曲として取り上げられるのが、タルティーニの「悪魔のトリル」。曲の由来と合わせて、物語の象徴的な意味も持たされているようですね。

 対立する子どもと大人、ジャングルと町、彼らの対立は「自然」と「文明」とのアナロジーでもあるのでしょうか。ただ、町に住む大人や子どもの中にも、彼らに同情的な立場の人間もいたりと、単純な二項対立にはならないところも面白いですね。
 子どもたちの死をもって、町への脅威という意味での事件は終息するのですが、彼らが話していた独自の言語や文化、そして彼らの存在が町の人々に残したものなど、様々な謎を残すラストも、余韻があって魅力的なものになっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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