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過去と未来  メアリー・ダウニング・ハーン『時間だよ、アンドルー』

時間だよ、アンドルー (日本語) 単行本 – 2000/4/1


 メアリー・ダウニング・ハーンの長篇『時間だよ、アンドルー』(田中薫子訳 徳間書店)は、12歳の少年ドルーが、大叔母の住む古い屋敷の屋根裏でタイムスリップし、100年近く前に生きていた自分とそっくりの少年アンドルーと入れ替わるというファンタジー作品です。

 12歳の少年ドルーは、考古学者の父親の調査のため両親と離れ、大叔母の住む古い屋敷に預けられることになります。屋敷にはブライズ大叔母とその父親であるひいおじいさんが住んでいました。認知症のあるひいおじいさんは、ドルーのことを過去に知っていた別の少年だと思い込み、彼を嫌います。
 ドルーは、屋根裏で見つけた古い写真の中に、ドルーそっくりの少年の姿を見つけますが、大叔母によれば、それはドルーと同じ名前のアンドルーという少年であり、彼は若くして亡くなったというのです。同じ場所で、ドルーはアンドルーが大事にしていた美しいビー玉を見つけます。
 その夜、ドルーは屋根裏部屋から降りてきたアンドルーと出会います。そこは過去の時代と繋がっているようなのです。ジフテリアで死にかけているアンドルーは、現代ならその病気を治せることを知り、ドルーと一時的に入れ替わってほしいと頼みます。
 過去の時代に入り込んだドルーは、奇跡的に病気から回復し、その病のせいで記憶に欠落ができてしまったことにして、その時代でしばらく過ごすことになります。
 優しい姉ハンナや負けん気の強い弟テオ、そしてその両親を含め、兄弟のいないドルーは家族との生活を楽しみ始めます。
 しかし一家には、家の相続をめぐって犬猿の仲になってしまった伯父とその息子エドワードがいました。たびたびエドワードの嫌がらせにあってしまうドルーでしたが…。

 過去の時代の自分そっくりの少年アンドルーと入れ替わることになった少年ドルーの冒険を描くタイムトラベル・ファンタジー作品です。
 アンドルーが死んでしまったことを知っているドルーは、彼の病気を治して助けることができるのではないかと考え、不可抗力的に入れ替わりをOKしてしまいます。
 しかしそこは100年近く前の時代、様々な環境の違いにドルーは戸惑うことになります。記憶を失ったことにしたものの、かってアンドルーが知っていたことを何も知らないため、不審がられてしまいます。さらに活発で喧嘩っ早いアンドルーに比べ、ドルーは大人しく臆病な性格なため、飼い犬から威嚇されたり、いじめっ子のエドワードから馬鹿にされたりしてしまうのです。
病気の回復したアンドルーと再び入れ替わろうとするものの、ビー玉勝負で勝てない限り戻らないと言い張るアンドルーに負けっぱなしで、なかなか元の時代に戻ることもできません。

 二人の少年が入れ替わるものの、メインとなるのは過去に入り込んだドルーを描くパートです。現代に行ったアンドルーに関しては、時折二人が会ったときに間接的に語られるだけになっています。ドルーが、最初は恐る恐る触れていた過去の時代の生活に馴染んでいく姿が魅力的に描かれていますね。
 不便ではあるものの素朴で牧歌的な生活、兄弟との触れあいなど、その時代とその家族に愛情を感じ始めるのです。とくに優しい姉ハンナに関しては、本物の姉のように慕うことになり、彼女がボーイフレンドと過ごすことに対して嫉妬すら感じる、というあたりは微笑ましいです。
 別の時代で長い時間を過ごしているうちに、アンドルーとドルーが、それぞれの時代に影響されたものなのか、過去の記憶が薄れて、互いに相手と同じような性格になりつつある、という設定も面白いところですね。
 このままだと、完全にアンドルーそのものになってしまう…という危機感を抱くドルーは元の時代に戻ることができるのか? アンドルーとのビー玉勝負に勝てるのか? といったろところにハラハラドキドキ感があります。ただ、過去の時代での生活と同様に、アンドルーとの交流を通して彼との友情を感じ始めたり、ビー玉勝負で勝つため、ハンナにやり方を教わったりと、ドルー自身も経験を深めていきます。二人がそれぞれ相手にあって自分にないものを認識し、それぞれ成長を遂げることにもなるのです。

 タイムトラベルものとしては、過去を変えることによって未来も改変される、というタイプの作品になっています。ドルーの行動によって未来はどう変わったのか? 結局アンドルーは生き延びることができたのか? 改変された現代が描かれる結末は感動的ですね。
 タイムトラベルとそれによる入れ替わりという部分も面白いのですが、引っ込み思案だった少年が、違った時代で奮闘し成長するという、成長物語としても非常に魅力的な作品になっています。
 過去の時代のいじめっ子エドワードが、現代では主人公ドルーの直系のひいおじいさんである、というのも面白い趣向ですね。過去が変わる前と変わった後とで、表面上は違いのみえないひいおじいさんの態度が、心なしか前向きに変わっているように見える、という結末の情景も素晴らしいです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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