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いなかった男  原浩『火喰鳥を、喰う』

火喰鳥を、喰う (日本語) 単行本 – 2020/12/11


 原浩『火喰鳥を、喰う』(KADOKAWA)は、かって南方で戦死した大伯父の従軍日記が発見されたことをきっかけに、不条理な出来事が相次ぐというホラー・ミステリー作品です。

 出張から信州に帰ってきた久喜雄司は、久喜家代々の墓が何者かによって傷つけられたことと、太平洋戦争で南方に従軍し亡くなった大伯父、久喜貞一の日記が現地で見つかったことを聞かされます。
 雄司とその祖父である保、妻の夕里子、義弟の亮たちは、久喜家に届けられた貞一の日記を記者たちとともに読むことになります。日記には貞一の強烈な生への執着が書き記されていました。読んでいる最中、何かに憑かれたようになった亮は、日記に「ヒクイドリヲ クウ ビミ ナリ」という謎の文章を書き込んでしまいます。
 その直後から、久喜家の周辺では異常な事件が起こり始めます。貞一のかっての部下の家が火に包まれ、日記を発見した記者が精神錯乱を起こし、そして祖父の保は失踪をしてしまいます。何かが起こっていると感じ取った夕里子は、超常現象に詳しい、ある知り合いに連絡を取ることになりますが…。

 戦争で亡くなった大伯父の日記を読んだことから、不思議な現象が多発しはじめる…というホラー・ミステリ作品です。最初は関連性の見えなかった複数の事件が、みな日記の存在に関わっていることが分かってきます。さらに、そこには生へ執着していた大伯父、貞一も関わっているらしいのです。

 話の流れから、未練を残して死んだ貞一の怨念や呪いといったものを想像するのですが、そうした方向ではなく、思いもしなかった方向に物語がシフトしていくのには驚かされます。この展開を予想できる人はそうそういないんじゃないでしょうか。
 どちらかと言うとSF的といっていい発想が扱われているのですが、SFにはならないところもユニークです。ホラーなのかミステリなのかSFなのか、明確にジャンルが分類できず、あえて分類するなら、「モダンホラー」でしょうか。
 選評を読むと、欠点も結構指摘されていて、そのあたり確かに頷けるところがあるのですが、ホラーの新しい可能性を示唆する作品として、一読の価値はあるのではないかと思います。
 内容やテーマは異なるのですが、読んでいて同じような方向性を感じたのは、デイヴィッド・アンブローズやマイケル・マーシャル・スミスの一部の作品でした。何となく分かってもらえる人には分かってもらえるでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「火喰鳥を、喰う」読みました。
 書評にあるように欠点もあるけれど、十分面白かったです。
ホラーとSFの中間のような感じですね。
旧日本軍兵と火喰鳥、と視覚のイメージが統一されていたので、インパクトがありました。

 余談ですが、私の曾祖父も終戦から2年半ほどシベリアに抑留され、復員しています。
調べてみると、生きて帰れたのは「運が良かった」からで、仮に
「曾祖父が亡くなり、代わりに別の方が復員した」
という現実に置き換わったとしても、違和感はなかったのかも知れません(祖母は出征前に生まれていたので、多分私の存在は消えないでしょう)。
自分が出てくるとしたら、中盤に登場した伊藤軍曹の甥のポジションかな、などと考えました。
【2021/03/20 09:28】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
ハイブリッド的なジャンル小説で面白いですよね。家族の歴史と重ね合わせてみると、また違った意味でも面白さが感じられるのかもしれません。
【2021/03/20 13:37】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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