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二つの世界  ピート・ハウトマン『きみのいた森で』

きみのいた森で (海外ミステリーBOX) (日本語) 単行本 – 2021/1/22


 ピート・ハウトマンの長篇『きみのいた森で』(こだまともこ訳 評論社)は、親友となった少年少女が、パラレルワールドによって引き裂かれてしまうという、SFファンタジー作品です。

 祖父と母と共に暮らしていた少年スチューイ。彼らが暮らす広い屋敷は、かって一代で財を成しながらも、後ろ暗い評判のあった曽祖父が建てたものでした。何十年も前に、曽祖父を目の敵にしていた弁護士ローゼンと共に二人は姿を消し、どちらかがどちらかを殺したのではないかと噂されていました。
 嵐で祖父ザックを失ったスチューイは沈んでいましたが、引っ越してきた少女エリー・ローズと友人になり、元気を取り戻します。
 二人は、毎日のように森の秘密の場所で遊ぶようになります。失踪したローゼンが、エリーの曽祖父であることを母親から聞いたスチューイは、森の中にいる際に、そのことをエリーに話しますが、直後にエリーの姿はぼやけて消えてしまいます。エリーは行方不明とされ捜索が行われますが、一向に見つかりません。
 しかし、ある日森を訪れたスチューイは、消えたはずのエリーが目の前にいるのに気がつきます。彼女によれば、行方不明になっているのはエリーではなく、スチューイだというのです…。

 何らかの原因(おそらくはスチューイとエリー・ローズの曽祖父同士が殺し合いになったのではないかということ)を少年少女が知ることを境に、世界が二つに分裂してしまい、親友の二人が引き裂かれてしまう…というSFファンタジー作品です。
 分裂した二つの世界は、それぞれスチューイとエリーが失踪したことになっており、それによってそれぞれの世界も進む方向が異なっていく、というのが特徴です。エリーが失踪した世界では、彼女の両親が引っ越してしまったり、スチューイが失踪した世界では、彼の母親が精神を病んでしまっていたりします。
 面白いのは、スチューイとエリーに関しては二つの世界を合わせて一人ずつしか存在しないのに対して、それ以外の人物は、二つの世界にそれぞれ同じ人間が存在するということ。彼らの行動も、二つの世界で少しづつ異なってくるのです。

 森の中で接触したスチューイとエリーは、それぞれの世界の情報を交換することになりますが、その機会はだんだんと薄れ、やがてほとんど会えなくなってしまいます。親友の失踪により精神的なトラウマを抱えたと判断された二人は、それぞれの親の計らいにより精神科医に治療されたり、遠くへやられたりします。 
 パラレルワールドの発生には、おそらく二人の曽祖父スチュアート・フォードとロバート・ローゼンの失踪が関わっています。ギャングまがいの後ろ暗い事業で富を儲けたフォードと、彼を捕らえようと狙っていた地区検事のローゼンは、同時に失踪しており、殺人が行われた可能性も噂されていました。
 しかし、どちらがどちらを殺したのかもはっきりしないのです。彼ら二人に関して、スチューイの祖父ザックは何かを知っている節もあるのですが、それを明かさないまま彼は亡くなってしまいます。
 ザックが関心を持っていた量子力学についても言及されるなど、おそらく曽祖父たちの運命がはっきりしないため、世界がひとつに確定していないのではないかという疑いが持ち上がります。主人公のスチューイとエリーは、真実を明かし二つの世界を再び一つに戻せるのか…?というのが読みどころでしょうか。

 主人公二人が引き裂かれ、二つの世界ができてしまうわけですが、それぞれの世界が別の方向に進んでいく過程が同時並行的に描かれるのが実に面白い作品です。
 周囲の人物はほぼ同一ながら、スチューイとエリーで、それぞれの人間関係が異なっていたり、町の開発や森の保全などで、違う方向に町が発展したりと、条件が少し違うだけでも、町や世界が変わっていく…ということが描かれます。
 そのあたりをうまく描くためなのでしょうが、世界が分裂してから数年間という、長いスパンで描かれる物語になっています。必然的に、親友だったスチューイとエリーの別れも長い期間にわたることになるのです。本当に自分はパラレルワールドにいる友人に会ったのだろうか? 成長するにつれ、かっての親友の記憶が薄れ、現実感覚も希薄になっていく様子を描く部分には、非常にリアリティがありますね。
 SF的なガジェット、物語としての仕掛けもさることながら、主人公となる少年少女の成長過程の数年間が、繊細かつ丁寧に描かれており、その部分も魅力的な作品になっています。人間の生きる「世界」とは何なのか? という、ある種哲学的なテーマも隠れているようで、読み応えのある作品です。



テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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