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不思議な恋の物語  アン・ローレンス『幽霊の恋人たち サマーズ・エンド』

幽霊の恋人たち―サマーズ・エンド (日本語) 単行本 – 1995/6/1


 アン・ローレンス『幽霊の恋人たち サマーズ・エンド』(金原瑞人訳 偕成社)は、宿屋に滞在することになった流れ者の男性が、宿の娘の三姉妹に不思議な話を語って聞かせる…という、幻想的な枠物語です。

 夏の終わり、宿屋のオーク荘に現れた流れ者の男性レノルズさんは、しばらくの間宿に滞在し、家の仕事を手伝うことになります。宿の娘たち、ベッキー、リジー、ジェニーは、彼から不思議なお話をしてもらうことになりますが…。

 流れ者のレノルズさんが三姉妹に不思議な物語を語る、という体裁の枠物語集です。各エピソードの内容は様々ですが、大体において「幽霊」や「恋」が絡むお話が多くなっています。
 レノルズさんの語る各エピソードの内容は次のようなもの。
 しっかり者の少女が勤め先で、死後も家事を管理しようとする主婦の幽霊と対峙する「こわいもの知らずの少女」、少女が不思議な青年と恋人になるものの、彼には魔法がかけられていたという「タム・リン」、ある男性から息子の世話を頼まれた少女がその屋敷で不思議な経験をするという「チェリー」、死後も恋人の女性につなぎとめられ成仏できない親友を救おうとする男の物語「ウィリアムの幽霊」、よそ者の森番が隣人の農場で起きる怪奇現象に挑むという「野ウサギと森の番人」、負けん気の強い娘を妻にもらった森番が、妻の行為のせいで窮地に陥るという「泉をまもるもの」、農場の息子が不思議な美しい娘に出会いその虜になるという「ジェムと白い服の娘」、素性の知れない男と秘密裡に結婚した娘が失踪した夫を探す「最後のお話」が収められています。

 大体のエピソードで「幽霊」と「恋」がテーマとなっています。幽霊を含む超自然現象は「こわいもの知らずの少女」「ウィリアムの幽霊」のようにユーモラスなものもあれば、「泉をまもるもの」のように結構怖いものがあったりと、様々です。中でも面白い読み味なのは「チェリー」でしょうか。

 母親に頼られ続けていた少女チェリーは、妹が大きくなったのを機に独立して暮らそうと考えて家を出ます。たまたま出会ったグッドマンという紳士から、息子の面倒を見てほしいと頼まれたチェリーは、彼の屋敷に住むことになります。
 息子のオーブリーや屋敷での生活にも愛情を抱くようになったチェリーでしたが、骨董部屋の彫像に対しては恐怖感を抱いていました。ある夜、その部屋から不思議な音楽が流れてくるのを耳にしますが…。
 民話的な、いわゆる「見るなの座敷」モチーフの物語なのですが、ヒロインの過ごす屋敷や雇い主親子の素性がはっきりしないのと、作中で起きる怪奇現象の因果も説明されないので、妙な不気味さがありますね。ヒロインが雇い主にほのかな恋心を抱いていたりと、少し甘酸っぱい雰囲気も相まって、不思議な味わいの物語になっています。

 大枠となる物語の方では、メインのヒロインであるベッキーが学校を卒業したばかりで、これからどうすべきか悩んでいる、というところが描かれています。ベッキーは、まだ子どもである妹たちと比べ、独立心が強いのですが、レノルズさんの語るエピソードに登場するヒロインたちも、自分の力で事態を打開したりと、強い心を持つ女性が多く描かれているあたり、ベッキーを含めた三姉妹に向けた物語になっている、ということなのでしょうか。
 その意味で印象に残るのは最後のエピソード「最後のお話」です。変わり者の男性に求婚されて子どもができた後、失踪してしまった夫を探す女性を描く物語なのですが、それまでのエピソードが超自然現象の絡むお話なのに対して、このエピソードのみ、そうした超自然現象が起こらず現実的に進む物語になっているのですよね。このあたり、レノルズさんが最後にこの物語をした意図などを考えるのも面白いところですね。

 舞台が夏の終わり、子どもから大人への階段を上りつつあるベッキーの成長を描く物語でもあって、レノルズさんが語る各エピソードは、それらを象徴しているといっていいのかもしれません。
 全体に、自然豊かな描写が多く登場しており、そうした雰囲気も魅力の一つになっていますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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