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孤独の終わり  イアン・リード『もう終わりにしよう。』

もう終わりにしよう。 (ハヤカワ・ミステリ文庫) (日本語) 文庫 – 2020/7/16


 イアン・リードの長篇『もう終わりにしよう。』(坂本あおい訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)は、男性の両親が住む農場へ挨拶に行くカップルが、心理的な危機を迎える…という幻想的なスリラー作品です。

 付き合いたてのカップルである、ジェイクと「わたし」。二人はジェイクの両親が住む農場に挨拶に向かっているところでした。しかし「わたし」は、二人の関係を終わりにしたいことを言い出せずにいました。
 しかも、以前から「わたし」のもとには見知らぬ男からの不可解なメッセージがいくつも留守電に残されていました。車で農場に向かう途中にも、何度もその男かららしい電話がかかってきますが…。

 男性の両親のもとに挨拶に向かうカップルを描いていますが、女性側は別れを切り出すことを考えていた…という、一見すると心理スリラー的作品に見えるのですが、その実、そうしたジャンル分類には収まらない奇妙な味わいの作品です。
 ジェイクの言動が不自然なこと、「わたし」の来歴が曖昧なこと、「わたし」に電話をかけ続けてくる謎の男のメッセージも意味が不明であるなど、不穏の塊のような物語で、どこか超自然的な雰囲気さえ漂わせており、実際その読み味もホラーに近いです。

 カップルの物語の合間に挟まれる、殺人か自殺に関わる捜査らしきパートも、最初のうちは全体の物語とのつながりが全く分からず、作品の不気味さを増しています。
 結末では事件の真相が明かされ、それによって、それまでの不可解な点が伏線として機能していたことが分かるのですが、それでも多数の不明点が残るなど、不条理度の高い作品になっていますね。

 メインのテーマは、おそらく「孤独」とその「救済」なのではないかと思います。主人公の二人のカップルは、恋人でありながら、それぞれ孤独を抱えており、二人の間にはどこか壁のようなものがあります。
 それでも二人が一緒にいるのはなぜなのか? 女性側の「わたし」が別れを切り出さないのはなぜなのか?
 その理由が示されるラストには、非常に説得力がありますね。
 こうしたテーマをこのような不条理スリラーのような形で描いているのは、試みとして新しく、一読の価値がある作品なのではないかと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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