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生きている人形  フィリップ・プルマン『時計はとまらない』

時計はとまらない (偕成社ミステリークラブ) (日本語)


 フィリップ・プルマン『時計はとまらない』(西田紀子訳 偕成社)は、悪魔的な時計職人によって作られた機械仕掛けの王子をめぐる、幻想味豊かな童話作品です。

  ドイツの小さな町の酒場<ホワイト・ホース亭>、師匠のリンゲルマンと共にやってきた時計職人のカールは、憂鬱な顔をしていました。代々、見習い明けに時計塔に新しい機械仕掛けの人形を設置するのが慣わしになっていましたが、彼はまだそれを作れていなかったのです。
 そんな折、陽気な作家のフリッツは、みなの前で新しい話を披露します。『時計はとまらない』というタイトルのその物語はこんな話でした。
 冬のさなか、オットー大公は、幼いフロリアン王子と親友のシュテルグラッツ男爵と共に狩に出かけますが、数日後に馬車で突然期間します。
 男爵の姿はなく、大公は死んで冷たくなっていたにもかかわらず、むりを振るう腕だけが動き続け、馬車を動かしていたというのです。死体を解剖した結果、大公の体には心臓がなく、代わりにぜんまい仕掛けが施されていたというのです。
 事件の真相を明らかにできるのは、天才と噂されるカルメニウス博士だけではないかと言われていました。フリッツの話がそこまで進んだところで、酒場の扉を開けて入ってきたのは、話の中で描写されたのとそっくりの人物でした。しかもその男は自らをカルメニウス博士と名乗っていました…。

 大公とその友の失踪、機械仕掛けの施された死体、王子の出生の秘密など、さまざまな謎が明かされていくのと同時に、作家の語る物語と現実とがリンクしていくという、メタフィクショナルな要素も強い物語です。
 物語の本筋は、新しい時計塔の人形を作れず悩んでいる徒弟の青年が、悪魔的な科学者から誘惑を受ける話と、同じく科学者によって作られた王子の少年を生かすため、父親が奔走する、という話、二つのストーリーが過去と未来、二つの時系列で語られます。
 さらにそれらが本当に事実として起こった話なのか、作家フリッツの創作の影響により生み出された仮想現実なのかが分からなくなってくるという、めまいのするような構造になっていますね。
 短めの作品ではありながら、その複雑な構造と多重に語られるストーリー、それでいて芯にはしっかりとしたテーマがあるなど、多様な要素を含んだ物語で、これは傑作といっていい作品かと思います。

舞台がドイツ、自動人形やからくり、悪魔との契約、メタフィクショナルな構造など、ドイツ・ロマン派の作家E・T・A・ホフマンの作品を思わせる作りで、実際作者もそのあたりを意識しているのかもしれません。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「時計はとまらない」読みました。
 面白かったです。
複雑な構成なのにブレがなく、その上ハッピーエンドにするのは非常に上手いと思いました。
まあ、構成が複雑で皮肉が多いので、子供が読んだらどう感じるのかは若干気になりましたが・・・

 途中に入っている楽譜をピアノで弾いてみたら、なかなか雰囲気に合っていましたよ。
【2021/02/06 13:11】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
すごく手の込んだ構成なので、子どもが読んだらびっくりするかもしれないですね。
エンターテインメントの見本みたいなお話だと思いました。
実際に、楽譜をピアノで弾かれたのですね。どんな感じなのか、いつか聞いてみたいです。
【2021/02/06 22:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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