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虚構と現実  都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』

怪奇小説という題名の怪奇小説 (集英社文庫) (日本語) 文庫 – 2011/1/20


 都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』(集英社文庫)は、長篇怪奇小説の依頼を受けた作家が、外国の未訳の小説を盗作しようと本を読み直している内に、30年前に死んだはずの従妹そっくりの女を見つけ、彼女をめぐって奇怪な体験に巻き込まれるという怪奇作品です。

 作家の「私」は、長篇怪奇小説の依頼を受けますが、筆が進まず、かって読んだアメリカ作家の未訳の小説の舞台を日本に置き換えて盗作をしようと考えます。その本、マーク・ルーキンズの「The purple stranger」は、記憶喪失の男を主人公に、推理小説風に展開する妖怪譚という趣の作品でした。
 街をうろついているうちに、30年前に病気で死んだ従妹、小柴直絵にそっくりな女を見かけた「私」は、久しぶりに会った旧友桑沢から、彼女はゲイバーに勤めている男だと聞かされ驚きます。「私」はバーに通い、ムリという源氏名の彼女と親しくなりますが、その直後にムリは姿を消してしまいます。
 アパートの管理人から、ムリが長野に引っ越したということを聞いた「私」は、たまたま旅行に出かけようとしていた桑沢の妻、狭霧と共に長野に向かうことになりますが…。

 あらすじを要約すると上記のようなお話になるのですが、その実、そう直線的には進まない物語になっています。主人公の「私」が盗作しようと読み直している海外作家ルーキンズの「The purple stranger」の内容、そしてそれを翻案した「私」自身の小説の内容がメインの物語の中に混在しているからです。
 しかも、それらの小説の内容を受けてか、「私」の現実生活にも異様な影響が及んでいきます。時折、今読んでいるのが小説(作品内での小説)なのか、「私」の現実世界なのかが分からなくなってきます。
 さらに序盤には、「私」が展開する怪奇小説論と共に、ジョン・スタインベックの怪奇短篇「蛇」が全篇まるごと引用されるという、ユニークな構成となっています。

 異様な化け物が出てきたりと、メインとなるストーリーに関しては、ジャンル的には「伝奇ホラー」といって良い作品かと思うのですが、作中に引用される本の内容、そしてその本自体に何か異様な点があり、それが現実を変容させている可能性までもが匂わされるという、混沌とした様相の怪奇作品となっています。
 今読んでいる部分が、「現実」(主人公にとっての)なのか、引用された本の内容なのか、それによって影響された「私」の幻覚・妄想なのか。物語に設定された複数のレイヤーが入り混じる…とでも言えばいいのでしょうか。
 結末も明確な解決が訪れず、フィクションと現実が入り混じるような不思議な終わり方となっており、ある種のリドル・ストーリー的な味わいもありますね。
 それを言うと、序盤で引用されるスタインベックの「蛇」の内容も、明確な解決や意味が取れないリドル・ストーリー的な味わいで、本編を象徴するような働きをしているとも取れますね。

 序盤、海外アンソロジーに関しての言及がある部分で、アンソロジストとして、カート・シンガー、ロバート・エイクマン、ハーバート・ヴァン・サール、ピーター・ヘイニングの名前が挙げられるところも、怪奇小説ファンとしては楽しいところです。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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