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古書と幽霊  A・N・L・マンビー『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』

アラバスターの手: マンビー古書怪談集 (日本語) 単行本 – 2020/9/12


 A・N・L・マンビー『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』(羽田詩津子訳 国書刊行会)は、M・R・ジェイムズの後継者とも目されるイギリスの作家、A・N・L・マンビー(1913~1974)の怪談集です。

 かって目撃した稀覯書に再会したことから少年時代の悪夢が甦る「甦ったヘロデ王」、呪われた先祖の寺院をめぐる怪異譚「碑文」、座ってはいけないとされる聖職者席とアラバスター像の秘密をめぐる「アラバスターの手」、相続した屋敷の品物を競売にかけようとしたことから起こる怪異を描く「トプリー屋敷の競売」、古屋敷の塞がれた暖炉と霊現象の関わりを描く「チューダー様式の煙突」、クリスマスパーティーにやってきた男の過去の罪が呼び覚まされる「クリスマスのゲーム」、山の上で出会う超自然現象の恐怖を描く「白い袋」、その上で寝た人間が怪死してしまうベッドの謎を追う「四柱式ベッド」、著名画家の残した絵をきっかけに殺された黒人の残酷な運命が解き明かされるという「黒人の頭」、時?書の挿絵が張替えられていた事実から、ある家の因果が語られることになる「トレガネット時?書」、霧の山での霊との思わぬ出会いを描く「霧の中の邂逅」、放埓な青年の罪により家が滅んでしまうという「聖書台」、婚約者を亡くした青年が魔術に手を出したことから破滅が訪れる「出品番号七十九」、少年が引き取られた高齢の伯父は異様に悪魔と死を恐れていたという「悪魔の筆跡」の、全14篇を収録しています。

 ほぼ全ての作品で、模範としたM・R・ジェイムズ同様、古書やアンティーク、史跡や古建築など、古物が主なテーマとなっているのが特徴です。古物が原因となって、怪奇現象や超自然現象が解き明かされる…というタイプの作品であるので、その意味では「古色蒼然」とした話ではあるのですが、語り口は洗練されていて非常にモダンであるのも、マンビー作品の魅力の一つでしょうか。
 「古書怪談集」のタイトル通り、古書が重要な役目を果たす作品が多いですが、一番印象に残るのは「甦ったヘロデ王」でしょうか。
 友人の病理学者オークランドの書棚にある本を見つけた「私」は、まさに過去その本に出会ったことから、少年時代の体験を思い出すことになります。
 レイスという名の男が経営する古書店に入り浸るようになった「私」は彼の知識に魅了されますが、ある日ふとしたことから彼の私室に入り込み、その中にジル・ド・レに関する本があるのを見つけます。レイスは激怒しますが、それからしばらくして、「私」は彼によって地下に閉じ込められてしまいます…。
 端的にいうと、少年時代に殺人鬼によって殺されそうになった男の回想を描いた作品、ではあるのですが、それにどこか超自然的な要素を感じさせる出来事がいくつか絡んでいるところが、異色の味わいになっています。殺人者自体はもちろんなのですが、作品全体のテーマを象徴する古書の存在が非常に禍々しく描かれているところも魅力ですね。

 あとは「黒人の頭」「霧の中の邂逅」も面白いですね。

 「黒人の頭」は、入手した画家の絵に黒人の頭が描かれていたことから、その男の運命を知りたくなった語り手が過去を探っていくという物語。男は同僚の迷信深さと偏見から殺されてしまうのですが、その運命の哀れさと異様さが前面に出ていて、怪奇小説というよりも歴史奇譚的な味わいの方が強くなっています。

 「霧の中の邂逅」は、山の上で迷った男が犬を連れた奇妙な老人に出会い、彼から地図で正しい道を示されるものの、それは崖下につながっていた…という物語。
 後に老人は、生前、道案内で人助けをしていた男の幽霊であることがわかるのですが、彼自身は死後も善意で現れていたのではないか、ということが示されます。「善意から人を死に追いやってしまう霊」という、面白いモチーフの物語になっています。

 興味深いのは、マンビーがこれらの主要作品を書いたのが、大戦時囚われていた収容所の中だったということ。作品のはしばしで戦争の影のようなものが見えることがあるにせよ、こうした「古き良き怪奇小説」をそうした環境下で書いた、というのには驚くべきものがありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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