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行ってしまった者たち  C・J・チューダー『アニーはどこにいった』

アニーはどこにいった (日本語) 単行本 – 2020/10/15


 C・J・チューダーの長篇『アニーはどこにいった』(中谷友紀子訳 文藝春秋)は、数十年ぶりに故郷に教師として戻ってきた男が、妹をめぐる過去の忌まわしい記憶を呼び起こされるという、ホラー・ミステリ作品です。

 イングランド北部の小さな町アーンヒル、女教師モートンが息子を殺して自殺するという事件が起きます。代わりに採用されたジョー・ソーンは、かってこの町で暮らしていましたが、子供時代に妹アニーをめぐる失踪事件が原因となり、町を去っていたのです。
 彼を呼び戻したのは、妹と同じことがまた起きようとしていると伝える、何者かからのメールでした。戻ってきたジョーを、町の有力者である議員スティーヴン・ハーストは追い出そうと画策します。ハーストは、子供時代のジョーの友人グループのリーダーであり、妹アニーの失踪事件、そして共通の友人クリスの自殺にも関わっている可能性があるのです。
 スティーヴンの息子ジェレミーを教え子として持つことになったジョーは、かっての父親と同様権力を振りかざすジェレミーと対立し、それが原因で学校側とも軋轢をきたしてしまいます。
 死んだモートンの息子ベン、ほかにも失踪した子供が、かってのアニーと同様の災難に見舞われているのではないか? ジョーは秘密の計画を進めますが、その過程で過去の忌まわしい記憶もまた蘇ることになります…。

 妹アニーをめぐる忌まわしい事件が原因で故郷を離れていた男ジョーが、匿名のメールにより町に舞い戻り、その記憶を呼び起こされる…という、ホラー・ミステリ作品です。
 過去に妹アニーに起こった事件と、現在のジョーの行動とが、交互に描かれていくという構成になっています。

 アニーが失踪後、一時的に家に戻ってきたものの、直後に事故死してしまったことが序盤で明かされますが、失踪後のアニーに何かが起こっていたこと、それは現在の子供にも起こり始めているらしいことをジョーは知ります。
 過去の事件でハーストを追い詰める意図を秘めているらしいジョーですが、ジョーの帰還を知ったハーストにより、様々な方面から邪魔をされてしまいます。さらに自らの多額の借金により、取立人の凶暴な女グロリアにも付け狙われる中、ジョーは過去の事件の真相を暴き、ハーストを追い詰めることができるのか? といったところが読みどころになっています。
 舞台が古い炭鉱町であり、過去の魔女狩りや落盤事故による大量死など、忌まわしい歴史が秘められていることも示唆され、それがまた後半の展開にもつながってくることになります。

 序盤から超自然ムードが濃厚なのですが、事件の真相が現実的に解釈できるのかそうでないのかは、後半になるまではっきりしません。ただ、作中の一部の人物は超自然現象を明らかに信じており、それに従って動いているところは特徴的ですね。
 過去のパートでは、妹アニーに何が起こったのか?というところだけでなく、主人公ジョーの子供時代も重要なテーマになっています。
 リーダー的存在のハーストから仲間にしてもらうものの、それほどの発言権はなく、ハーストのガールフレンドマリーに密かに思いを寄せるなど、屈折した青春時代が描かれていきます。そうした子供時代の関係と、さらに大人になって再会した彼らの関係がどうなっていくのか?というあたりも、サスペンス豊かに描かれますね。
 登場人物の中でも特に異彩を放っているのが、取立人のグロリア。細身の女性ながら、格闘の達人で、人を殺すことにも躊躇いがないという、殺し屋まがいの人物です。基本的には主人公ジョーの敵ながら、めぐり合わせで助けてもらうことになったりと、複雑な関係も描かれます。

 スティーヴン・キングの強い影響を広言しているだけに、作品にもキングを思わせる要素が感じられます。また、某キング作品と同じモチーフが使われている部分もありますね。ホラーとミステリのハイブリッド作品という触れ込みですが、この作品に関しては圧倒的にホラーの要素が強いです。本格的なホラーじゃないなら…とスルーしていたホラーファンにもお薦めしたい作品になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
主人公の名前がジョン・ソールと似ている。
作品自体も読み応えありますがキングファンなら2度美味しい!キング作品よりイヤミス度が上がっているような。超自然より人間が一番怖いと思いました。
【2021/01/31 09:22】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
そういえば、ジョン・ソールに似てます…。
キングの影響が強いそうですね。個人的にはキングよりもこなれていて読みやすかったのですが、後味は悪いお話でした。
【2021/01/31 18:56】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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