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探偵の奇妙な冒険  フィリップ・ホセ・ファーマー『淫獣の幻影』『淫獣の妖宴』
 フィリップ・ホセ・ファーマーの長篇『淫獣の幻影』『淫獣の妖宴』は、ポルノ小説レーベルのために書かれた作品なのですが、ファーマー独自の奇想が展開されたユニークなホラー小説になっています。


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フィリップ・ホセ・ファーマー『淫獣の幻影』(朝松健訳 CR文庫)
 警察に送られてきたという猟奇的なフィルムを観た私立探偵チャイルドは驚愕します。そこには、共同で事務所を経営するコルベンが性的に弄ばれた上に惨殺されるシーンが映っていたからです。
 事件に超自然的なものを認めたチャイルドは、オカルト文献の収集家であるヒーピッシュを訪ね、その家の文献である男に興味を持ちます。それは吸血鬼との噂もあるイゲスク男爵でした。彼が住むトローリング屋敷はかっての屋敷の持ち主の娘ドローレスの幽霊が現れるということでも有名でした。インタビューと見せかけて、イゲスクとの会見に成功したチャイルドでしたが…。

 1960年代にポルノ小説専門のレーベル、リーゼント・ハウスのために書かれたという作品であり、当然そうしたシーンが何度も出てくるのですが、全体としてみると奇想を帯びたホラー小説としても楽しめる作品になっています。
 探偵事務所のパートナーが失踪し殺されてしまった主人公が、その謎を追う…という物語なのですが、この殺されてしまったパートナーが碌な人間ではなかったこともあり、物語が進むうちに、その敵討ち的なモチーフは薄れていってしまいます。
 代わりに前景に出てくるのが、猟奇的な性的倒錯シーンと、吸血鬼、人狼、幽霊といった人外の怪物たち。しかもこれらが伝統的な怪物として登場するのではなくて、SF的な設定をバックとして登場するところが面白いですね。性的なシーンもこれらの怪物の設定との絡みで出てくることもあって、ポルノ部分とホラー部分が上手く結びついてくるところも上手いです。
 とくに本作に登場する幽霊の設定はユニークで、こういうタイプのゴースト・ストーリーはあまり読んだことがありません。
 バイオレンスシーンも結構強烈です。スプラッターブームを経た1980年代に書かれたならともかく、これが1960年代に書かれたというところに、ファーマーの先進性が感じられますね。
 ポルノ部分にそんなに抵抗がなければ(実際モダンホラー作品では、このぐらいの描写は出てくるものも多いです)、奇想に富んだホラー作品として楽しめる作品ではないかと思います。



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フィリップ・ホセ・ファーマー『淫獣の妖宴』(江津公訳 CR文庫)
 イゲスクとその周囲の怪物たちを滅ぼした私立探偵チャイルドは、探偵を辞めていましたが、ある日見覚えのある美女を見かけます。それはイゲスク邸での事件で生き残った怪物たちの一人ヴィヴィアンでした。
 失踪した前妻シビルの失踪に彼らが関わっていると考えたチャイルドは、ヴィヴィアンを尾行し、彼女の入っていた屋敷に潜入します。やがてチャイルドは、ヴィヴィアンたちがチャイルドの秘められた力を求めているのを知ることになりますが…。

 ポルノ小説として書かれた『淫獣の幻影』の続編ですが、前作以上に奇想がたっぷりの作品になっています。ホラー味もありますが、どちらかと言うとSF味が強くなっていますね。
 前作で生き残った怪物たちとその仲間たちに再度遭遇する主人公チャイルドですが、今回は、チャイルドの秘めた力が明らかになり、怪物たちがその力を求めてくる、というお話になっています。
 怪物たちの側にも派閥があるらしく、その二つの派閥がチャイルドの力を求めて暗躍する姿が描かれます。ヴィヴィアンたちとは対立するグループが接近するのは、なんと実在のSFファン、フォレスト・J・アッカーマン。
 前作にも登場したホラーマニアのヒーピッシュにブラム・ストーカーの直筆の絵を盗まれたことから、怪物たちの争いに巻き込まれることになります。このアッカーマン、脇役にとどまらず、本筋に絡んでくるほどの活躍で、ほとんど副主人公といっていい扱いになっています。
 怪物たちの造形描写に関しては前作に譲るところがありますが、今作メインで登場するヴィヴィアンの造形はインパクトがありますね。
 子宮に蛇状の体をした人面の男を飼っており、それを引き抜かれると体がバラバラになってしまうという、強烈な設定です。
 怪物たちの描写が抑え目なかわりに、本作では奇妙な性の儀式が描かれており異彩を放っています。ポルノ的な意図で描かれている部分だとは思うのですが、それらが奇想といっていいほどの描写になっていますね。
 前作では、怪物たちの正体に関してSF的な解釈が示されていたのですが、本作では彼らの起源に関して、スケールの大きな真実が明かされます。
 実在のSFファンであるアッカーマンが登場することでも分かるように、かなりパロディ的な側面も強い作品で、それもあって、後半の展開はかなり羽目を外した感じの楽しい作品になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

年末年始とで2冊読んでみました。
凄い奇想小説という印象ですが、妖宴のほうは少しあっけなく感じました。
昔読んだ、チャールズ・プラットの「挑発」も面白かった記憶があります。
【2021/01/24 19:08】 URL | マルケス #rO1fTtJQ [ 編集]

>マルケスさん
続編の方は、ちょっと小粒な印象でしたね。正編の方が全体にミステリアスでよく出来た作品だったなと思います。
チャールズ・プラットの「挑発」は知りませんでした。ちょっと探してみたいと思います。
【2021/01/24 19:48】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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