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不摂生な楽園  ダグラス・ケネディ『どんづまり』

どんづまり (講談社文庫) 文庫 – 2001/12/1


 ダグラス・ケネディの長篇『どんづまり』(玉木亨訳 講談社文庫)は、仕事を辞め、オーストラリアを訪れた元ジャーナリストの男性が監禁されてしまうという、サスペンス・ホラー作品です。

 二流の新聞社を転々としていたアメリカ人ジャーナリストのニック・ホーソン。30代も後半になったニックは、ある日見つけた地図をきっかけにオーストラリアへの憧れを抱きます。仕事を辞めやってきたオーストラリアでしたが、思ったほどの刺激もなく嫌気がさしてきていたところ、人里離れた場所で、若い女性のヒッチハイカーを乗せることになります。
 魅力的なその女性アンジーとわりない仲になり、幾日かを共に過ごすことになったニックでしたが、生まれ故郷からほとんど出たことがないという彼女の世間知らずさと、その一方的な態度に、不審の念を抱きます。
 アンジーに別れを告げようとした直後、ニックは意識を失ってしまいます。目が覚めると体が縛られており、目の前にはアンジーの叔父だというガスという男がいました。彼によれば、ここはアンジーの故郷ウォラナップであり、ニックはすでにアンジーと結婚済みだというのです。
 出ていこうとするものの、体には大量の薬が盛られており、ろくに動くこともできません。しかもこの地は、アンジーの父親「ダディ」を始め、いくつかの大家族の長が町を治めており、まともな法律も警察もないというのです。「ダディ」から、出て行こうとすれば殺すとの脅迫を受けるニックでしたが…。

 行きずりの女性とのアバンチュールをきっかけに監禁されてしまうことになった男の苦難を描くサスペンス・ホラー作品です。囚われた土地は少数の人間によって支配されるとんでもない環境で、警察も法律もありません。そもそも地図上では、その町はすでに存在しないことになっているのです。
 「妻」となったアンジーを始め、その父親「ダディ」やその家族も粗野で暴力的、ちょっとしたことで拳が飛んでくるという過酷な環境なのです。家族の中で唯一、まともな神経を持っているアンジーの姉クリスタルとのふれあいをニックは待ち望むことになります。

 ゆがんだ形とはいえ、主人公の成長物語にもなっているところが面白いですね。何事にも真剣になれず、仕事も転々としていたニックが監禁されて後、強要された自動車修理の仕事に夢中になっていきます。分解された自動車を見事に復元した直後にそれを壊されてしまい、その衝撃で精神がおかしくなってしまう…というシーンにはインパクトがあります。監禁中の生活を通して、人生に対して再考を迫られる…という内省的なテーマもあるようです。
 ただ、そうした真摯なテーマもあるものの、全体はブラック・ユーモアに彩られた小説です。監禁先の家族たちも、暴力的だとはいえ、殺人を繰り返したりするほどの猟奇さはなく、彼らなりの親切心で主人公を心配したりするあたり、悪い冗談のような作品になっています。

 町の家族たちの主要な産業はカンガルー肉の解体なのですが、その作業も非常に粗っぽく、カンガルーの死体がそこら中に転がって異臭がしている…という強烈な描写です。独自の貨幣制度が作られてはいるものの、それが酒と煙草が基準になっていたりと、アンチ・ユートピアみたいな作りになっています。
 閉鎖的で暴力的なコミューンでありながら、最低限の社会性や、歪んだ形ではありますが人間性も保たれていたりと、妙な社会像が描かれているという意味でも、面白い作品かもしれませんね。



テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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