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闇の世界  ルーパート・トムソン『終わりなき闇』

終わりなき闇 (講談社文庫) (日本語) 文庫 – 1997/9/1


 ルーパート・トムソンの長篇『終わりなき闇』(斉藤伯好訳 講談社文庫)は、視覚を失った男の奇怪な体験を描いたサイコ・スリラー作品です。

 突然頭を銃撃され、視力を失ってしまった男マーティン・ブロム。担当である神経外科医のヴィッサーからは視力が戻ることはないと言われていましたが、なぜか夜、暗い場所では物が見えることにブロムは驚きます。そのことを周囲に秘密にしているブロムは、家族や恋人からも別れて新しい生活を始めようとします。ナイトクラブで働く若い女性ニーナと知り合い、恋人になったブロムでしたが、しばらくすると、ニーナはブロムに別れを匂わせた後に失踪してしまいます。
 ブロムは夜、異様な行動をする人間を目撃することが増えてきていました。さらに、時折、テレビ映像のようなものが視界に映るのです。彼は治療の際に、ヴィッサーによって頭に何か仕掛けをされたのではないかと考えるのですが…。

 全体は三部に分かれています。上に挙げたあらすじが第1部。第2部では、第1部で失踪した女性ニーナの祖母であるエディス・ヘックマンの生涯が語られ、第3部では第1部と第2部のお話がつながるようになっています。
 全体の7割ぐらいは第1部が占めており、この部分が突出している感じでしょうか。視力を失った男ブロムが、ニーナという女性と出会いますが、彼女が失踪してしまい、それを探しているうちに、彼女の母親や祖母と出会うことになる…というのが大まかなストーリーラインなのですが、その本筋以外でのブロムの行動が異様で、彼の認識が真実なのか妄想なのかが分からない、という不穏な感じの読み味になっています。
 夜には目が見える、というのも実は怪しく、彼が目にする光景と話している相手が言っていることが矛盾していたり、ホテル内でところかまわず性行為をする男女が見えるなど、明らかに妄想に近い光景が展開されています。しかしブロムはそれが妄想や幻覚だとは思わず、医者が仕掛けた大がかりな陰謀なのではないかと考えたりするのです。

 所々で思わせぶりな描写(伏線?)が語られるのですが、それっきり触れられない話題などもあり、一筋縄ではいかない作品になっています。それが極端なのが<透明人間>のエピソード。サーカスから失踪したという、透明になれる術を持つ<透明人間>とブロムが出会うのですが、この<透明人間>、いかにも後半本筋に絡んできそうに見えるものの、全く出てこない…というあたり、どこか人を食った感じですね。

 第二部では、ニーナの祖母エディスの生涯が描かれます。貧しい環境に生まれたエディスが、実の弟アクセルと恋愛関係になりますが、アクセルは別の娘と結婚してしまいます。妻と共に事故死してしまったアクセルの残した赤ん坊メイジーを引き取ったニーナは、赤ん坊に重度の知的障害があることを知りますが、その子供に執着することになります。後に結婚し実子カリンが出来てからも、実子を放置し、なぜかメイジ-に執着するエディスの行動は異様で、その執着が後の悲劇につながることにもなるのです。

 第三部では、一部と二部の物語がつながることにはなるのですが、第二部はともかく、第一部で描かれたブロムの異様な環境についてはほとんど説明がされずに終わってしまうというところには唖然としてしまうかもしれません。
 第二部に始まるエディスの物語は、単独でも異様なサイコ・スリラーとして面白い作品です。ただ第一部とのつながりは希薄で、これが上手く結びついていたら大傑作になったのでは…とも思わせますね。

 また、ブロムの「妄想」世界が描かれる第一部は、一種の不条理小説のような味わいがあって、こちらはこちらで捨てがたいパートになっています。
 舞台となる国や時代などが故意にぼかされているのも特徴です。おそらくアメリカが舞台なのだとは思いますが、ヨーロッパ的な雰囲気を感じる部分もありますね。
 解説では、主要な登場人物の年齢と事件が年表で説明されており、こちらを見ると、その構造が非常に分かりやすくなっています(いわゆるジャンル小説のフォーマットからは逸脱した作風なので、一読した直後は、ちょっと混乱するかもしれないですね)。
 とにかく「変な物語」で、正統派のミステリやサスペンスを期待した読者は、どう評価していいのか分からなくなってしまうような作品だと思います。ただ、妙な熱気に溢れた物語であることは確かで、変わった作品を読みたい方にはお薦めしておきたいと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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