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大いなる目  ウィリアム・アイリッシュ『夜は千の目を持つ』

夜は千の目を持つ【新版】 (創元推理文庫) (日本語) 文庫 – 2018/11/21


 ウィリアム・アイリッシュの長篇『夜は千の目を持つ』(村上博基訳 創元推理文庫)は、資産家に予言された死をめぐって、その娘と恋人となる刑事の青年の行動を描いた、幻想的なサスペンス作品です。

 深夜、川辺を歩いていた刑事の青年トム・ショーンは、身投げをしようとしていた娘を間一髪のところで救います。ジーンと名乗る娘から、その理由を聞き出したショーンは驚きます。資産家であるジーンの父親ハーラン・リードは、その予言がことごとく当たる占い師トムキンズから、その死を予言されたというのです。その期限はあと三日に迫っていることを聞いたショーンは、信頼する上司マクマナスに事情を説明しますが、そこに現実的な事件の可能性を見て取ったマクマナスは、部下に捜査を命じるとともに、ショーンにはリード父娘の警護を命じることになります…。

 占い師から死を宣告された資産家の父親を案じる娘のために、奔走する青年刑事を描いたサスペンス作品です。
 娘も父親も現実的な感覚の持ち主で、本来超自然的な物事は信じない質なのですが、預言者トムキンズの予言がことごとく実現するのを見ていくうちに、そこに恐れを感じることになるのです。
 最初に示されるトムキンズの予言が、父親が乗る飛行機が墜落するというもので、幸いこれに乗らずに命は助かるものの、そこに父娘ともに恐怖感をいだきます。予言を信じずにいた娘が飛行機事故が実際に起こったことを知るシーンには非常に迫力がありますね。
 刑事ショーンが、身投げをしようとしたジーンから、それまでの経緯を告白によって知る、というのが前半部分なのですが、その預言者トムキンズがいかに恐るべき能力者であるか、という部分がかなりのページ数(180ページ弱)をもって描かれていきます。
 話を聞いたマクマナスは、あくまで現実的なアプローチで事件を捜査しようとします。資産家リードをめぐって何らかの陰謀がたくらまれていると考えた彼は、部下の刑事たちに命じて、トムキンズの予言が偽者である証拠を探させようとするのです。
 しかし各刑事の捜査がことごとくトムキンズの能力を証明する結果になるばかりか、数人の刑事に至っては目の前でトムキンズに関わる超自然的な現象を目にすることになります。
 トムキンズの能力は本物なのか? というところで、幻想的な要素が俄然強くなってきますね。

 主人公ショーンと、ヒロインとなる娘ジーンとの出会いが星空の輝く深夜ということで既にロマンティックなのですが、父親の警護のために二人の結びつきが強くなっていく、というところもロマンス風味が強いですね。トムキンズの能力が本物だとして、リードの死を防ぐことはできるのか? というところが後半の読みどころになっています。

 トムキンズ捜査の過程で、まったく別個に起こっていた殺人計画が発覚するくだりなども、非常に上手いです。しかしそれがまた、事件の超自然性を強めることにもなるのです。事件に対する現実的な捜査が行われるなど、一見、ミステリの衣をかぶった作品なのですが、その実、ほぼ幻想小説といっていい作品かと思います。実際、捜査によって、現実的に暴かれる陰謀や犯罪などもあるのですが、それはあくまで副次的なものであり、メインとなる事件は超自然味が強いです。
 リード父娘が予言を信じるに至るまでのパートだけで200ページ近くを費やしており、その部分はほとんど恐怖小説と言って良い感触です。アイリッシュ特有のムードたっぷりの雰囲気醸成力もあり、幻想的なサスペンスとして上質な作品に仕上がっていますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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