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楽しい地獄  ナタリー・バビット『悪魔の物語』『もう一つの悪魔の物語』
 ナタリー・バビット『悪魔の物語』とその続編『もう一つの悪魔の物語』は、悪魔や地獄をテーマにした物語集。題材からして暗いテーマが多いのですが、それが徹頭徹尾陽気な語り口で語られるという、ブラック・ユーモアあふれる作品集になっています。


悪魔の物語 (児童図書館・文学の部屋) 単行本 – 1994/12/1


ナタリー・バビット『悪魔の物語』(小旗英次訳 評論社)

 悪魔を主人公にした、ブラック・ユーモアあふれる短いお話を10篇集めた短篇集です。
 邪悪な性質を持つだけに、いろいろと悪事を働こうとするものの、結局失敗したり散々な目に会う…というパターンが多いのですが、意外にもその悪事に成功してしまう、ということもあるのが面白いところ。

 妖精に化けた悪魔が魂を奪うために人間の願いを叶えようとするものの失敗し続ける…という「願い」、かわいい娘を地獄に連れ帰ろうとするが拒否されてしまうという「かわいい娘」、泥棒二人組に天国のハープを盗ませようとする「天国のハープ」、鬼の赤ん坊を見つけた牧師の物語「かごの中の小鬼」、クルミのからを割らせようと中に真珠を仕込む「木の実」、悪魔のような絵を描く善人の男の物語「めぐりめぐって」、遺骨の灰がブタのそれと混ぜられたことから地獄でブタにまとわりつかれる男を描いた「灰」、完璧な女の子を堕落させようとする悪魔の行動を描いた「完全な女の子」、花を愛する心優しい小悪魔の物語「バラと小悪魔」、薬によって口を利くようになったヤギが地獄でトラブルを引き起こすという「口利き薬」の10篇を収録しています。

 邪悪ではありながら、その行動はけちくさかったり、人間にしてやられてもおとなしく引き下がったりと、悪魔のキャラクターはユーモラスで楽しいキャラクターとして描かれています。地獄に落ちている悪人や動物たちも、それほど悪くない暮らしをしているらしい描写もあったりするところも面白いですね。
 特に面白く読んだのは「かごの中の小鬼」「めぐりめぐって」「灰」などでしょうか。

 「かごの中の小鬼」は、ある日鬼の赤ん坊を見つけた牧師を描く物語。彼は赤ん坊を丁寧に扱おうとしますが、その赤ん坊の存在を知った周囲の人々はパニックになり、牧師の家に放火までしてしまいます…。
 神に仕える牧師以上に、周囲の人々が狭量で狂信的に描かれるという、皮肉な作品です。

 「めぐりめぐって」は、善と悪をめぐる不思議な物語。心優しいことで知られる画家は、その逆に暗く悪魔的な絵を描いていました。その画風を気に入った悪魔は、絵ばかりか道具まで全て盗み出してしまいます。仕方なく画家は粘土を使って像を作り始めます。
 その像は善意と優しさに満ちており、人々の人気を得るようになりますが、それと共に画家の性格は不機嫌で不愉快なものになっていました…。
 芸術作品には人間の善と悪が表れる、というテーマの作品です。それ同時に作者とその創作物についての関係性についても考えさせられるという、面白い作品です。

 「灰」は、死後地獄で暮らす男がブタにまつわりつかれるという物語。
 ベズルは死後地獄で暮らしていましたが、彼の妻は遺灰を壷にいれて暖炉の上に置いていました。お手伝いが掃除中にベズルの遺灰とブタの灰を混ぜてしまったことから、地獄ではベズルにぴったりとブタがくっつくようになります。
 ブタを放すため、ベズルは悪魔に持ってきてもらった自分の遺灰から、ブタの灰を何年もかかってより分けようとします…。
 まとわりつかれたブタを放そうとする男のお話、なのですが、やがて男はブタに愛情を感じるようになる…という奇妙な味の物語になっています。

 作者のナタリー・バビット、イラストレーターでもあって、ユーモラスな悪魔の絵を寄せています。こちらもなかなか味がありますね。



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ナタリー・バビット『もう一つの悪魔の物語』(小旗英次訳 評論社)

 前作同様、悪魔が活躍するお話を10篇集めた短篇集です。
 悪魔によっていいかげんな占い師の占いが当たるようになるという「オーガンザ夫人の運勢」、地獄に現れたサイを捕らえるように指示された猟師の物語「公平な裁き」、戦争の大好きな兵士を描く「兵士」、地獄に落ちた虚栄心の強い老三姉妹を描く「三途の川の渡し舟」、性根の悪いラクダが地獄から去った由来を語る「アクバルはどのようにしてベツレヘムへ行ったか」、喧嘩をした男女のカップルの仲直りの邪魔をする悪魔を描く「道しるべ」、牧師に育てられたオウムが悪魔に説教するという「お説教」、自分が有名なオペラ歌手だと思い込んだ頭のおかしい男の物語「地獄から天国に行ったバスボーン」、地獄に堕ちた悪党二人を裁くことになった悪魔を描く「簡潔なことば」、土に埋もれていた古代の偶像神の頭を見つけた少年の物語「石の耳」の10篇を収録しています。

 どれもユーモラスで楽しいのですが、とりわけ印象に残るのは「地獄から天国に行ったバスボーン」「石の耳」でしょうか。

 「地獄から天国に行ったバスボーン」は、自分が有名なオペラ歌手だと思い込んだ男の物語。バスボーンは自分がオペラ歌手ドレミ・ファソだと思いこんでいました。ドレミ・ファソ死去の報を聞いても自分はまだ死んでいないのに、と不思議に思います。考え込んでいるうちに橋から落ちて死んでしまいます。本来は天国に行くところ、自分が何者か認識させるため一度、地獄に行かせることが決定されます。
 地獄に着いたバスボーンに自分を認識させるため、悪魔はコンサートを開き、彼に歌わせることになりますが…。
 自分のアイデンティティーを認識しなければ天国には行けない…という、面白いモチーフの物語です。なぜ自分が別の人物であると思い込んだのかについて、詳細は触れられないのではありますが。

 「石の耳」は、ちょっと寓話的な味わいもある物語。
 両親と共に、農家として生計を立てるためにある土地に移り住んだ少年ビービス。その土地はかってピシパッシュ族が住み、偶像神を崇拝していた場所でした。ビービスはあるとき井戸を掘ろうとして、埋もれていた偶像神の耳を発見します。
 ビービスは、夜になると家を抜け出し、偶像神の耳に向かっていろいろなことを話します。耳に向かって考えごとや悩み事を話しているうちに、ビービスは、自信がつきはじめ、頭も冴えてくるようになります…。
 古代の神像(の耳)によって、少し鈍い少年が成長して大人になる…というテーマの作品です。ピシパッシュ族もその崇拝対象の神もろくなものではない(と悪魔の視点から語られます)とされるにもかかわらず、現代の少年には良い影響があった、というところが皮肉めいて面白いところでしょうか。
 レギュラーキャラクターの悪魔がほぼ一瞬しか登場しないこともあって、独立した味わいの強い作品です。悪魔をメインとする超自然的なトーンの連作集の中にあって、登場する偶像神の神性がほとんど感じられないところも特徴ですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
小悪魔さん、パワハラ上司に仕える。
「時をさまようタック」の作家さんで多作なんですね。「灰」のブタ、可愛い!人間界でもマイクロ豚のペットが大人気ですものね。作者自身の挿絵もお話にピッタリ!「完全な女の子」は作者の子育て体験が反映されているのでは?子供が3人もいたら完全でなんていられません。
【2020/11/22 10:37】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


ナタリー・バビット、「時をさまようタック」はわりとシリアスでしたが、本領はユーモアたっぷりの作風みたいですね。「灰」のブタはキュートでした。
【2020/11/23 14:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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