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純粋な悪  トマス・トライオン『悪を呼ぶ少年』

悪を呼ぶ少年 (角川文庫) (日本語) 文庫 – 1998/9/1


 トマス・トライオンの長篇『悪を呼ぶ少年』(深町真理子訳 角川文庫)は、双子の少年をめぐって、殺人を含む様々な犯罪が起きるというサイコ・スリラー作品です。

 1930年代のコネティカット州の田舎町ピーコット・ランディング。リンゴ農園を営むペリー家の主人ヴァイニングは納屋の地下で事故死してしまいます。ショックで妻のアレグザンドラは部屋に引きこもってしまい、双子の息子ナイルズとホランドの面倒を見るのは祖母アダの役目となっていました。
 双子の弟ナイルズは明るく素直な性格、兄のホランドは対照的に残酷で謎めいた性格の少年でした。ホランドは様々ないたずらを繰り返し、ナイルズはそれをたしなめますが、ホランドの行動を止めることはできません。
 同居するいとこのラッセルを双子は嫌っていました。ラッセルが干し草に飛び込んで遊んでいたところ、たまたま下に置いてあったフォークに貫かれ、彼は死んでしまいます。フォークは使用人が片付け忘れたということになっていましたが、事件の影にはホランドが関わっているのではないかと、ナイルズは秘かに疑っていました…。

 父の事故死を皮切りに、ペリー家の周辺の人物に様々な不幸や事故が多発していきます。双子の少年の片割れホランドがそれらに関係しているのではないか? 兄を疑うナイルズと彼らを見守る祖母アダの視点を中心に展開される、サイコ・スリラー作品です。
 悪事を繰り返す少年、いわゆる「恐るべき子ども」テーマが描かれています。動物を虐待したり、人が苦しむのを見て楽しむなど、残酷な性格のホランド。殺人を犯しているのもホランドとしか思えないのですが、本当に犯人はホランドなのか? というのが読みどころでしょうか。

 残酷な犯罪が度々描かれながらも、舞台となる戦前のアメリカの田舎町の光景、そしてその土地で過ごす少年たちの日常生活がみずみずしく描かれる部分もあり、そのあたりも作品の魅力となっています。カーニバルの風景が描かれるところなど、レイ・ブラッドベリの同種の作品にも似た感性も感じられますね

 全体に叙情的なトーンで描かれる作品ではあるのですが、作中で起こる犯罪・殺人はかなり強烈です。周囲の人物だけでなく、血の繋がった家族が主要な犠牲者となってしまうあたり、残酷度は高いですね。とくにクライマックスで起きる事件のグロテスクさには、気分が悪くなってしまう人もいるのではないでしょうか。
 また、精神を病んだ母親の前で、さらにその精神・肉体を破壊してしまうような行動を起こす少年を描くシーンなどは、戦慄を感じさせます。

 物語の構成は一種の枠物語となっていて、現在病院に収容されているらしい(精神を病んでいるらしい様子も垣間見えます)人物が、過去の農園での出来事を語る、といった形になっています。恐らく事件の「真犯人」であるその人物が、精神疾患を理由に収容されているのだろうということは察しがつきますが、いったい誰がその人物なのか?といった推理の面白みもありますね。
 途中で作品の真相に気付く読者も多いかと思います。というのも、この作品、1971年発表ということで、後に同じテーマを扱った作品も多く作られているためです。ただ、そうしたテーマの先駆作という評価を割り引いても、充分に面白い作品になっているかと思います。

 1972年に、ロバート・マリガン監督『悪を呼ぶ少年』(脚本・製作総指揮はトマス・トライオン)として映画化されています。かなり原作に忠実に作られた作品で、こちらも傑作といっていい作品になっていました。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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