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秘められた暗合  イーディス・ネズビット『怪奇短編小説 翻訳選集』
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 イーディス・ネズビット『怪奇短編小説 翻訳選集』(井上舞訳)は、『砂の妖精』『宝さがしの子どもたち』など、主にファンタジー・童話作品で知られるイギリスの作家、イーディス・ネズビット(1858-1924)の怪奇短篇小説を集めた作品集です。

「セミ・デタッチドハウスの怪」
 恋人の女性と逢い引きするために、夜に出かけた男は待ちぼうけを食わされてしまい、彼女の家を訪れます。しかし家はドアが開いており、中はもぬけの空でした。不審に思った男性が家の中に恐る恐る上がってみると、ベッドの上に恋人の死体が転がっていました…。
 ふとしたことから恋人の死体を発見する男性ですが、実は…という物語。幻覚なのか予知なのか、不思議な暗合が描かれた作品です。

「報い」
 ある家に高価なダイヤモンドがあることを知った泥棒は、相棒を誘い、それを盗み出すことを計画します。一人忍び込んだ泥棒は、持ち主の娘をまず殺してしまおうと首を切りつけますが…。
 悪事を目論んだ男たちが、不幸な目に会うというショッキングな物語です。二人の泥棒の行動の顛末が意外に複雑で、ミステリ的な興味もある作品になっていますね。

「十七号室」
 ある宿屋で、男たちは怪談を語り合っていました。客の一人である身なりのいい小柄な男は、実際にあったこととして物語を語り出します。その宿屋では十七号室で首を切って男が死んで以来、その部屋に泊まった客が皆、同じように首を切って死んでいるというのです…。
 その部屋に泊まると、首を切って死んでしまうという、呪われた部屋の物語です。主人公がその部屋を避けようと隣の部屋に移るものの、中身の家具が隣の十七号室のものが移動されていることに気づくシーンはぞっとしますね。クライマックスの恐怖シーンも強烈です。
 主人公の友人の兄もその部屋で首を切って死んでいることが判明したり、ただのお話として聞いていたのが実は身近に危険が迫っていた…という趣向があったりと、物語の構成も気が利いています。

「暗闇」
 学生時代からの知り合いである「わたし」と友人ホールデン。共通の知り合いヴィスガーは、根拠も無く物事を断定することで嫌われていましたが、不思議なことに、その言葉の内容は、なぜかほとんど当たっていたのです。
 ホールデンに再会した「わたし」は彼が神経を病んでいるような様子を見て心配します。ホールデンによれば、ヴィスガーが漏らした言葉が原因となって彼の恋人は死んでしまったといいます。激昂したホールデンは、他人には知られないようヴィスガーを殺してしまったと言いますが、さらに死後も、ヴィスガーの死体がたびたび目の前に現れ、ホールデンを悩ませているというのです…。
 殺してしまった男の霊(?)に悩まされる男を描いた物語です。ただ殺したという友人ホールデンが精神を病んでいることが示されるため、本当にヴィスガーを殺したのかどうか最初ははっきりしません。ヴィスガーがホールデンには狂気の兆候があると発言したという言及があるのも、混乱を強めていますね。
 このヴィスガー、非常に奇妙なキャラクターで、何か超自然的な能力を持っているらしく、他人の運命や秘密などを次々と言い当ててしまうというのです。それだけに死んだ後も、友人に取り憑いたとしてもおかしくない、というところがポイントでしょうか。
 さらに、「わたし」も死んだホールデンの恋人を愛していたということが示されるなど、物語の背景にも複雑な関係性が見られるところも興味深いですね。
 ホールデンにせよ、ヴィスガーにせよ、その精神のありようが奇矯で不気味なこともあり、物語全体が不穏な空気感に支配されたユニークな作品になっています。

「幽霊屋敷」
 旧友ウィルドン・プライアーが幽霊屋敷の調査を広告しているのを見たデスモンドは、友人との再会を兼ねてその屋敷に出かけます。しかしその屋敷に滞在していたのは同じ名字の別の人物でした。旧友のおじだと名乗る男は、化学の実験に勤しんでいるというのです。
 プライアーは、デスモンドを歓待しますが、プライアー本人ばかりか、調査の助手だという男たちにも不審の念を拭えません…。
 古い言い伝えのある、幽霊が出るという屋敷。ムードたっぷりのオーソドックスなゴースト・ストーリーと思わせておいて、思いもかけない展開に。主人のプライアーのキャラクターと、そのぶっとんだ理論が面白いですね。
 マッドサイエンティストものというべきか、サイコ・スリラーというべきか、あまり見たことのない味わいの奇妙な味の怪奇小説です。ちょっと方向性は異なるのですが、アルジャーノン・ブラックウッドの怪奇短篇「秘書奇譚」を想起させる作品です。

「大理石の子ども」
 少年アーネストは、教会の水盤を支える大理石の子供の像に同情を抱いていました。ふと像が動き出すのを目撃したアーネストは、その後であった見知らぬ子供が大理石の像だったことを確信します。教会を訪れたアーネストは、像に自分のそばにいて友達になってほしいと願いますが…。
 像が動くのは少年の空想かと思いきや実は…。大理石の像に友愛の念を感じる少年を描いた、繊細な幻想作品です。
 ある種の「奇跡譚」とも読めるでしょうか。後年、アーネストが亡くなったであろう後に、事件について回想するという体裁の結末も味わいがありますね。

「ボルドーのミイラ」
 ネズビットのエッセイ「わたしが子どもだったころ」からの抜粋です。子供時代、家族で訪れたフランスのボルドーで教会の地下墓所に収められたミイラを見たことに関する恐怖と衝撃の様子が、鮮やかに描かれています。
 子ども時代のネズビットの繊細さと、想像力の豊かさも描かれていて、その点でも興味深い読み物になっています。

 本作品集、同人出版という形で刊行された本なのですが、秀作の集められた、良質な作品集です。単純な怪奇現象には止まらない「捻り」があったり、妙なブラック・ユーモアがあったりと、どれも読み応えのある怪奇作品が集められています。特に「十七号室」「暗闇」「幽霊屋敷」の三篇は、独特の味わいの怪奇作品で非常に面白いです。
 翻訳も読みやすく、お薦めしたい作品集となっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この本ってア○ゾンで出てこないのですが(図書館にもなし)
どこで読めるのでしょうか?
【2020/11/13 18:05】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
こちらの本は同人出版なので、いくつかのオンライン書店でのみ扱っています。
盛林堂書房やCAVA BOOKSなどで取り扱っていましたが、現在は在庫はないみたいですね。
初回が大変人気があって、今月になってから増刷したのですが、そちらもみな売り切れたみたいです。
上の二店舗をこまめにチェックしていたら、また入荷するかもしれないです。
【2020/11/13 18:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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